
ジェームス・ズムワルト
在日米国大使館経済担当公使
2005年2月25日
於:鹿児島地域経済研究所
はじめに
こんにちは。今日こうして鹿児島という、幕末から近代日本の建設に貢献してきた土地でお話しさせていただけて光栄です。私は日本史を大学で学んで以来、西郷隆盛ゆかりの地を訪ねたいと思っておりましたので、この度お招きいただいたことを大変感謝しています。実は昨夜、本場鹿児島の焼酎をいただきまして、このおいしい飲み物が日本全国で大変に人気があると伺いました。今夜は夕食に黒豚をいただくことになっているので、こちらもとても楽しみにしています。鹿児島は日本と韓国、中国、東南アジアならびに西洋との重要な接点であり、薩摩藩は特に西洋の技術をいち早く積極的に取り入れてきました。このような柔軟な考え方が、21世紀に日本が世界的なリーダーとしての地位を保つ上で必要となりましょう。
日米経済関係 − 外圧
日米経済関係というと、日本人の多くは、米国が外圧をかけて日本の市場を外国製品や外国資本へ開放しようとしていると思うでしょう。このようなイメージは1990年代には幾分正しかったかもしれませんが、今となっては時代遅れな見方で、現在の2国間の経済関係は良好で建設的です。以前は部外者だった多くの米国企業も今では日本国内での主要な投資家となっています。2004年には米国企業は日本で約2000億円投資しており、その中にはコダックやウォールマート等のよく知られた会社が含まれています。同年にはトイザラスが日本で150店舗目をオープンし、スターバックスは九州だけでも30店舗以上あります。実に70以上の米国企業が九州に存在しています。
もちろん、どんな関係にも波があるように、日米経済関係にも厳しい時期があります。これまで日本は外国からの資本やアイデアに市場を開放する面で大きく前進したとはいえ、市場アクセスの面でまだ問題が残っています。ひとつの差し迫った貿易問題は牛肉です。ご存知のとおり、日本は米国のワシントン州でBSE感染牛が1頭発見されたことを受け、2003年12月に米国産牛肉の輸入を全面禁止しました。以来、米国は日本の技術上の懸念に対応するため多大な努力を払ってきました。そして2004年10月に両国政府は牛肉貿易再開への道筋に合意しました。
端的に申し上げて、米国産牛肉は安全です。私たちが日本に売りたいと思っている牛肉は、2億8000万人以上の米国人が食べているものと同じものです。その牛肉を食べて、BSEに感染した人はひとりもいません。この問題に終止符を打つ時がやってきました。もしこれ以上問題が長引けば、日米関係の他の面に悪影響が出るでしょう。
しかし、この(願わくば)一時的な問題にもかかわらず、米国の日本経済における関心は現在様々な分野にわたっており、私たちの経済政策の優先事項は依然として、両国そして世界が共に持つ利益を促進することにあります。
日本は米国の最も大事な友人・味方
米国と日本は異なる文化、地理、歴史を持ち、あのすさまじい戦争が終結したのはほんの60年前のことです。しかし、日米関係はブッシュ大統領と小泉総理大臣の親密な友好関係に象徴されているように、経済面、政治面、そして地政学的な戦略面においても強固で安定しています。世界の2大経済大国間の経済関係の発展は、世界経済と地域経済にも貢献しています。米国は日本にとって第2位の輸出相手国であり、日本は米国にとって第4位の輸出相手国です。この状態は、1990年代に日本の経済成長が低迷し、東アジア・太平洋地域での貿易と投資のパターンに大きな変化があったにもかかわらず、そのまま保たれています。
最近のニュースで話題になっているのは、2004年に日本の対中国貿易が対米国貿易を初めて超えたということです。このニュースは主要貿易国として中国が浮上してきたことを見事に示していますが、日米間の経済関係の重要性が失われつつあると思うのは間違っています。貿易に関するこれらの数字は、日米経済関係の成熟度や投資の歴史などを反映していません。日本の対米投資と米国の対日投資によって提供される物品やサービスの量は増加しています。2002年の時点で、日本の対米投資総額はストックベースで1500億ドルで、米国の対日投資総額は302億ドルでした。
