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*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

 2004年人身売買報告書の「序文」と「世界における成功例」の章を抜粋し翻訳したものです。

2004年人身売買報告書(抜粋)


国務省人身売買監視対策室 

2004年6月14日 

I. 序文(改定) 

[被害者の概観:この報告書で取り上げた、被害者の証言による人身売買の例は代表的なものだけであり、すべての形態の人身売買が含まれているわけではない。このような事例は、不幸にも世界中のほぼすべての場所で行われる可能性がある。これらの例は、人身売買の多様な形態と、それらが行われている地域の広がりの大きさを示すために取り上げた。人身売買の影響を逃れる国は存在しない。この報告書で使われている被害者の名前はすべて仮名である。この報告書の表紙の写真や、多くの写真説明なしの写真は、実際の人身売買被害者のものではないが、これらは、人身売買の無数の搾取形態を定義する助けとし、被害者が発見される文化の多様性を示すために掲載した。]

序文

 コンゴ民主共和国の反乱軍が12歳のナタリアを軍に参加させた。「ある日、反乱軍が私の住む村を襲いました。彼らは、隠れている私の目の前で、親戚の人たちを殺し、母や姉妹をレイプしました。私は反乱軍に参加すれば安全だと思いました。反乱軍で銃の使い方を習い、見張りの役を与えられました。頻繁に他の兵士に殴られたり、レイプされました。ある日、隊長が私を妻にしたがったので、逃げ出そうとしました。彼らは私を捕まえ、むちで打ち、長い間、毎晩私をレイプしました。子供が生まれたのは、まだ14歳の時です。父親が誰かも分かりません。また逃げ出しました。でも、行く場所も、赤ちゃんの食べ物もありません。戻るのが恐ろしいのです」


2004年人身売買報告書の目的

 国務省には、過酷な人身売買の根絶に向けた外国政府の努力に関する年次報告書を議会に提出する法的義務がある。この2004年6月に提出した報告書は、第4回の人身売買年次報告書である。人身売買根絶に向けた各国の行動が主題ではあるものの、この報告書は、21世紀の奴隷制度である人身売買の被害者の悲痛な話も述べている。この報告書では、米国の法律および世界中で使われている「人身売買(trafficking in persons)」という言葉を用いている。この言葉は、あらゆる形態の奴隷売買と現代の奴隷制度を包含している。

 人身売買の悲劇を完全に理解し、人身売買に対する戦いに打ち勝つためには、被害者のことを十分に知る必要がある。被害者が誰なのか、なぜ被害を受けやすいのか、いかにしてわなにかけられたのか、被害者に自由を与え、その傷を癒やすために必要なことは何なのか、を知る必要がある。他国政府の努力を評価する上で、人身売買報告書が重視しているのは、訴追(prosecution)・保護(protection)・防止(prevention)の3Pである。しかし、人身売買の被害者を中心にしたアプローチには、救助(rescue)・転居(removal)・復帰(reintegration)の3Rに対処することが同様に求められる。われわれは、捕らわれた人々の叫びに耳を傾ける必要がある。すべての国が団結してこの悪に立ち向かうまで、われわれの使命は完了しない。

 140年以上前に、米国は奴隷制度を廃止させ、同制度を支持する者たちが国を分裂させることを防ぐために激しい戦争を戦った。そして米国は国の慣行を廃止することに成功したが、奴隷制度は多くの男女や子供の生命と自由を脅かす拡大する世界的脅威として戻ってきている。

 人身売買のない国はない。毎年推定60−80万人にのぼる男女と子供が国境を越えて売買されており(国際・非政府機関の中にはこれよりかなり多くの数を推定しているところもある)、ビジネスは成長しつつある。この数字は、これよりはるかに多い各国国内で売買されている不確定の人数にさらに加えるものである。被害者は、売春を強制されたり、採石場、労働搾取工場、農場で働かされ、召使いや少年兵その他の多様な強制労働を強いられている。米国政府は、国際的に売買されている被害者の半数以上が、性的搾取のためであると推定している。

 非常に多くの被害者が、自国内で売買されている。犯罪要因、経済的困窮、政府の腐敗、社会的混乱、政治の不安定、自然災害、軍事衝突が起因して、21世紀の奴隷売買が、安価で無防備な労働力への世界的需要を満たしている。さらに、人身売買による利益が、国際犯罪組織拡大の資金源になり、政府の腐敗を助長し、法の支配を弱体化している。国連の推定によると、組織犯罪にとり、人身売買による利益は、麻薬と武器の売買に次ぐ3番目の収入源になっている。

 チェコ共和国で結婚生活がうまくいっていない2歳の娘を持つカティアは、オランダでウエートレスをすれば良い収入が得られるという友人の勧めに従った。チェコの人身売買業者の車でカティアと他の4人の若い女性はアムステルダムに向かい、そこで合流したオランダの人身売買業者に売春宿に連れて行かれた。こんなことはしないとカティアが言うと、やらなければ、娘は生きてチェコには戻らないと言われた。長年にわたる脅迫と強制売春の後に、親切なタクシー運転手に救助された。カティアは現在病院で仕事をしながら、社会福祉の学位を得るために勉強している。

