
2007年10月24日
本日ここにお招きいただいたことを大変光栄に思っています。日本記者クラブからお招きを受け、お話をさせていただくのは、これで3度目になります。光栄なことであるといつも感謝しております。昨今の重要な問題について述べさせていただくにふさわしい場所は記者クラブをおいてほかになく、これを名誉なことと考えます。
本日は、新たに形成されつつある地域の秩序や国際的な秩序、ならびに米国と日本が世界の平和と繁栄のために果たすべき役割について、私の考えを皆さまにお話したいと思っております。
今年3月にヘンリー・キッシンジャー博士が東京を訪れました。この時、キッシンジャー博士は、世界の重心がアジアへ移っていると述べました。私も博士と同感です。
今日世界の3大経済大国がアジアで密接に結びついています。世界の6大軍事大国の軍隊がアジアに存在しています。また世界の総人口の55%に当たる人々が、アジアで暮らしています。現代の私たちを取り巻くテロ、核の不拡散、貧困、エネルギー、環境といった問題は、アジアで最も重視されています。そして、自由、民主主義、自由市場という普遍的な価値を、アジアの未来における平和と繁栄に通じる道として、ますます多くのアジアの人々が求めるようになっています。いずれにせよ、アジアは台頭しており、米国と日本がアジアの未来に果たす役割は、大変重要なものとなるでしょう。
しかしながらアジア発のニュースは、必ずしも良いものばかりではありません。世界銀行の2001年の推定によると、1日2ドル以下で生活している世界中の人々のうち70%がアジアに住んでいました。実際の数は20億人に近づいており、そのうち7億人を超える人々が1日1ドル以下の生活をしています。多くのアジア諸国では、汚職がまん延しています。中国だけをとってみても、2003年6月から2007年6月までの間に、中国政府は約17万件の政府職員による公金横領、収賄、違法行為を起訴し、その結果約20万人の政府職員が投獄あるいは解雇されています。
日本や米国では当然とされている公衆衛生に関する問題も、アジアの大部分の国ではいまだに課題となっています。例えば、アジアでは毎年何百万もの人々が水系感染性で亡くなっています。また、コメを主食とする食事で十分なビタミンAを摂取できずに、毎年たくさんの人々が失明していますが、そのほとんどが子どもです。
また残念なことに、アジアは、大国同士が衝突する可能性が世界で唯一残っている地域です。朝鮮半島および台湾海峡においては、「8月の砲声」で描かれたような、核による大虐殺によって何億人もの犠牲者が出る、というシナリオが今でも存在しています。
ここ数年にわたり、アジア経済の花形プレーヤーである中国とインドは、アジアの経済成長から恩恵を受ける人の数を増加させるという、素晴らしい仕事をしてきました。中国だけでも、米国の全人口にほぼ匹敵する、約3億人の中流階級が誕生したと推定されています。しかしながらその一方で、まだ約10億人もの中国人が中流階級の豊かさを目指しています。
日本や米国は、多くの場合、中国の今後の繁栄をある程度必然と考えています。両国ともに中国経済が規模を拡大し、さらに好調になることを望んでいます。また、経済力が増大した結果、中国民の政治力が高まることも期待しています。さらに、日米両国は、中国の一般大衆の生活が今よりも豊かになることを望んでいます。しかし、中国の発展が必然と考えるべきではありません。収入のよい仕事を求める地方からの要求を満たすために、中国は当面の間、毎年1000万人の新規雇用を創出しなければなりません。世界で第14位の経済規模を持つオーストラリアの雇用総数が約975万人であると言えば、毎年1000万人という数がどれほど大きいかを分かっていただけると思います。つまり中国は、当面の間、毎年ひとつずつ新しいオーストラリアをつくり出さなければならないということです。
インドも地方からの同様の圧力に直面しており、その要求を満たすために毎年約1100万件の新規雇用を創出する、つまり、毎年ひとつずつ新しいオーストラリアをつくり出し、さらにそれに10%上乗せする必要があるということです。それは気の遠くなるような作業であり、アジア諸国の潜在能力がいかに高くても、経済のグローバル化という経済的な現実から逃れることはできません。
トム・フリードマンは「フラット化する世界(The World Is Flat)」という素晴しい著作で、本来ならもっと注目されてしかるべき興味深い事実を明らかにしています。1995年から2002年までの間に、米国は200万人の製造業の雇用を失いました。同じ時期に日本は製造業の雇用を175万人失っています。その失われた仕事はどうなったのかと米国人や日本人に聞いたら、「中国へ移った」という答えがきっと最初に返ってくると思います。一部の仕事は確かに中国へ移りましたが、興味深いことに、同じ時期に中国もやはり1500万人の製造業の雇用を失っているのです。古いタイプの仕事に必要な労働者の数がどんどん少なくなっていることは明らかです。中国とインドが長期的な成功を目指すなら単なる製造業の雇用ではなく、それ以上の仕事を創出しなければならなくなるでしょう。中国やインドの経済は、米国や日本のような先進国にある非製造業系の雇用を創出できるほど成熟する必要があります。
近年の中国やインドでの経済成長が何百万もの人々に希望を与えている一方で、環境に負担も与えています。今年中国は、経済規模が米国の5分の1にもかかわらず、二酸化炭素排出量で米国を上回り、世界第1位の排出国となりました。中国とインドでは大気汚染が危機的レベルに達しつつあります。例えば、今年8月にニューヨーク・タイムズ紙が、「2003年の中国国家環境計画院の非公開の内部報告によると、大気汚染により毎年30万人が死亡し…」、さらに11万人が「…室内の空気汚染により」死亡したと推計される、と報じています。また同じ記事の中で、中国の環境保護局が、「社会の安定」に悪影響を及ぼしかねないことを理由に、世界銀行の報告書から中国の衛生に関する統計を削除するように要求していることが書かれています。
環境に起きていることが、中国やインドだけでなく日本や米国に住んでいる人々に直接影響を及ぼすことは明らかです。地球のこの地域にいる人々が協力して活動することが、世界中の人々にとって重要になります。
それでは、日本と米国にとってアジアにおける長期的な戦略的関心とは何でしょうか。2点あると思います。私たちは、引き続きアジアの安定を支えると同時に、アジアが平和で繁栄的な方法で自らの問題を解決するための価値観を育まなければなりません。