ここ九州にも有名な米国投資の事例がいくつかあります。宮崎では2001年にリップルウッド社がシーガイヤ・リゾートを買収し、再生を助け、大事な雇用先の維持に貢献しました。福岡では昨年、コロニー・キャピタルがダイエーから福岡ドームとシーホークホテルアンドリゾートを買収し、地元の経済に何億ドルも投入しました。コロニー・キャピタルは、ホテルの改装とショッピングモールの拡張のため積極的に投資しています。ホテルの経営をJALに任せ、野球チームの新オーナーであるソフトバンクと強力なパートナーシップを結ぶことにより、コロニー・キャピタルはリゾートの顧客ベースを拡大し、1年を通して楽しめるリゾートとして宣伝しています。こうした努力は九州経済に大きく貢献することでしょう。
日米関係は不朽
冷戦の終結、世界における主要なプレーヤーとしての中国の台頭、そして増大するテロの脅威等、過去60年に渡る極めて重大な変化にもかかわらず、日米間の政治関係も維持され発展してきました。このパートナーシップと友好関係が強固に続いてきたのは、米国と日本が共通の価値観を持ち、私たちの友好関係に影響を与えかねない変化をも乗り切る支えになっているからです。共通の価値観としては、民主主義に対する信念、人権擁護推進への意欲、そして市場経済が成長を促進するために最も効率的な経済システムであるという確信等があります。さらに、世界経済の持続的成長を推進することが私たち相互の利益に適う、という信念も共有しています。よって、世界秩序の保持と強化に対する、世界の2大経済大国としての私たちの関心は、こうした共通の価値観により支えられているのです。
2国間の強固な経済的、政治的な関係より私がもっと感心させられることは、人と人の間のすばらしい関係です。米国人と日本人はお互いに関心を持ち、好影響を与え合ってきました。鹿児島の映画館にキャサリン・ヘップバーンやゲーリー・クーパーが映ったり、子供たちがディズニーランドを思い浮かべたり、マクドナルドのハンバーガーがお昼に出たりと、文化的な興味が一方的であった時代もありました。しかし今は文化交流は双方向です。米国人の典型的な日を見てみると、日本車で通勤し、お寿司をお昼に食べ、松井秀喜やイチローがメジャーリーグでプレイするのを応援するかもしれません。私が高校時代に経験したような交換留学は、以前にも増して盛んになっています。1993年以来、約50万人の日本人が米国に留学しましたが、もっと多くの学生に来て欲しいと願っています。同期間にはおよそ2万5000人の米国人学生が日本に留学しました。
現在の日米関係は前例のないほど強固
日米関係は強固で、まさに前例のないほど良好です。ブッシュ大統領と小泉総理大臣の温かい友好関係がこれを象徴しています。小泉総理大臣は、世界における偉大な大国としての日本の役割を引き受ける意欲のある、ダイナミックで前向きなリーダーである、と米国人は思っています。一連の重要な経済改革をやり遂げようという意志は立派で、日本にとって有益であるばかりか、恐らくさらに重要なのは、日本経済が回復し、再び世界の成長の原動力となる助けになることでしょう。小泉総理大臣は積極的な外交を通じ、世界の舞台で影響力を持つ国としての日本を確立しました。
2国合わせた経済の規模から日米関係は他にも影響
これまでなぜ日米関係が永続的で強固であるかということを私は説明しました。しかし、なぜこれが米国人と日本人以外の人たちに影響があるのでしょうか。日米関係が世界にとって重要なのは、日米両国の規模と影響力で説明できます。私たちの国は両国とも、経済的、政治的、文化的、そして軍事的にも世界のリーダーです。よって、2国間が強い関係を持つことは私たちにとってのみならず、世界にとって重要であり、それも世界で最も繁栄し成功している社会として、世界は米国と日本にリーダーシップを求めるからです。
経済的に米国と日本は合わせて世界の国内総生産(GDP)の42%を占め、それに続く18カ国の合計に匹敵します。また、日米両国は世界貿易の約4分の1を占めています。日本と米国の企業は毎年世界の特許申請の約60%、自動車生産の40%近く、ならびに研究開発費のおよそ半分を占めています。