 現代の奴隷売買は、世界のすべての国々に対する多面的脅威となっている。人権侵害によりもたらされる個人の苦悩に加えて、人身売買の組織犯罪へのつながりと、麻薬や武器の取引などによる深刻な安全保障上の脅威が明らかになってきている。被害者が、劣悪な生活環境や強制性行為のいずれかが原因で、病気に感染し、さらに別の場所に売り渡されることから、公衆衛生への深刻な懸念も同様に明らかになっている。他の差し迫った問題を優先させて、人身売買問題を軽視するという選択をする国は、危険を覚悟してそうしなければならない。即時の行動がどうしても必要とされている。

 2000年に議会が可決し、大統領が制定した2000年人身売買被害者保護法(22 U.S.C. 7101 et seq.)=TVPAは、2003年人身売買被害者保護再承認法(公法108-193)により最近改定された。TVPAの目的は、人身売買業者を処罰し、被害者を保護し、世界的人身売買対策キャンペーンに向けて米国政府諸機関を動員することにより、人身売買と戦うことにある。改訂されたTVPAにより、国務省・司法省・労働省・国土安全保障省・保健福祉省・米国国際開発庁には重要な権限が与えられた。

 この報告書は、TVPAが義務付けたものであり、その目的は、人身売買に対する世界の認識を高め、他の国々の政府に効果的な行動を起こすことを求めていくことにある。この報告書は、人身売買と戦うための新しく重要な方法において、増えつつある国際社会のコミュニティーが情報を共有し、パートナーとなる努力に一層の重点を置いている。この報告書では、人身売買排除に向けた最低基準を満たすための重要な行動をとることを怠った国に対しては、否定的な評価が与えられる。このような評価を受けた国に対して、米国からの人道的支援以外の支援や非貿易関連の支援差し止めが誘発されることもあり得る。

被害者の自由を買い戻す

 現代の奴隷制度のなかでおそらく最も醜い側面の1つは、人間の生命の商品化、つまり1人の女性、1人の男性、そして1人の子供の命に金銭的価値をつけることである。インドの売春宿でも、またスーダンの奴隷収容所でも、被害者の自由に価格が付けられているのである。

 被害者救済に取り組む組織や個人は、時には被害者の自由を金銭で買うことを選択してきた。この身代金を支払うことで、即座に結果は出る。被害者は奴隷の束縛から解放される。しかし、この手段はさらに複雑な結果をもたらす。

 組織や個人が所有する売春宿から被害者が解放されても、人身売買業者は、この取引で得た収入で新たな被害者を獲得し、同様の仕事をさせることができるのである。被害者の実数が減少したか否かを判断することは困難である。いずれにせよ、人身売買業者・搾取者が、代償を払うことも処罰を受けることもなく、奴隷が続く可能性がある。

 被害者の自由を確保するためのより永続的で効果的な方法は、法を適用すること、つまり刑事司法制度の下で被害者を売買した人身売買業者・搾取者の罪を裁くことである。金銭で賠償することなく被害者を救助する強制捜査と奴隷行為をさせた者の逮捕という司法手段は、このような憎むべき取引を行う商人に高い代償を払わせる。刑法を適用することで、社会が処罰の手段を持つことになる。米国の法律が、政府が人身売買の形態を刑事罰の対象にすることを優先事項とする理由はここにある。


 人身売買の広がりと実態に関して、われわれが知らなければならないことは多い。この報告書でわれわれは、情報の乏しい分野を指摘し、さらなる調査を必要とする諸問題を提起することに努めた。このような制約の下に、2004年人身売買報告書は、現代の奴隷制度の実態と広がり、および人身売買根絶に向けた世界的キャンペーンの中での広範囲にわたる行動に関する最新かつ包括的調査となっている。

 TVPA、人身売買年次報告書、強力なリーダーシップ、政府の努力の強化、国際機関ならびにNGOの関心が高まったことなどの結果として、われわれは、協力の新たな局面を迎えている。各国は相互の協力を強化して、人身売買ルートの閉鎖、人身売買業者の訴追と有罪宣告、被害者の保護と社会復帰に取り組んでいる。この報告書が、より大きな前進に拍車をかけることを期待する。