米国は、アジアの将来の成功にとって欠かせない存在です。この地域の安定に貢献できる唯一の国としての役割を果たしています。米国の存在が無くなると、アジア、特に北東アジアはさらに危険な地域になるでしょう。さまざまな理由から、ほとんどの北東アジア諸国は、この地域で平和を維持するに当たり、米国に依存するようになっています。韓国と日本は、北朝鮮による攻撃を阻止するために米国に依存しています。台湾は米国が中国を抑えてくれることを期待していますし、中国は米国が台湾を抑えてくれることを期待しています。中国と韓国は、日本が独自の道を歩むより米国と同盟関係にあるほうが安心していられます。一方日本は、北朝鮮や台頭する中国に対抗する場合、米国の同盟国でいる方がはるかに安心していられます。また日本は、米国と同盟関係にある韓国の方が、独自の道を歩む韓国より、脅威を感じずにすむと考えています。これらの関係すべてに共通するテーマは同じで、米国がアジアに関与している限り、地域の平和は保たれるということです。
しかし米国と日本は、単なるアジアの安定をはるかに超えたものをもたらすことができます。個人の人生を変えたり、希望が憎悪を打ち負かすような、普遍的価値観を育てることができます。そして、アジアの人々が対立ではなく協力を推し進めるような地域の秩序を構築する手助けができるのです。
今、アジア、とりわけ北東アジアは過渡期にあります。古い秩序が変化しつつあり、これが終わったときにどのように落ち着くのか、誰にも確かなことは分かりません。かつて中国と日本が同時に大国であったことは一度もありませんし、どちらの国も、このような時が来ることが、両国の共通利益にかなうという考えを完全に受け入れているようには見えません。両国がお互いに疑念を抱き、時には恐れを抱くことさえあります。米国は、自らがなすべきことを理解すれば、日中両国間の緊張を緩和する非常に有益な役割を果たすことができます。中国あるいは日本が国際社会の主流から孤立することは、誰の利益にもなりません。むしろ私たちは、日中それぞれの国が平和な世界を築くために貴重な貢献ができると認識しています。しかし、どちらの国と関係を進めるにしても、そのやり方には慎重を要します。
私の出身地のテキサス州には、「新しい友人と引き換えに古い友人を捨ててはならない。そんなことをすると、結局友人は誰もいなくなる」という格言があります。けれども、今の日本には、このようなことが起きるのではないかという、不安や懸念が広がっています。多くの日本人が、米国は中国との新しい友好関係と引き換えに、古くからの日本との友情を捨てようとしているのではないかと心配しているようです。米国は、自国にとっての日本の戦略的な重要性を承知しておりますから、そのようなことは起こりません。
第2次世界大戦が終結して以来、米国は、自国の安全保障が日本の安全保障と密接不可分であると承知してきました。中国が台頭してきても、その結論を揺るがすようなことは何も起きていません。日米同盟が強固である限りアジアは平穏です。しかし万一日本が米国への信頼を失ったり、米国は日本の利益を犠牲にして中国の利益になるように動いている、と断定したら、アジアは直ちに、日本にとっても米国にとっても一層危険な地域と化してしまいます。私たちにはそれが分かっていますし、それを避けるためにあらゆる方策を講じるつもりです。
しかし、米国がアジアで外交政策を展開するに当たり、ヨーロッパで取った方法と全く同じことはできないと理解する必要があります。
国民国家の創出以来、ヨーロッパ人は何世代にもわたって、どうすれば国家間で利益の均衡を図ることができるかを考えてきました。こうした横の権力分担がヨーロッパの外交政策の中心となり、国際秩序の重心となりました。英国の外交政策は、ヨーロッパ大陸ではひとつの国家が支配的になるべきではないとの考えを基本としていました。フランスとロシアの外交政策は常に、ドイツの野心を抑制する手段として、ドイツが2面戦争に対処しなければならない状況になることを常に望んでいました。ドイツは逆の立場から、包囲されることを避けようとしました。どの国家も、ヨーロッパ内での、そして世界のほかの国に対する自国の立場を強化する手段として、他国を見ていました。現在は、欧州連合の出現とソビエト連邦の崩壊によって、そうした状況がすべて変わっています。しかし、国家間の利益の均衡を図るという文化は変わっていません。
米国は、ヨーロッパの鏡に映った自分の姿を見ながら、大国として成長してきました。米国の外交政策は、おおむねヨーロッパ中心主義でした。その結果、私たちは世界をヨーロッパの観点で見ることが多く、ヨーロッパ式の均衡を求めてきました。端的に言えば、それはアジアの国々にとっては非常に異質な概念です。アジアでは権力が横に共有されることはなく、権力に対する考え方は縦の関係に基づいています。上に立つ者があれば、誰かが下になるのです。
ヨーロッパでは均衡、アジアではヒエラルキーなのです。最も強いものが最上位に立ち、以下力の順に並び、最も弱いものが下になります。誰かが上に行くために必ずしもほかの者が後退する必要はないという考え方に、アジアは慣れる必要があります。米国の大衆文化でよく使われる「win-win situation(双方が得をする状況)」という言葉は、米国人がそれによって表現しようとしている概念を表す言葉が中国語、日本語、あるいは韓国語に存在しないため、これらの言語の翻訳者泣かせであると聞いたことがあります。ちょっと面白い話ですが、それだけではなく示唆に富む話でもあります。結果的に、「win-win」という英語のフレーズがそのままこの3つの言語に取り入れられました。米国は、世界のこの地域で行動を起こすに当たり、ヨーロッパ的あるいはアジア的のいずれでもなく、ユーラシア的な複合的外交政策を展開しなければなりません。
米国ができることのひとつに、多国間で問題に対処することの利点について同盟国や友好国に伝えるということがあります。戦後、米国のアジアにおける外交政策は概して、ハブ・アンド・スポーク方式を採用して成功を収めてきました。米国は、友好国や同盟国との間で、多国間協力に依存することがない良好な2国間関係を築いてきました。これまではそのような政策がうまく機能してきましたが、今、米国の友好国や同盟国同士の協力を強化するように働きかける時期が来ています。その良い例として、日本、米国、オーストラリアが、3カ国間の戦略的対話を行って成功を収めたことを挙げることができます。私たちは定期的に会合を開催して、この3カ国が、太平洋地域において同じような成果を求め、これを実現したいという願いを共有している重要な民主主義国であることを示してきました。米国の同盟国や友好国が協力することは、私たちすべての利益となる提案です。また中国に脅威を与えない考え方でもあります。
米国には中国を封じ込める意図はなく、中国の影響力が建設的かつ生産的に認められるような新たな国際秩序の中に中国を組み込もうとしているだけだということを、常に中国に伝え続けなければなりません。ロバート・ゼーリック前国務副長官が好んで使った言い回しに、中国が国際秩序の中で「責任ある利害関係者」となるために手を貸す必要がある、というものがあります。彼は正しかったのです。中国は、法の支配、貿易の自由化、および平和な世界の安定から恩恵を受けています。ですから、そうしたシステムを可能にする国際秩序を支援すべきです。中国は、新しい国際秩序の大勢に逆らう者にとっての最後の希望の星になってはいけないのです。悪行の常習犯が、正当とはいえない理由で、世界の平和と安定を危険にさらし続けることからは、誰も利益を受けません。中国が大国としての地位と同時にその責任をも受け入れることは、中国にとっても、日本にとっても、米国にとっても、そして世界にとっても利益となります。そうすれば、中国の影響力は増大するばかりでなく、国際社会からも大いに歓迎されるでしょう。