世界の2大経済大国として私たちは、世界の出来事に建設的に影響を及ぼそうと、前向きな姿勢で共に取り組んでいます。中国では、私たちのビジネス界が知的財産権制度と法の支配の強化に努めており、アフリカでは公衆衛生の強化に取り組んでいます。朝鮮半島からの脅威を解決しようと共に取り組んでいます。国際金融システムにおけるテロリスト資産の流れを阻止するなど、対テロ戦争でも協力しています。私たちにとって、日本は世界経済秩序を形成する上で貴重な真のパートナーです。
私たちが共に取り組める分野として、海外援助、自由貿易推進ならびに地域経済組織の強化の3つを取り上げたいと思います。
最近おきたインド洋大地震と津波で多くの死者と損害が出たことに、米国と日本は共に心を痛めております。思いやりの心と責任感を共有することから、被災地の地域社会復興のため、前例のないほどの国際協力を私たちはリードしています。日本は5億ドルの無償資金協力という目を見張るような額を数週間のうちに拠出しました。在日米軍も日本からの食料や他の補給品を、地域全体の流通拠点であるタイに運び、日本の救援活動に後方支援を提供できました。私たちは被災国の復興とインド洋の津波早期警戒システムの開発に向け、引き続き緊密に協力していきたいと思います。
この例で明らかなように、私たちが力を合わせることが重要なのは、米国と日本が世界の2大援助供与国であるからです。開発途上国への援助は2国合わせて全体の40%を占め、民間や非政府団体からの支援、平和維持活動や軍事支援を含めるとその数字は飛躍的に上昇します。
日本は対イラク支援で第2位の援助国であり、引き続き重要な復興及び人的支援を提供しています。11月に日本政府は、対イラク無償資金協力を15億ドルから19億ドルに増やし、すでにおよそ13億ドルの無償資金協力を電気、水道、病院、警察と消防隊の研修、教育やその他の分野のために拠出しています。さらに日本は2007年まで19億ドルの無償資金協力を含む総額50億ドルをイラク復興のため拠出すると誓約しています。また、日本はイラクの対日債務の80%を免除することに同意しており、これはイラクの経済を持続的成長の軌道に乗せるための大切な一歩となるでしょう。
日本は2002年から10億ドル近くの復興支援を提供し、アフガニスタンの最も信頼できる寛大な援助供与国のひとつともなっています。誓約額のうち、すでに8億ドルを拠出しています。私たちはアフガニスタンの多くの地域をつなぎ、国家意識形成に役立つ道路の建設に協力して取り組んでいます。このように私たちの経済援助がアフガンの人々に希望を与え、平和と安定への展望をよくしています。
私たちはスリランカの民族紛争の平和的解決に向け努力している主要国であり、20年も続いている紛争の平和的解決に向けて努力するよう、紛争の両サイドを説得するため経済援助をしています。
もうひとつ協力している主要分野として保健、特にエイズ、マラリア、小児麻痺などの感染症対策があります。「保健分野における日米パートナーシップ」は人材能力開発、教育および病気の予防に焦点をあて、米国国際開発庁(USAID)と日本政府は様々な地域の30を上回る国で提携し協力を試みています。米国と日本は世界エイズ・結核・マラリア対策基金の理事としても緊密なパートナーであり、日本は2億6000万ドルを誓約しています。
米国と日本は多くの開発問題に効果的に取り組んでいるが故に、2000年から2003年の間に米国の海外援助予算額が100億ドルから160億ドルへと約50%増加したのに対し、日本のODAが30%削減されたことを私たちは特に懸念しています。
世界貿易自由化への取り組み
2大貿易国である米国と日本にとって、世界貿易の自由化推進は共通の関心事です。現在、日本は貿易自由化を推進するにあたり、アジアと南米諸国との2国間自由貿易協定(FTA)ネットワークの創設に焦点をあてています。私たちはこの取り組みが世界貿易システム全体の自由化に貢献する開かれた質の高い協定につながることを期待します。しかし、多国間の貿易交渉であるドーハ・ラウンドでも良い結果を目指し共に取り組む必要があります。というのも、この多国間のフォーラムでこそ世界経済にとって最も大きな利得が得られるからです。最終目的は、開かれた、透明性のある、効率的で、豊かな国も貧しい国も利益を得られるような、より良い世界貿易システムの構築です。