政治の腐敗が、人身売買根絶への進展の障害になる

 政治の腐敗が、多くの国々で、人身売買に対する戦いの大きな障害になっている。人身売買に関連する政治腐敗の規模は、局地的なものから国全体のものまである。そのような公的な腐敗の問題を抱える国々は、問題解決のための効果的な手段を見いだす必要がある。中央ヨーロッパと東ヨーロッパの諸国が、人身売買対策強化のために行なった腐敗対策には、効果的なものがいくつかある。それには、法執行官に対する安定性・知性・性格・倫理・忠誠度のテストを含む心理テストの実行、倫理に関する講習の義務化、標準身分証明書の発行、誠実度テストの無作為の実施、最良事例マニュアルの配布と使用、職員個人の所持品と現金の無作為の検査、匿名による腐敗対策ホットラインの公表、交通量の多い国境検問所に重点を置いた人員配置転換、昇給、業績に応じた報奨金、各自の職務の重要性の理解向上のための研修の実施、職務宣誓の義務化、出入国記録などに対する定期的行政検査の制度化が挙げられる。

 

 20代後半の、デンは、オーストラリアでは売春で大金が手に入ると地元のタイで誘われて、自発的にオーストラリアに向かった。しかし、オーストラリアに到着すると、迎えに来た人身売買業者は、彼女のパスポートを取り上げて、一軒の家に閉じ込めた。彼女は、3万ドルの借金を返済するために、900人の男に奉仕するように言われた。ろくに食べる物も与えられず、毎日、病気の時にも、強制的に売春宿に連れて行かれた。逃げようとしたら、人身売買グループの犯罪組織が捕まえると言われた。オーストラリア移民局の職員が、デンを奴隷として働かせていた売春宿を強制捜査したことにより、デンに対する搾取は終わった。
人身売買とは

 人身売買、特に女性と子どもの人身売買の防止・禁止・処罰に関する議定書(3つの「パレルモ議定書」の1つ)は、人身売買を次のように定義している。

 搾取を目的として、脅迫や、暴力その他の強要、誘拐、不正行為、偽装、権力乱用、他人の弱い立場を悪用、他人を支配できる人物への金銭や便宜の授受などの手段を用いて、人を募集し、移送・移動したり、かくまったり、受け入れることとしている。搾取には少なくとも、売春における搾取やその他の形態の性的搾取、強制労働や強制奉仕、奴隷制度や奴隷制度・隷属と同様の行為、あるいは臓器の摘出が含まれる。

 多くの国が、この定義を誤解して、国内の人身売買を見過ごしたり、あらゆる不正な移住を人身売買と見なしている。TVPAは、「過酷な形態の人身売買」を次のように定義している。

A. 営利目的の性行為が暴力や、詐欺行為、強要により誘発された場合、または営利目的の性行為をさせられる人物が18歳未満の場合における性的人身売買。

B. 不本意な強制労働や、日雇い労働者、債務奴隷、奴隷として服従させることを目的に、暴力や詐欺行為、強要によって人間を労務や奉仕のために募集、かくまい、移送、供与、獲得する行為。

 これらの定義には、人身売買被害者が移動されることを条件にしていない。また、前述の目的で人間を募集し、かくまい、供与し、獲得する行為に適用される。

人身売買が人と社会にもたらす被害

インドネシアの農村出身の10代のティナは、4カ月の家事訓練と4カ月のインドネシア海外労働センターの寮費として数百ドルの借金を背負いこんだ。そこから、ティナは、他の多くのインドネシアの少女と同様に、マレーシアに移された。彼女は、そこでマレーシアの夫婦のお手伝いさんとして働くと思っていた。零細企業で1日15時間も強制的に働かされたティナの寝る場所は、床だった。彼女は、2年の契約が完了するまで、給料は支払われないと言われた。度重なる肉体的虐待を受けた後、彼女は、マレーシアのNGOの被害者避難所に保護を求めた。ティナは、雇用主を警察に告訴し、マレーシアで訴訟を続けるために彼女の移民ビザの延長が認められた。
 人身売買の被害者は、恐るべき犠牲を払わされている。多くの人身売買被害者は、生涯消えることのない病気や発育障害などの肉体的、精神的な痛手を負わされ、親族や共同体から締め出されている。人身売買被害者は、社会的、道徳的、精神的な成長の重要な機会を逃してしまうことが多い。多くの場合、人身売買被害者の搾取は、進行する。1つの仕事に売り渡された子供は、また次の仕事へと売り渡され、さらに搾取される。ネパールでは、カーペット工場やホテルやレストランでの仕事のために集められた少女は、その後、インドの性産業で強制的に働かされる。フィリピンおよびその他の多くの国々では、最初はホテルや観光の仕事のために移住したり、集められた子供たちは、しばしば売春宿に閉じ込められることになる。現代の奴隷売買の残酷な現実は、被害者が次から次へと売買されていくことが非常に多いということである。

 性的奴隷として強制的に働かされる被害者は、麻薬により服従させられ、極度の暴力に苦しんでいることが多い。性的搾取を目的に売られた被害者は、成熟前の性行為・強制的薬物乱用・HIV・エイズなどの性感染症にさらされることなどで肉体的かつ精神的なダメージを受けている。被害者の中には、生殖器に永久的な損傷を受ける者もいる。さらに、その土地の言語を話すことも理解もできない場所に売られた被害者は、孤立と支配下にあることで、精神的なダメージがいっそう大きくなる。皮肉なことに、言いようのない苦難と剥奪(はくだつ)に耐える人間の能力が、捕らえられた多くの被害者に、やがて自由になれることを期待しながら仕事を続けさせることになる。