また私たちは、米国と他のアジア諸国との友好関係が発展しても、日米の2国間関係が悪影響を受けることはない、と言って日本人を安心させる必要があります。英国と欧州連合の関係が発展しても米国と英国の特別な関係が継続しているように、それぞれが他の国との関係を強めていく中でも、米国と日本の関係は引き続き深まっていくに違いありません。事実、米国と2国間関係を持つ友好国・同盟国が、ほかの志を同じくする国々を相手にすることによって、米国との特別な関係が危険にさらされるのではなく、むしろ深まると信じるときに、多国間関係全体が発展する可能性が最も高まります。
またもうひとつ心に留めておかなければならないことがあります。第2次世界大戦後の日本経済の成功を、当然のことと思ってはならないということです。米国人は頻繁に中国に目を向け、中国が将来の成長力にどんな貢献ができるかについて語っていますが、今日日本が私たちの繁栄に既に及ぼしている影響を見過ごしてはいけません。
日本は米国にとって海外における最大の農産物市場であり、最大の航空市場でもあります。米国の保険企業が日本から得る保険料収入は、年間500億ドルを超えています。米国を訪れる旅行者が最も多い国のひとつは日本です。これまでに何十万もの日本人留学生が、大学教育を受けるために米国にやって来ています。トヨタは、テキサス・インスツルメンツやシスコシステムズよりも多くの米国人を雇用しています。調査によると、日本人が最も好感を持っている外国人は米国人です。世界中の国際的な討論の場で、私たち米国人を尊敬し支持してくださるのは日本人です。日米だけで世界の国内総生産の40%を生産しています。日米の経済の統合がさらに進めば、それぞれの国民のためにさらに多くの雇用が創出されるでしょう。第2次世界大戦後の悲惨な時期以降、日本が米国に示してきた友情を、私たちは決して忘れたり、当たり前だと思ってはいけません。日本人は素晴らしい国民であり、私たちの良き友人です。私たちはその友情に感謝することを忘れてはいけないと思います。
米国は、日本が国際問題で発言力を強めたいと望んでいることを歓迎しています。だからこそ米国は、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になる資格があると言ってきました。しかし国際社会でリーダーシップを取るには、強い発言力以上のことが求められます。現在多くの国の艦船がインド洋において、戦闘員、密輸品、麻薬、武器などがテロリストの手に渡らないようにするための、国連が承認した活動に従事しています。こうしたテロリストは、2001年9月11日の朝に、24人の日本人の命を奪ったように、あらゆる国の罪のない一般市民を殺してしまうかもしれません。過去6年で、こうした艦船に乗り組んでいる船員が、テロ活動が疑われる船舶に乗り込んで検査を行った件数は1万2000件を超えました。彼らは毎回、私たち皆のために命を賭けて任務を遂行したのです。日本も、こうした船員たちを輸送する艦船に燃料の一部を補給することによって、その活動に貢献してきました。日本は今、その活動を継続するか、他国にその職務を委ねるかの決断をしなければなりません。
どのような結論が出ようと、米国が常に日本と協力することは変わりません。しかしながら、日本の皆さんには、テロの打倒は米国だけの責任ではないということを理解していただきたいと思います。国籍を問わず世界中の罪の無い市民の命を奪うことを目的に行われる航空機のハイジャック、自動車爆弾の爆発、自爆犯への武器の供給などを阻止するために、国際社会全体がそれぞれの責任を果たさなければなりません。テロは現代の災いの元凶です。それを打倒することによって、皆が利益を受けることができます。
米国は日本に敬意を払っています。日本は60年以上もの間、国際社会の模範市民であったと思います。だからこそ、日米それぞれの援助プログラムを調整して、それぞれが世界の貧困と病気の削減により大きな影響を与えることができるようにしたいと考えています。だからこそ、21世紀の安全保障に対する脅威に対抗する準備をするために軍の再編を行って、日米同盟をさらに強固にしたいと考えています。
小泉元首相は、日米関係が緊密になりすぎることはない、とよく語っていました。それは事実です。国際秩序は、再定義の過程にあります。アジアの秩序も、再定義の過程にあります。アジアと世界は、危険な場所になる可能性があります。米国と日本の間に隔たりをつくっている場合ではありません。
日本と米国は世界における戦略的利益を共有しています。私たちは共に、法の支配を支持し、財産権を保護し、自由貿易および自由な市場を推進し、そしてとりわけ、人間の最も悪いところではなく、最も良いところを引き出すような不変的価値観を育む国際秩序から恩恵を受けています。
日本と米国は、第2次世界大戦の荒廃の後、多くのことを成し遂げてきました。世界の2大経済大国を築き、アジアが約束とチャンスの場所へと変ぼうするために力を貸してきました。私たちは、協力してこれらのことをやり遂げてきました。アジアと世界には、まだやらなければならないことが山積しており、そのためには協力することが最も有効な方法です。日米両国民は、威厳と尊敬を持って多くの人々に食料と衣服を提供できるほど繁栄した、平和な世界を築くという同じ目的を持っています。米国にとって日本に勝るパートナーはなく、日本にとって米国に勝るパートナーもまたありません。これまでに多くの人々が私たちに差し示してきた道を、これからも歩んで行きましょう。目的地には、別々ではなく一緒に到達しなければならないことを自覚しましょう。
質疑応答
問 シーファー大使、どうもありがとうございます。アジア全域にどのようなことが起きようとしているのでしょうか。米国はどのような形でアジアとかかわっていくつもりでしょうか。日米2国間の同盟はどれほど重要でしょうか。それから、インド洋での日本の給油活動の打ち切りについて言及されましたが、日本では今、艦船への給油について、日本が提供した燃料がイラク戦争に使われたのではないかという疑惑が広がっています。国連決議がなかったため、今国会では与野党間で激しい議論が行われています。米国国防総省は、燃料がイラク戦争に使われたことを否定していますが、そう言いながら明確な証拠は示していません。このような証拠や燃料の追跡結果を示すことは非常に困難だと説明しています。けれども、明らかな証拠や追跡結果があれば、日本国民の説得も容易になったと思います。証拠がないと日本国民の説得は難しいでしょう。そこで私の最初の質問は、状況、つまりイラク戦争へ燃料供給はしていないということを、さらに明らかにすることはできないのでしょうか。