最後に、アジア・太平洋地域における2大経済大国として、アジア太平洋経済協力(APEC:地域内の21か国・地域のグループ)において地域の繁栄と安全保障に向け協力できます。私たちが協力することは、APECの成功にとって極めて重要です。毎年APECフォーラムに集まる21人の首脳たちは、世界人口のおよそ40%、世界貿易の約50%ならびに世界経済生産の60%を代表しています。従って、APECの首脳たちが合意に至ることは大きな意味を持ちます。しかし、21の多様な経済国・地域間で合意を達成することは、なかなか簡単にはいきません。だからこそ、米国と日本がAPECで協力することが大切なのです。
歴史的にみると、APECの活動は、地域貿易・投資・経済成長の促進が中心でした。1994年にAPEC首脳たちが採択した全地域における自由で開かれた貿易と投資についてのビジョンは影響力があります。日本は、1995年、APECの首脳たちがこのビジョンの実現化のために大阪行動指針を採決した会議を主催し、重要な役割を果たしました。今日までの成功事例としては、形式主義的なしきたりを破ることによる商取引の費用削減、機械化の受け入れ、基準の調和ならびに不要な貿易障壁の除去があります。
今年は知的財産権の保護と行使の強化のため日本と緊密に協力していきたいと思います。この活動により、APECのメンバーが革新において世界をリードする立場になり、人々の経済的福祉だけでなく健康や安全をも脅かしかねない模倣品や海賊版の製品の流通を減らすことになるでしょう。
APECの首脳たちは、例えば2003年にWTO交渉の早期再開を呼びかけるなど、世界貿易自由化のプロセスを支持してきました。APECの首脳たちは、世界の貿易担当大臣がWTO交渉の重要なラウンドのために香港に集う数週間前に、韓国の釜山で11月に会合する際にも、WTOプロセスへの取り組みを後押しする機会があります。APECの首脳たちによる政治的支持に加え、APECのメンバーの貿易交渉担当者たちは、通関手続きの簡素化やIT製品に対する関税引き下げなどの分野で、WTOの議題を進展させるために具体的な提案を打ち出しています。
APECは、2国間自由貿易協定や地域貿易協定の交渉について、そうした協定が包括的でWTOと一貫し、貿易の自由化に真につながるような共通の取り組み方の策定でも前進しています。この作業は、アジア・太平洋地域での多くの新旧の協定が、APECの貿易と投資の目標達成に向け、障害ではなく基盤となるように確保する上で特に重要です。
ここ数年APECの首脳たちは、私たちの社会の安全を脅かす恐れがあっては自由で開かれた貿易は達成できないという認識のもと、安全保障についても強調してきました。米国と日本は他のAPECのメンバーの輸出管理制度の強化のためAPECでも緊密に協力しています。この活動は大量破壊兵器とその運搬システムと関連品目の違法取引を防止しつつ、合法的な末端利用者への製品の流通を促進します。私たちは地域の港湾の安全を向上させ、携帯型肩打ち式防空ミサイルのような危険な兵器がテロリストの手に渡るのを防ぐため、ガイドラインの整備についてもお互いに協力しています。
最後に
本日、私がお話しした点について簡単にまとめたいと思います。日米関係は大変強固であり、不朽で、その強さと持続性は私たちの共通の価値観と利害の上に成り立っています。私たち両国を合わせると世界の国内総生産(GDP)の半分近くを占めるということは、協力することによって影響力を及ぼし、国際機関や地域的機関においても難題に一緒に取り組むことができるということです。海外援助や世界貿易の自由化、またAPECにおいてなど、多くの分野で私たちの共通の利益や世界の繁栄のため協力していくことができます。
その中で、ここ九州の皆様は大事な役割を担っていらっしゃいます。明治維新以前から改革と変革を支持する長い歴史をお持ちです。これからもどうか、共通の利益を推進するために日本が引き続き米国と協力できるよう、「内圧」をかけ続け、東京の政策に働きかけていただきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。


駐日米国大使