人身売買は、人権の侵害である 本質的に、人身売買は、生きる権利、自由である権利そしてあらゆる形態の奴隷制度からの自由という基本的人権を侵害している。児童売買は、保護された環境の中で成長するという児童の基本的要件、および性的虐待と搾取から逃れる権利を無視している。

児童買春ツアーの実態

 児童の商業的性的搾取は、世界中の国々で、毎年大勢の児童に影響を与えている。この種の搾取の形態の1つが、増大しつつある児童買春ツアー現象である。児童との商業的性行為を目的に外国に旅行する人は、児童買春ツアー(CST=Child Sex Tourism)の罪を犯している。この犯罪行為は、不十分な法執行とインターネット、旅行の容易さ、そして貧困が原因で増大している。

 CSTの罪を犯す旅行者の多くが、自国から途上国へ出かけていく。例えば、日本のセックスツアー参加者はタイに出かけていき、アメリカ人はメキシコや中米に出かけていくことが多い。「相手を児童に特定しないセックスツアー参加者」は、児童との性行為を目的に旅行することはないが、いったんその国に入ると、子供を性的に利用している。「児童との性行為目的のセックスツアー参加者」または小児性愛者は、児童を性的に搾取する目的で旅をする。

 増大するCST現象に対応して、政府間組織や観光業界そして各国政府がこの問題に対処し始めた。1996年にストックホルム、そして2001年に横浜で開かれた「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」は、この問題に関する世界的な関心を高めた。世界観光機関は、CST対策を目的にしたタスクフォースを設立し、1999年に世界観光倫理規約を採択した。過去5年の間に、児童買春ツアー犯罪の起訴件数が世界的に増加している。現在では、32カ国に、犯罪が発生した国でその犯罪が処罰の対象になるか否かにかかわらず、海外で罪を犯した自国の国民を起訴することを可能にする域外適用法が定められている。

 児童買春ツアーに対する闘いを進めるために、賞賛すべき措置を講じた国もある。例えば、フランスの文部省は、旅行業界代表者と協力して観光業専門校のカリキュラム用にCSTに関するガイドラインを作成した。また、国営のエールフランス航空は、機内販売による玩具の売り上げの1部を、CST啓発活動に当てている。ブラジルでは、セックスツアーに対する国内外での啓発活動を行なっている。イタリアでは、児童セックス犯罪に対する域外適用法の存在を周知させることを旅行業者に義務付けている。またスウェーデンの旅行業社のほぼ全社が、自社の職員にCSTに関する教育を行なう行動規範に署名している。カンボジアでは、児童買春ツアー対策専門の警察部隊を組織し、外国の小児性愛者を逮捕し、送還している。日本では、外国で児童と性行為をした日本人が起訴されている。

 米国は昨年、人身売買被害者保護再承認法と児童保護法(PROTECT Act)を制定し、児童買春ツアー対策の能力を強化した。これら2つの法律により、CST情報の作成と配布を通じて認識を高め、児童買春ツアーに関った者の刑期を最高30年まで延ばす。「捕獲作戦」(Operation Predator=児童搾取・児童ポルノ・児童買春ツアー対策のための2003年度イニシアティブ)の開始後8カ月の間に、米国法執行機関は児童買春ツアーの罪で25人の米国人を逮捕した。全般的に見れば、国際社会は、児童買春ツアーという恐ろしい問題に対して目覚めてきており、重要な初期段階の方策を講じ始めている。


ジョージ・W・ブッシュ大統領の声明

国連総会での演説の抜粋
国連本部、ニューヨーク州ニューヨーク市
2003年9月23日

 目には見えにくいが、さらなる人道的危機が広がっている。世界では毎年、人間が売買され、国境を越えて強制的に連れ去られている。性的売買の対象にされたこれらの被害者の中には多くの10代の少女と、5歳の児童さえも含まれている。人間の売買により、毎年数10億ドルの利益が生み出され、大半が組織犯罪の資金源になっている。

 最も罪のない弱者に対する虐待と搾取は特別な悪である。性的売買の被害者は、通常の生活というものをほとんど知らずに、残酷と孤独な恐怖に満ちた隠れた世界、つまり最悪の人生を体験する。このような被害者を作り出し、被害者の苦悩により利益を上げる者たちは、厳重に処罰されねばならない。このような業界を利用する者は自らを卑しめるものであり、他者の苦痛を深めるものである。そして、このような売買を容認する政府は、ある種の奴隷制度を容認することになる。