シーファー大使 米国が燃料をイラクに転用していないことを今一度断言させていただきたいと思います。この主張の根拠として、私の考えを2、3述べさせていただきます。第1に、米国は日本に対し、イラク向けの燃料を要求していません。それは私たち自身でできることです。第2に、何が起きたのかですが、私たちは(日本が給油した)燃料の追跡調査を行い、その燃料がイラクで使われていなかったことを証明したと考えています。日本が補給した燃料を受け取ったすべての艦船、米国が日本から受け取った燃料を米国から受け取ったすべての艦船は、「不朽の自由作戦(OEF)」に参加しました。これはアフガニスタンでの作戦です。日本が補給した燃料をこれらの船に給油したのです。日本の一部の人が取り上げようとしている問題、特徴付けようとしていることは、燃料の受け取り方です。OEFに直接携わっている艦船が日本の補給艦から直接給油を受ける場合、その関係性は明白です。しかし、時には、米国の補給艦が日本の補給艦から燃料を受け取り、さらに米国やほかの国からも燃料を受け取ることもあります。
私たちは、受け取ったすべての燃料、つまり日本から給油された燃料の全量が、OEFに参加する艦船に給油されたことを確認しました。(日本から)受け取った燃料は、ほかの場所で受け取った燃料と別のタンクに入れるわけではありません。しかし、日本から受け取った燃料の量は分かっており、その量がOEFに参加する艦船に補給されたことを十分に実証しました。
イラク戦争が始まるまでは、日本はOEFに使われる燃料の20パーセント弱を供給していました。イラク戦争開始後は、同作戦で使用する燃料の7パーセント強を提供しました。OEFに使われる石油をすべて日本が供給しているのではありませんが、私たちは日本が提供してくれた燃料に感謝しています。そしてそれについて十分な説明をしたと思っています。日本の海上自衛隊の自衛官に、(日本からの)燃料がOEFに参加する艦船に給油されることを確認してもらっています。米国側も確認しております。双方が合意を順守してきたと信じています。私たちがどのような情報を提供しようと、政治的な理由でこの活動を止めたいがために、その説明に満足しない人がいるということを、いずれかの時点でいずれかの側が認識する必要があります。この状況を正すために米国に何ができるのかは、私には分かりません。
問 どうもありがとうございました。今話していただいた詳細については、日本政府にも説明されたと思いますが、防衛大臣をはじめ日本政府が同じ質問についてわれわれに答えるときに、これほどの説得力を持って答えておりません。防衛大臣の説明はわれわれをはじめ一般国民には十分に納得のいくものではありません。もし文書に基づくさらに明確な質問があり、米国政府から十分な説明があれば、防衛大臣の説明ももっと説得力があったと思います。日本政府は米国の説明に十分納得していると思われますか。
シーファー大使 日本政府に説得力があるかどうかはあなたがたが判断すべきだと思います。私は日本政府が十分説得力を持っていると思いますし、米国政府が十分な情報を提供したと日本政府に納得してもらっていることを願います。すべてとても透明です。何も隠すつもりはありません。しかし、この問題に関する米国側の説明に引き続き疑問が投げ掛けられていることは、少し困ったことです。私たちは十分な情報を提供したと考えており、今後も情報の提供は続けていきます。しかし、いずれ私たちが事実を語っているかどうかについて判断しなければならない時期がきます。これは米国民に対する信用の問題で、米国民は日本から受け取った燃料をイラクに転用しないということを日本側と合意しており、私たちはその合意を尊重しております。
問 ありがとうございます。このままでいけば日本によるインド洋での補給は11月2日で打ち切りとなります。日本が補給活動を継続することは、確かに米国だけでなく世界全体の利益にかかわる問題ですが、もし日本が補給活動を停止したら、それがどんな影響や結果を引き起こすと思われますか。国際社会はこれをどのように受け止めるでしょうか。そして、大使が強調されたように、日米同盟にどのような影響が及ぶでしょうか。両国の関係がどの程度後退するでしょうか。
シーファー大使 まず最初に、これは米国と日本だけの問題ではないとおっしゃいましたが、その考えはまさに正しいと思います。これが国際社会全体にかかわる問題であるといえるのは、国際社会が日本から燃料の補給を受け、テロとの戦いに使っているからです。ですからもし日本がこの活動を永久に停止したら、国際社会とテロリストに対して非常に好ましくないメッセージを送ることになると思います。なぜならそれは、日本が理由のいかんにかかわらず、テロとの戦いから手を引こうとしていることを意味するからです。そうならないことを私は希望しています。テロとの戦いに参加し続けることが日本にとって重要だと考えます。それは、日本はそうすることに利害関係があるからです。
9月11日に、24人の日本人の命が奪われました。彼らが犯した唯一の過ちはあの日の朝、生活のために仕事に出かけこと、あの日、最善を尽くそうとしたことだけです。それなのに、テロリストのグループが飛行機をハイジャックして世界貿易センターに突入したため、同じようにそれに巻き込まれた世界中のさまざまな国々の人たちとともに殺されてしまったのです。これによって、テロは単に米国の問題ではなく、世界全体の問題になったのです。私たちがテロの脅威と戦って勝つためには、世界全体がその過程を支援しなければなりません。そして日本も支援を継続し、テロリストを打倒するために努力し続けていただきたいと思います。
問 福田首相が就任以来初めて、11月中旬に訪米します。両国の関係は重要で、重視されなければならないのは言うまでもありませんが、普天間基地あるいは「慰安婦」問題、給油活動の中止など緊迫した問題もいくつかあります。日米2国間には相当な問題があるという見方をする人々もおりますが、福田首相は米国を訪問することを決意しました。この訪米は米国側ではどのように受け止められるでしょうか。11月中旬の首脳会談で話し合われる緊急の重要事項は何だと思われますか。首相の訪米に米国側は何を期待しておられますか。
シーファー大使 第1に、福田首相の訪米がいつであろうと米国がそれを歓迎することに変わりはありません。ブッシュ大統領は、日米が直面している戦略的問題について福田首相と話し合う機会を大いに心待ちにしているはずです。大統領は日米同盟を非常に重要視しています。この同盟が世界のこの地域での米国外交政策の要であり、しかも米国の安全保障の中枢であること認識しています。ですから、その同盟関係に影響を及ぼしうるさまざまな問題について、福田首相と議論したいと考えると思います。また大統領は、福田首相がこの地域における豊富な経験をお持ちであることを承知しております。福田首相は優れた外交手腕をお持ちです。また首相のお父上も首相であられたと同時に、その外交手腕も高く評価されていました。大統領は首相と個人的な関係を結び、両国の関係にかかわるさまざまな問題について話し合いができるのを楽しみにしています。必ず最初に話し合わなければならないという問題はないと思います。両首脳はさまざまな問題について話し合うと思います。
問 先日、大使は民主党の小沢代表と会談されました。小沢代表は国連決議が無いことについて触れました。別の言い方をすれば、国連決議があれば日本も参加できる、しかし国連決議がなければ日本は参加できないと言いました。この点について、小沢代表は極めて明確で厳密な原則を持っています。現在日本の参議院は野党が過半数を占めていますから、小沢代表は大変大きな影響力を持っています。そこでシーファー大使に伺いますが、小沢代表のこの厳密な原則についてどう思われますか。
シーファー大使 小沢代表と私では、何をもって国連決議とするかという点で意見が異なっています。なぜなら国連決議は、極めて初期に採択されたものから、わずか数週間前に安保理で採択された、先ほど話に出たOEFそのものを承認する国連決議1776まで、実に多数の決議があるからです。3月には、初期の決議を承認した決議も採択されました。ですから小沢代表がそこの活動に対し国連決議が無いと言われるなら、その点については同意しかねます。決議はあると思います。
問 現在参議院は民主党が主導権を握っていますが、衆議院では与党が過半数を占めています。それを両院のねじれ現象と呼んでいますが、日本ではこのような政治情勢はかつてありませんでした。しかし、米国では大統領が属す政党と、下院の過半数を占めている政党は違います。また、例えばフランスでは、大統領の政党と首相の政党が異なっています。つまり日本以外では特に珍しいことではないようです。この日本の現状をどうお考えですか。私たちよりこのような状態に慣れていらっしゃる大使は、首相が所属する政党とは違う党が国会の一方の院を支配していることをどう思われますか。
シーファー大使 日本の憲法と米国の憲法には大きな違いがあり、恐らく上下院のうち少なくとも1院を大統領と違う政党が支配している状況で政権を運営することは、米国でのほうが容易なのではないかと思います。残念ながらこの点に関して私からアドバイスできることはないと思います。日本にとっては経験のないことでしょうが、日本の皆さまがうまく対処することを願っています。私はこの状況に慣れつつありますが、この新しい政治情勢にどう対応するかは日本人自身が決めていくことだと思います。
問 北朝鮮と拉致について伺います。シーファー大使は就任されて以来、拉致問題解決に熱心に取り組んでこられました。新潟県の拉致現場にも行かれました。大使はブッシュ大統領に助言もされたようです。横田早紀江さんと大統領との会談が実現したのも、主に大使の陰の努力が功を奏したものと確信しております。そうした中で今日本で心配されているのは、これまでは日米対北朝鮮という関係だったものが、徐々に北朝鮮と米国との接触がより深さと強さを増しているように見受けられ、やがて日本が取り残されていくのではないか、つまり拉致問題が置き去りにされてしまうのではないかということです。そういう懸念が日本で生じています。全体の中で、核問題その他を含む包括的な解決が行われるべきです。しかし米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除してしまうと、そういうことは間もなく起きるでしょう。そうした中で、拉致問題に対してはどのような立場を取るのでしょうか。米国の拉致問題に対する姿勢は変化したのでしょうか。
シーファー大使 私は米国の拉致問題に対する姿勢が変わったとは思いません。私たちが最初から言ってきたのは、北朝鮮が国際社会の主流に戻るためには拉致問題で実質的進展がなくてはならないということです。またそうなることを望んでおります。北朝鮮と継続している交渉は大変大きな意味を持っています。日本、米国、そして6者協議のほかの参加国にとっても大変に重要です。なぜなら朝鮮半島の核兵器は、地域の安定を揺るがす大きな要素となるからです。それが原因で、韓国や日本が核保有を考慮しなければならなくなるような圧力が強まりかねません。私たちはそうならないことを願っています。核兵器のない朝鮮半島を望んでおり、それが究極の目標です。そこに至る道のりははるかに遠いのですが、ここ数週間で一定の進展があり、今後どう展開するかを見届ける必要があると思います。
しかし、私の考えでは米国と日本がこの問題で袂を分かつようになるとは思いません。共に問題を解決する方法を見つけていくことができると思います。なぜなら私たちが直面している最も重要な問題は、北朝鮮が核兵器を保有しようとしているということだと、両国が考えていると思うからです。その他の問題も大変重要で、北朝鮮が国際社会の仲間入りを目指すのであれば最終的には解決しなければならない一連の課題のひとつだと思います。
私たちは北朝鮮が国際社会の仲間入りをすることを望んでいますが、リビアでの経験を、そういうことが実際に起こり得る1例として挙げたいと思います。今やリビアは、国連安保理の理事を務めようとしています。5年前、10年前、あるいは15年か20年前にはそんな可能性は誰も信じなかったでしょう。しかりリビアは自国の政策を変え、国際社会の一員に復帰することを希望し、ならず者国家ではなく国際社会の一員としての待遇を受ける決心をしました。それがリビアの選択であり、その時私たちはリビアに向かって門戸が開放されるように手助けをしました。北朝鮮と日本の関係も同じような状況にあると思います。もし北朝鮮が再び国際秩序に同調し責任ある国家として行動する用意があるなら、私たちも北朝鮮を手助けする準備があります。
問 やや個人的な質問ですが、以前は大使は民主党だったと記憶していますが、現在はどの党に属していらっしゃいますか。
シーファー大使 今でも民主党です。私はずっと変わらず民主党員です。私はジョージ・ブッシュがテキサス州知事に立候補したときも、大統領に立候補したときもジョージ・ブッシュを支持する民主党員でした。日本の一部の方々にとっては理解が難しい概念だと思いますし、オーストラリアの一部の人にとっても理解しにくい概念のようでしたが、大統領と所属政党が異なる私がどうして駐オーストラリア大使や駐日大使になったのか、ということです。
それを最も簡単に説明すると、米国には、特に外交政策に関して、超党派で職務を遂行する長い伝統があると思います。海外でいつも友人に思い出してもらうことなのですが、第2次世界大戦の最中にルーズベルト大統領の陸軍長官と海軍長官を務めた2人、現在では統合されて国防長官となっているこの職務を務めた2人は共に共和党員でしたが、民主党政権で忠実に国に仕えました。私もその伝統に従い、私が所属する政党にとって必ずしも最善でなくとも、国家にとって最善であることを行いたいと考えています。
問 このような質問をしたのは理由があります。米国では大統領選挙が控えており、その候補の中にヒラリー・クリントン氏とバラク・オバマ氏がいます。この2人は大統領候補として党から指名を受けるべく戦っておりますが、シーファー大使はヒラリー・クリントン氏とオバマ氏のどちらを支持されますか。これをお聞きしたかったので先ほどの質問で、大使の所属政党をを確認させていただきました。