 この問題はわが国にも存在しており、われわれはこれを阻止するための行動を起こしている。今年私が署名した児童保護法(PROTECT Act)により、児童買春ツアーの目的で、米国に入国をした者は国籍を問わず、またその目的で海外に旅行した米国人は、罪に問われることになった。司法省は、セックスツアー業者と利用者の捜査を積極的に進めており、これにより最高30年の禁固刑に処することも可能である。人身売買被害者保護法により、米国は、人身売買を防止するために、他の政府に対して制裁手段を用いている。

 この業界の被害者は、国連加盟国の助けも必要としている。そして、これは各国の法による明確な基準と確実な処罰から始まる。現在、海外での児童に対する性的虐待を違法行為とする国もある。そのような行為は、すべての国において違法にすべきである。各国政府は、この業界がもたらす害悪およびその利用者に与えられる厳重な処罰に関して、旅行者に知らせるべきである。米国政府は、搾取から女性と児童を救い出し、避難所を用意し、治療を施し、新たな生活への希望を与えている機関の活動を支援するために5千万ドルを用意している。私は、他の政府も役割を果たすことを強く求める。

 われわれは、この古くからの悪との戦いに新たな力を示さなければならない。大西洋間の奴隷貿易が廃止されてからほぼ2世紀、そして奴隷制度が最後の拠点で正式に終わってから1世紀以上が経過したわれわれの時代に、いかなる目的であれ人間の売買が広がるのを許してはならない。


この人身売買被害者の話は、2004年6月20日に改訂された。

 ノイは、タイの貧しい農村から出てきた。15歳の時、里子に出された先の家族によるレイプと性的虐待から逃れようとしたノイは、日本での高給ウエートレスの仕事を宣伝していたバンコクの国外職業紹介業者を見つけた。空路日本に入ったノイは後に、偽名を用いた観光ビザで日本に入国したことを知った。日本に到着後ノイが連れて行かれたカラオケバーのオーナーは、彼女をレイプし、血液検査を受けさせた後に、ノイを買い受けた。「まるで検査される肉の塊のように感じました」とノイは語った。売春宿のマダムはノイに、日本への旅行費用1万ドルの借金を返済しなければならないと告げた。 ノイはマダムに警告された。逃げ出そうとした少女たちは、日本のマフィアに連れ戻され、ひどく殴られ、借金を倍にされた、と。借金を返済する唯一の方法は、できる限り早く、多くの客を取ることだった。客の中には、彼女たちを、血が出るまで、棒やベルトや鎖で打つ者もいた。被害者が泣いて戻ると、マダムに殴られ、彼女たちが客を怒らせたに違いない、と言われた。 売春婦たちは、決まってセックスの前に「あまり痛みを感じないようにするため」麻薬を打たれた。客の大半が、コンドームを使うことを拒んだ。被害者には、妊娠を防ぐためにピルが渡され、妊娠すると家で中絶させられた。 借金を返し終えて、独立して働き始めた被害者の多くが、警察に逮捕され、罰金を科され、拘留され、そして強制送還される前にレイプされた。ノイは、最後には、日本のNGOの助けでなんとか逃げ出すことができた。
人身売買は、社会の崩壊を促す 家族および共同体の支援ネットワークを失うことは、被害者を人身売買業者の要求と脅威に対し無防備にし、いくつかの面で社会構造の崩壊につながる。人身売買は、子供たちを両親や拡大家族から引き離し、養育と精神的成長の機会を阻害する。人身売買は、親から子へ、世代から世代への知識と文化的価値観を受け継ぐ道を閉ざし、社会の中核となる部分を弱める。人身売買による利益は、しばしば特定の共同体に人身売買の慣行を根付かせ、その共同体は被害者を生み出す重宝な供給源として繰り返し利用される。人身売買の被害者となる危険から逃れるために、子供や女性のような弱者は身を隠すようになり、それが就学や家族構造に悪い影響を与えるようになる。教育の喪失は、被害者の将来の経済的機会を減らし、将来、人身売買の犠牲になる可能性を高くする。元の共同体に戻ることのできた被害者は、しばしば汚名を着せられ、排斥されることになり、社会福祉を継続する必要がある。彼らは、薬物乱用や犯罪活動に走る可能性が大きい。

人身売買は、組織犯罪を増幅させる  人身売買による利益が、他の犯罪活動をも増幅させている。国連によると、人身売買は、世界の犯罪組織にとって3番目に大きい収入源になっている。米国の情報機関の推定によると年間95億ドルの収入になっている。人身売買はまた、最も利益をもたらす犯罪ビジネスの1つであり、不正資金洗浄・麻薬取引・文書偽造・人間の密輸に密接に結びついている。テロとの関係を指摘する文書もある。組織犯罪の多発地域では政府と法の支配は弱体化している。

人身売買は、国の人的資源を奪う  人身売買は、労働市場に悪影響をもたらし、回復不能な人的資源の損失を招いている。人身売買の影響には、賃金の低下、増加する高齢者の介護に当たる人々の減少、そして教育不足の人口の増加などが含まれる。これらの影響は、さらに将来の生産性と収益力の低下につながる。児童を幼年期に毎日10時間から18時間も強制的に働かせることは、子供たちから教育の機会を奪い、国家の発展を妨げる貧困と非識字者の循環を補強する。