シーファー大使 その質問に答えるチャンスをいただいたことを感謝します。今は日本での日々の職務で手一杯なので、誰を大統領候補に指名するかは民主党と共和党にそれぞれ任せておこうと思います。その後で誰に投票するかを決めたいと思っています。
問 ありがとうございます。毎日新聞の吉富と申します。きょうはお越しいただき、ありがとうございました。最初に安倍前首相の辞任について質問いたします。辞任を表明したとき、安倍首相は、首相自身が辞任することで、国会での行き詰まり、特にテロ対策特別措置法をめぐるこう着状態を打開したいと述べました。安倍首相は、自分が辞任することでこの問題が解決するかもしれないと言いました。現状から判断して、安倍首相の辞任が多少でも状況解決、あるいは日米の2国間関係に役立ったと思われますか。あるいは辞任は大きな損失だったでしょうか。それがひとつ目の質問で、他にもう2つ質問があります。
2番めの質問は、先ほども来る大統領選挙に関する話がありましたが、クリントン上院議員がフォーリン・アフェアーズ誌上で、中国と米国の関係を重視すると書いておりました。大使が先ほどおっしゃったように、米中関係と日中関係があり、この2つの2国間関係は選挙結果に左右されないと思う、とおっしゃいました。そう思われますか。
質問の3番めはミャンマーについてです。ミャンマーの民主化が求められています。日本はミャンマーに対する制裁を強化するべきでしょうか。タイにはミャンマーからの難民がおりますが、日本政府は難民の第3国定住を受け入れるべきでしょうか。ありがとうございます。
シーファー大使 これは私の丸1日分の仕事に相当する質問ですね。安倍前首相は米国にとって素晴らしい友人でした。日米同盟の重要性を信じておられ、お辞めになったときには個人的に深い同情を禁じえませんでした。しかしながら、日米関係は個々の指導者の問題に留まりません。両国の利害関係は互いに大変密接に結び付いているので、1人の首相から別の首相へと政権が変わっても存続すると思います。それはまた米国側も同様で、クリントン上院議員がその夫君であるクリントン前大統領が政権にあるときに中国との間に築いた関係について語ったときも同じことを意味したと思います。日本について共和党の政策、民主党の政策というものは無いと思います。中国についても、共和党の政策、民主党の政策というものも無いと思います。私は米国人に共通しているのは、アジアとかかわりを持ち、アジアで存在感を持たなければならないという見方だと思います。そしてアジアで存在感を持つということは、アジアに居るということになります。まず最初にすることは、日米同盟が強固であることを確認することです。なぜなら、日米関係が強固であればその他のことは自然に収まるところに収まるからです。しかし万一同盟が弱体化したら、世界におけるこの地域で外交政策を遂行する能力全体が低下すると思います。従って、世界におけるこの地域に対する政策は、共和党と民主党で極端に違わないと思います。
ビルマに関しては、米国は国際社会全体が、ビルマに民主主義が育ち発展するためにできることを行わなければいけないと強く感じています。数日前にビルマで起きたことは実に恐ろしいことです。市民権を守るためのデモ行為に対して政府が取った行動によって、路上で人々が死んでいくのをご覧になったと思います。誠に不幸なことで、日本をはじめすべての国々が、この状況を改善するため、またビルマの人々の苦難を緩和するためにできるだけのことを行って欲しいと思います。
日本が難民をもっと受け入れるべきか、などの点についてですが、それは日本の人々が決めるべきで、私たちは関心を持って動向を見守りたいと思います。
問 サム・ジェームソンです。以前ロサンゼルス・タイムズにおりました。先ほどさまざまな話題を網羅したスピーチをしていただきましたが、大使が当記者クラブで昨年10月27日に講演したときに触れたある問題については、今回お話をされませんでした。
シーファー大使 以前に私が話したこと(のテキスト)を読んではいけませんね。
問 2006年には、日本に向けて発射されたミサイルではなく、米国に向けて発射したミサイルが日本の上空を通過した場合、日本はどうするか、という質問がありました。大使はその時、その質問に対する答えは日米同盟の機能と将来にとって非常に重大であるとおっしゃいました。本日はそれについて何もおっしゃいませんでしたが、その問題は無くなったのでしょうか。
シーファー大使 いいえ、サム、問題は無くなっていません。ミサイル防衛は私たちが将来共同で行うことの中心をなすものになるでしょう。そしてそれを厳密にどう機能させるかを考え出さなくてはなりません。情報をどのように共有するか、どのような指揮系統を構築するかなど、まだまだたくさんの仕事をこなさなければなりません。これらの問題はきわめて重要で、しかも複雑です。現在、これらの問題に取り組んでいますが、まだ解決されていません。しかし米国の外交政策、日本の外交政策、日本の安全保障、米国の安全保障の効力にとって重要なので、いずれは解決されることを望んでいます。
問 朝日新聞の宮沢です。先ほどインド洋での補給に関する議論がありましたが、私はイラクについてお尋ねしたいと思います。イラクに派遣された陸上自衛隊は引き揚げてきました。航空自衛隊はまだイラクに残っています。先日、民主党が航空自衛隊の撤退について議論することを提案し、法案が提出されました。もし自衛隊が完全に引き揚げたら、日米同盟に影響があるでしょうか。あるのならば、どのような影響でしょうか。米国では民主党が米軍のイラクからの撤退を求めているので、航空自衛隊の撤退について考えるときには、米国の国内政策と政治状況とを念頭に置くべきだと思います。日本の自衛隊が引き揚げたら、2国間関係に対しどのような影響があり、国際社会に対しどのようなメッセージが発せられることになるでしょうか。
シーファー大使 日本がイラクから自衛隊を撤退させる決定を下したら、それは残念なことだと思います。日本はC-130輸送機をイラクに飛ばしており、その活動には大変感謝しています。私たちはこれを、日本がイラクの平和構築のために行っている貢献と認識しています。私たちは引き続き、中東の安定を達成するためには、イラクが最も重要であると考えています。もしイラクに民主主義政府を根付かせ、育て、その政府が市民や国境での主権を守ることができ、雇用を創出し、ほかの中東諸国に対する模範となれたら、イラクだけでなく中東全体を変える効果があります。それだけ価値のある結果を出すまでには何年も要しますが、私たちは達成できると思っています。
イラク情勢は「増派」作戦が実行されて以降、多少安定してきました。一部の米国人のイラク情勢に対する態度には、これが反映されていると思います。多くの米国人がイラクからの撤退を望んでいることは間違いありません。しかし私はそれを上回る数の米国民が、無謀なイラク撤退は地域全体に大きな影響を及ぼすことを理解していると思いますし、これこそあなた方がするべきこと、つまり、イラクに参加するかしないかを議論する場合は誰もが熟慮しなければならないことだと思います。日本は石油の90%を中東から輸入しています。イラクが…イラク政府が崩壊して混迷の状態に陥ったならば、日本にとって何の利益にもならないと思います。そんなことになったら、イラクで大勢の人が殺されることになります。これは誰の利益にもなりません。だからといってそれが困難ではないと言っているのではありません。難しいことではないと言っているわけでもありません。米国が過去に過ちを犯さなかったとも言っていません。しかし、決めたことは最後までやり抜かなければならず、イラクが民主的なプロセスを採用する国際社会の真の一員となり普通の国家に戻ることができるよう、十分な時間的余裕を与えるためにできることはすべて行うべきだ、と今の政権は考えていると思います。私たちはまだそこまでは至っていません。そうなるにはまだ時間がかかるでしょうが、これを実現するために日本やその他の国から受けているすべての支援には心から感謝しております。
問 フリーランスの記者で内藤と申します。2つ質問があります。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)危機について伺います。米国は経済分野の覇者でもあります。その観点から見ると、銀行が所有している他の不良資産があります。銀行の経営が悪化して、こうした資産が不良資産となったにもかかわらず、そのような資産を証券化して、別の債権者に売却、再売却しています。いわば米国の銀行はいわば細菌をまき散らし、米国の一部の金融機関によって世界の金融秩序が乱され、世界中で危機を引き起こしたのです。米国政府はこれを抑制する政策を取れなかったのでしょうか。何か対策は考慮されているのでしょうか。もちろん、自由市場経済ですから、このような事態は時々起きますが、これは自由放任主義ということですか。米国の金融機関が不良資産を証券化したために世界の金融秩序が不安定となり、米国の金融機関が不良資産を証券化し、格付け会社が適切な格付けを行わなかったために不安が高まっている、という状況を抑制して均衡をとる政策を、米国政府は取らないのでしょうか。格付け会社の格付けが甘く寛大過ぎたためこのような危機を招いたのですが、米国ではこのような行為に対し何らかの抑制政策はないのでしょうか。先日ワシントンで先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が開催されました。そのG7では説得力のある政策は何も発表されませんでした。私たちは皆大変失望いたしました。市場は株価を下げて反応しました。この状況に対して、米国はどのように責任を取りますか。この状況を抑える政策を今後取るとすれば、それはどのようなものでしょうか。
2番目の質問は、今朝(イラクで)、米国のヘリコプターが過激派の拠点があると考えて攻撃を行った結果、11人のイラク人が殺されました。メディアによるとそのうちの5人が女性で、子どもが1人含まれていたということです。(日本書紀という)日本の古い歴史書に、「返し矢は恐るべし(矢を射るときは十分に注意しなければ自分に返って来る)」というものがあり、旧約聖書でも他者を攻撃したら、報復攻撃を恐れなければならないという教えがあります。イラクで1人殺されたら、復讐(ふくしゅう)する可能性がある家族は10人いると考えられます。人が殺されたことにより、残された人たちの苦悩と復讐心は増幅していきます。今、目の前で展開しているイラク情勢は、泥沼状態であるといわざるを得ないでしょう。少なくとも日本人の目にはそのように映っています。どうすればこの状況から脱することができるのでしょうか。米国はどのような手を打つことになりますか。いつになれば米国はイラクの泥沼を解決できると思いますか。大使のご見解を伺えれば幸いです。ありがとうございます。
シーファー大使 サブプライムローンの状況について、ポールソン財務長官が市場の懸念を解消できるような包括的対策案をまとめると言っていると思います。ヘリコプターによる攻撃の件については、私たちは戦時下にあるのです。今朝起きた事故について具体的な状況は承知しておりません。今初めて聞きました。しかし罪のない人が殺される可能性があるという事実を、決して軽々しく考えていませんし、このようなことを防ぐためにできることはすべて行っています。それで絶対大丈夫でしょうか。いいえ、そうではありません。しかし戦争では時に起きることであり、私たちはそのような事態が起きる可能性を低くするために、そうならないよう無数の措置を講じるのです。そこまでしても、まだイラクは大変危険な場所です。
イラクが危険なのは、党派間の暴力があったり、アルカイダの過激分子が市場を爆破し、自動車爆弾で人々を殺し、改良した爆発物で明けても暮れても罪の無い人々の命を奪い続けているためです。私たちはこれを阻止しようとしているのです。そして、その代償を払わなければなりません。なぜなら、この活動で、米国人の血が流れ、米国の財産が費やされているからです。私たちにとってこれは困難なことです。私も行きましたが、ウォルター・リード陸軍病院やベセスダ海軍病院のような場所へ行って、イラクでの戦争で外見を損ねられたり、手足や、視力、愛する人たちを失って人生を台無しにされた立派な若い男女を見るのは大変に辛いことだからです。それでも私たちがこの戦争を行うのは、そうしなければならないという信念があるからであり、中東を変えることができると信じているからであり、過去に継続的に行われた大量殺人からこれからの世代を救うことができるという希望があるからです。米国の人々はこのように重大な責任を負っているのですが、戦争を遂行するに当たっては非常に慎重に行わなければならないことも理解しており、私たちは最善を尽くしております。
問 日本経済新聞の平田と申します。日米2国間の自由貿易協定について、この協定に必要なのは何だと思われますか。この協定は緊急に必要なのか、それともそれほどの必要性はないとお考えですか。もし日米が自由貿易協定を締結すること決定したら、それを効果的に運用するにはコメを含む農産物を大幅に開放するべきだと思いますか。
シーファー大使 自由貿易協定は良い考えだと思います。米国と日本の両国に繁栄をもたらすことになると思いますが、両国の間で、交渉に入るには何が必要であるかに関する見解が異なる、あるいは単に異なる見解を持つ可能性があるため、協定締結に至るのはまだ先のことになると思います。米国の観点から申し上げると、両国が自由貿易協定について交渉するには、すべての分野が協定に含まれることに確信が持てなければなりません。率直に言って、世界中には大変多くの人々、大変多くの国々が米国と自由貿易協定の交渉をすることを望んでいますが、すべての分野を自由貿易協定の対象とする準備が整っていない国と交渉をするための資源が米国には無いということなのです。これは日本にとってどのような意味を持つでしょうか。日本の人々が農業問題に取り組む用意ができていれば、農業を交渉対象分野として自由貿易協定に含むことができれば、協定を結ぶ、あるいは米国と交渉を開始する見通しはかなり明るいと思います。