芸術・芸能ビザの悪用

 多くの国で、芸術・芸能ビザが、人身売買被害者の移動と搾取を目的に取得されている。多くの女性に、芸能界やサービス業での合法的な仕事に従事することを前提に芸術・芸能のための短期ビザが発給されている。このビザの多くが、クラブの所有者による労働契約または採用通知、資産証明、健康診断書などを提示することにより発給される。出身国と目的国の法律の下に認可された職業斡旋機関が、女性に対する詐欺行為と募集に主要な役割を果たすことが多い。目的地に到着後、被害者は、パスポートと渡航書類を奪われ、性的搾取や強制労働に追い込まれる。不法滞在したり、ビザの規約違反をすると、被害者は、搾取業者に、入国管理局に引き渡すと脅迫される。

 スイス、スロベニア、キプロス、日本(これらの国に限られているわけではない)など、この種のビザを大量に発給している国の政府は、人身売買業者がこのメカニズムを頻繁に悪用していることを認識しなくてはならない。例えば、日本が、2003年に5万5000件の芸能ビザをフィリピンの女性に発給したことが報告されている。これらの女性の多くが人身売買の犠牲になっていると思われる。関係当局は、この種のビザの発給要件を精査し、繰り返し申請を行う人や保証人になる人たちに対する特別な審査手続きを実施すべきである。出国側では、女性を労働搾取や強制売春に誘い込むために人身売買業者が用いる策略に関して、芸能ビザ申請者に注意を呼びかけること目的とした啓蒙活動を行う必要がある。


売春が人身売買を増幅している

 多数の学術団体、NGO、科学研究機関が、売春と人身売買に直接関連があることを確認している。事実、売春と、売春あっせん・仲介業、売春宿の利用および経営などの売春関連行為が、人身売買の窓口としての役割を担い、その裏で、性的搾取目的の人身売買業者が動いている。スウェーデン政府が行った調査は、世界の売春産業が生みだした巨額の利益の多くが、人身売買業者の懐に直接入っていることを明らかにした。国際移住機関の推定によると、毎年50万人の女性が、ヨーロッパ各地の売春市場で売買(人身売買)されている。

 毎年国境を越えて売買される60万人から80万人にのぼる被害者の70%が女性で、50%が子供である。これらの女性や少女の大半が、営利目的の性的売買の犠牲になっている。


タニヤの例。

「友達がエジプトでの仕事を私に手配してくれました。友達とキシネウからモスクワに行き、そこで私はエジプト行きの飛行機に乗りました。エジプトの空港に到着すると、入国管理と税関手続きを通るために1人の男性とペアを組まされました。そこに待っていた人たちが、私を最高級のホテルに連れて行きました。そのホテルの受付に預けた私のパスポートは私の手元に2度と戻ってきませんでした。彼らは、私を車に乗せ、とても長い時間走りました。ベドウィンが住む地区(エジプトのシナイ半島)に着くと、ベドウィンは私たちを連れて砂漠を行きました。ある時、銃声が聞こえました。女の子が1人殺されたようです。ベドウィンは、態度が気に入らないと、殺したり、殴ったりするのです。私たちは長時間地雷の埋められている砂漠を歩き続けなければなりませんでした。彼らは、地雷が埋められている砂地を指し示しました。ほとんど食べ物を与えられなかったので、イスラエルに着いた時には10キロもやせていました。砂漠を出た後、イスラエルのある町に連れて行かれ、そこでベドウィンは私たちを売り渡す手配をしました。大勢の少女が私と旅をしました。イスラエルに連れて行かれる少女は全員同じ道をたどり、同じような扱いを受けるのです」

*************
 
 タジク人の少女ナスリーンは、モスクワで働いていた。ナスリーンのボスは、お金と家と車と良い暮らしを約束して、愛人になることを求めた。ナスリーンはこの申し出を受け入れた。ある日、家を訪れた客がナスリーンに、トルコで働く機会があると勧めた。ナスリーンのボスは、彼女にこの申し出を受け入れることを強要した。ナスリーンは、だまされ、イスラエルで売られ、売春を強制された。親切なジャーナリストの助けを借りて、ナスリーンはそこを逃げ出て、家に戻ることができた。
人身売買は、公衆衛生を蝕む 人身売買の被害者の多くが、肉体的、性的、精神的外傷をもたらすような過酷な状況に耐えている。性感染症、骨盤内炎症性疾患、HIV/エイズは、強制売春が原因の場合が多い。不安、不眠症、うつ病、心的外傷後ストレス障害は、人身売買被害者の間に共通する精神的徴候である。不衛生で混雑した生活環境が、栄養不良と相まって、疥癬や結核などの感染症を引き起こす原因になっている。子供は、成長と発育上の問題に苦しみ、貧困や精神的外傷による複雑な精神的・神経系統問題を抱えることになる。