しかし、もし農業が交渉の対象外であるならば、日本と協定を結ぶ見通しはかなり暗くなります。さて、韓国との間で自由貿易協定の交渉に弾みがついたのは、韓国政府が農業問題に取り組む姿勢を見せたからで、両国は実際にこの問題に取り組みました。韓国との協定では、コメにはほとんど手つかずのままでしたが、その他の多くの(農業)分野は含まれていました。特別に神聖視されているような品目はどの国にもあります。米国がオーストラリアと自由貿易協定を結んだとき、私は駐オーストラリア大使でした。砂糖と乳製品は基本的には協定に含まれましたが、砂糖はすべてを対象としておらず、乳製品は限定的取り扱いでした。その他の分野は含まれており、いずれは自由貿易対象品目となります。私がこの2つの分野について話をするのは、これらに対して特別な規則が設けられたからです。もし日本に特別な必要があればそれについて話し合いをすることはできます。しかし日本が農業全体を交渉材料にする用意ができていないのであれば、日本と米国が自由貿易協定を締結する可能性はかなり低いと思います。
問 朝日新聞の石合です。テロ対策特別措置法について2つ質問させていただきます。10月19日に米国国防総省が声明を出し、基本的に日本から供給された石油を転用した事実はないということを発表しました。これが空母キティホークその他に関する日本の質問への最終回答なのでしょうか。その声明の前に詳しい説明がありましたが、必要があれば、国防総省およびシーファー大使がさらに詳しい説明を行いますか。それともあれが最終回答だとお考えですか。2国間には良好な信頼関係があるので、あれ以上の説明は求められないとお考えですか。つまりあれで回答は最後ということなのかというのが最初の質問です。
2番めの質問は、以前テロ対策特別措置法について私がインタビューしたとき、必要であれば全国会議員の前で機密説明会をする用意があるとおっしゃいました。日本の国会の現状を見ると、残念ながら法案通過は非常に難しいようです。民主党はこの法案に反対しており、反対する理由、それも多くの理由があります。大使が機密説明会を行うだけでは、現時点で民主党を納得させるには不十分なようです。この状況で、時機を見てシーファー大使は説明会をする用意がおありでしょうか。またそうすることが有効であるとお考えでしょうか。ありがとうございます。
シーファー大使 説明に関しては、今後どのようなことを質問されるか分かりませんので、米国はもうこれ以上の説明はしないと言いたくはありません。しかし、尋ねられた質問に対しては回答したと思います。お尋ねになったのは、日本から供給した燃料がイラクやイラクでの作戦に転用されたか、ということでしたか。私たちは記録を、数千ページにも及ぶ記録を調べて、その事実はなかったと結論付けました。納得してもらうにはそれで十分でないでしょうか。説明会に関しては、米国の主張は揺るぎないため、国会議員の皆さまに対して説明会を行うことは有効であると思います。先ほども申しあげましたが、この作戦部隊の隊員が乗船して検査を行った船舶の数が1万2000隻以上に及びました。インド洋を航行する船が何を積載しているかを調べるために非常に多くの検閲が行われました。これが、日本をはじめとする世界中の文明社会をテロから守っているのです。私はインド洋での作戦は、空港に金属探知機を設置するのに似ていると思うことがよくあります。空港に金属探知機を置くことで、危険物を持って飛行機に搭乗しようとする者を阻止できることは、直感的にお分かりでしょう。インド洋での活動もそれと同じです。あれほど包括的に行えば、テロリストの活動を困難にしているということはおのずと分かります。それは日本の利益にかなうことであり、米国や国際社会全体の利益になります。
問 北海道新聞の西村です。やはりインド洋の補給についてですが、もし補給が中止されることになった場合に日米関係にどのような影響が及ぶと思われるか、具体的にお聞かせいただけますか。この、インド洋での補給の問題については、日米安全保障協議委員会、いわゆる2+2会合で議論されています。この2+2会合では、(日米両国の)役割と任務と能力という文脈の中で議論が行われております。従って、補給活動は非常に意義深いと考えられています。その姿勢はずっと変わっていません。次回の2+2会合では、この役割、任務、能力は見直すことになるのでしょうか。文言の見直しは行われるのでしょうか、それとも引き続いていくのでしょうか。特に小泉政権以降、役割、任務、能力という文言は、アジア地域の安全保障を維持するだけでなく、世界の中での日米同盟という文脈で、地域の安定と世界の安定の両方の目的のために対テロ活動に従事できるように考えられてきました。しかしここで文言を変えたら、重点が世界の安定から地域の安定へと移ることになるでしょうか。それとも、2つの柱はそのまま残るのでしょうか。その場合、陸上自衛隊はすでに撤退していますが、ここでもし海上自衛隊も撤退することになりましたら、柱のうちの1本が失われてしまいかねません。その場合の日米2国間の安全保障関係はどうなるとお考えですか。
シーファー大使 もし活動が中止されたら、2国間関係にとって残念な影響が残ると思います。日本がインド洋での活動を停止することによって関係が強化されるという主張は難しいでしょう。2+2会合および役割、任務、能力について、今後の交渉でそれらにどのような影響があるのか私には分かりません。米国も日本も、共同活動をもっと行っていきたいと考えていますから、できれば大きな影響がないことが望まれます。しかし中止すれば、インド洋での活動は不可能だったということを示すことになり、私が申し上げたように、それは残念なことです。この点について、実際にどのような影響があるか、私には分かりません。世界全体の文脈か、地域か世界の安全かということに関しては、日本自身が国際社会でどのような役割を果たしたいかを決めなければなりません。それを決めるのは米国の仕事ではありません。特に、このインド洋での活動には本当に多くの国々がかかわっていますし、テロに対する世界をあげての取り組みに参加したいという日本の意思がはっきりと示されており、この任務を中止しては国際社会に対して間違ったメッセージを伝えることになると思います。私は日本が好ましくないメッセージを送らないようにと願っています。
問 司会の権限で、最後の質問は私がさせていただきます。明日の午前中にワールドシリーズでロッキーズとレッドソックスが対戦します。どちらが勝つと思われますか。
シーファー大使 見応えのあるワールドシリーズになると思います。ワールドシリーズがコロラドで行われるのは初めてのことですから、大変な盛り上がりになると思います。ボストンもコロラドも10月の終わりには寒くなりますので、寒いワールドシリーズになりそうですが、それもまた楽しいでしょう。たくさんの日本人選手が出場しますから、どちらが勝つかということについては、日本人の忠誠心が割れてしまうかもしれませんが、いずれにしても素晴しいワールドシリーズになるでしょう。面白い野球シーズンでしたから、私もずいぶん楽しみました。このワールドシリーズにも大いに期待しております。


駐日米国大使