 最もひどい虐待は子供に対して行われることが多い。子供は、管理しやすく、家事労働や武力衝突その他の危険な仕事に駆り出しやすい。子供は、進行性搾取つまり複数回にわたる売買の対象になりやすく、際限のない肉体的、性的、精神的虐待の対象にされる。このような虐待は、子供の精神的、肉体的リハビリテーションと社会復帰を困難なものにしている。

人身売買は、政府の権威を失墜させる 多くの政府が、自国の領土、特に腐敗がはびこる地域を完全に管理しようと懸命に努力している。武力衝突、自然災害、政治紛争、民族紛争が、多数の国内難民を生み出すことが多い。さらに、人身売買業者は、政府の権限を行使しようとする努力を阻害し、弱い立場の人々の安全に脅威を与える。多くの政府が、家や学校あるいは難民キャンプから誘拐されないように女性と子供を守ることができない。さらに、人身売買業者が払う賄賂が、法執行官、入国管理職員、司法当局職員の腐敗と戦う政府を妨げている。

人身売買は、巨額な経済的負担をもたらす 人身売買の根絶によって、極めて大きなな経済効果が得られる。国際労働機関(ILO)は最近、児童売買を含む最悪な形態の児童労働根絶の損失と利益に関する調査を完了した。ILOは、最悪な形態の児童労働根絶による経済効果は巨額(年間数百億ドル)なものになると結論付けている。その理由は、新世代の労働者が、教育の改善と公衆衛生の向上により得られる生産性の向上である。人身売買も、最悪の形態の児童労働と同様の人間的、社会的影響を及ぼしている。

 

少年兵の実態

 少年兵の問題は、人身売買の中でも特異かつ深刻なものである。多数の18歳未満の子供たちが、政府軍、武装民兵組織、反乱軍の兵士として、武力衝突に徴兵されている。誘拐され、兵士になることを強制された子供もいれば、脅迫や賄賂あるいは口約束の報酬で兵士になった子供もいる。

 多くの場合、食料や衣類そして住居を期待して武装組織へ参加するという子供の決断を、自由な選択と見なすことはできない。武力衝突に引き込まれた子供たちは、生き延びる手段を懸命に求めているのだ。精神的、肉体的に未熟な子供たちは、利用されやすく、また暴力行為を強制されやすい。暴力に対して鈍感にさせたり、より勇敢に戦わせるために、少年兵の多くにアルコールや麻薬の使用を強制している。

 強制的に徴兵された子供の多くは、不適切な訓練を受け、手荒に扱われ、すぐに戦闘に駆りだされる。少年や少女は、年長兵士に先んじて戦闘や地雷敷設区域に送り出される可能性がある。自爆作戦に利用されたり、自分の家族や地元社会に対する残虐行為を強制された子供もいる。またリベリアで最近起きた紛争に巻き込まれた1万5000人の子供の一部のように、荷物運び、料理、見張り、召使い、伝令、スパイの仕事をさせられる子供もいる。多くの少年兵は、そのほとんどが少女兵だが、性的虐待を受けており、性感染症感染と望まない妊娠の大きな危険にさらされている。

 少年兵の死傷率は、成人兵士の場合に較べて、はるかに高い。徴集された子供の顔や胸にナイフやガラスの破片で「印」をつける武装集団もあることが知られている。生き残った少年兵の多くが、自分たちが受けた暴力や蛮行による複数の外傷や精神的傷害に悩まされている。少年兵の人間としての成長は、取り返しのつかないほど傷つけられている。少年兵の家族や地元社会は、少年兵や、少年兵が属する集団が家族や地元社会に対して行った暴力行為を理由に、元少年兵だった人々の復帰を拒むことが多い。

 大人の戦争に子供を利用することは、世界的な現象である。この問題は、アフリカとアジアにおいて最も深刻ではあるものの、南北アメリカやユーラシアおよび中東の武装集団も子供を利用している。少年兵の利用を禁止または制限する法律や国際的責務を実行する政治的な意思が欠如している国が多数見られる。すべての国が、国際機関やNGOと協力して、少年兵の武装解除、復員、社会復帰に向けた行動を緊急に起こす必要がある。

 

人身売買と人の密輸の違い


 人の密輸と人身売買の違いは、紛らわしい。この紛らわしさが、正確な情報、特に経由国からの正確な情報の入手を困難にしている。人身売買は、必ずしも人の密輸は伴わない。被害者が、国内でまたは国境を越えて移動することに最初は同意している場合があるからである。多くの場合、両者の行動を区別するためには、被害者の最終状況に関する詳細な情報が必要になる。

 人の密輸とは、利益を得るために、人の不法入国をあっせんまたは輸送を行うことであると一般的に理解されている。しかし、不法入国または不法通過それ自体は、多くの場合危険または劣悪な状況下で行われるものの、人身売買ではない。人の密輸では、その行為に移住者が同意している場合もある。一方、人身売買の場合は、被害者が同意することは決してない。仮に、被害者が当初は同意したとしても、その同意は、売買業者による強制、偽り、虐待行為により無効となる。人身売買被害者は、売春や搾取的な労働を強制されることに気付いていない場合が多い。従って、人の密輸が人身売買につながることもある。人身売買が人の密輸と異なる重要な構成要素は、偽りや暴力または強制という要素である。

 人の密輸と異なり、人身売買は被害者が国内を移動するあるいは、国境を越えるかに関らず起こり得る。TVPAの下で、厳格な意味での人身売買には、被害者が、搾取される場所へ移動することは必要条件にはならない。被害者が、「強制労働、借金返しの奴隷労働、借金による束縛、奴隷の対象として、暴力・偽り・強制によって、労働またはサービスのために」集め、かくまわれ、提供され、獲得されることが、人身売買行為と定義される。


人身売買業者が用いる手口

 奴隷売買業者は、弱者を食い物にする。彼らは、子供や若い女性を狙うことが多い。彼らのやり方は標的となる被害者をだまし、強制し、その信頼を得ることを狙うような、巧妙かつ冷酷なものである。こうした企みには、結婚、仕事、教育の機会、より良い生活の約束がしばしば利用される。

 例えば、インドでは、人身売買業者が、裕福な商人を装い、自分が娘の格好の結婚相手であると両親に信じ込ませる。結婚後、少女は、性的虐待を受けて、売春のため売り渡される。中には、この手口を用いて、異なる村出身の何人もの女性と「結婚」している男のいることが知られている。

 ウガンダでは、「神の抵抗軍」の反逆者が、夜間に村を襲い、兵士や性的奴隷として働かせるために子供を誘拐する。東アジアでは、人身売買業者がバンコクやプノンペンなどの都市を訪れて、ホテル、レストラン、商店で働く若い女性と親しくなり、その女性を他の国での「休暇」に誘う。到着後、女性のパスポートは取り上げられ、売春宿の主人に引き渡される。そして、性的奴隷の生活を容赦なく教え込まれる。

 わずか16歳のウクライナの少女は、ダンスで知り合った若い男に、ドイツでの看護婦の仕事を紹介される。夜、密入国した少女は、売春宿に引き渡され、売春婦として働かされる。インドネシアの農村の少女が、給料が約束され近隣国で家事手伝いの仕事をするが、給料が約束通りに支払われることはない。中国南部の農村の少女が、経済的恩恵を求めてマレーシアに出かけ、そこで性的隷属を強いられる。あるいは、ベトナムの農村に住む若者が工場で働くために、太平洋の島に出かけるもののパスポートを取り上げられ、あまりにも少ない給料のため旅費の返済もできない者もいる。無力な若者が、最も残酷な搾取の犠牲になることが多い。

農村に住むボファが結婚したのは17歳の時だった。夫は直ちに彼女を別の村のホテルに連れて行き、そこに置き去りにした。そのホテルが売春宿だと分かり、ボファは逃げ出そうとした。しかし、ボファは監禁され、ホテルのオーナーは、ボファのために支払った金の返済を求めた。ボファの借金は、食料・衣服その他の生活必需品の支払いのために、増え続けた。ボファは、逃げることができなかった。HIV/エイズに侵されたボファは、通りに放り出され、最後にプノンペンにあるNGOの避難所にたどり着いた。そこで治療を受けながら2年を過ごしたボファが、あと何年生きられるか分からない。
人身売買の要因

 人身売買には、多くの異なった原因がある。これらの原因は複雑であり、しかも互いに補強することが多い。人身売買を国際市場として見ると、被害者は供給サイドにあり、搾取雇用主や性的搾取業者が需要サイドにある。

 被害者の供給を助長する要因には、貧困、他の土地ではより良い生活があるだろうという誘引力、脆弱な社会・経済構造、雇用機会の不足、組織犯罪、女性と子どもに対する暴力、女性に対する差別、政府の腐敗、政治の不安定、武力衝突、伝説的な奴隷制度などの文化的しきたりなどが挙げられる。中には、里子の風習により、教育と職業訓練を施すことを条件に、3番目あるいは4番目の子供を、大家族(多くの場合「叔父」)の家族と共に住み、働くために都会に送り出すことを認める社会もある。こうしたしきたりを悪用して、人身売買業者の多くが、職業あっせん業者を装い、両親に子供を手放すように仕向けて、その後子供を売春や強制家事労働や営利事業に売り渡してしまう。最終的に家族に送金される給料はほとんどなく、子供には教育も訓練も与えられず、家族から引き離され、期待された経済機会はまったく実現されない。

 需要サイドで人身売買を後押しする要因としては、性産業および搾取労働への拡大する需要がある。セックスツアーと児童ポルノは、利用者に非常に多くの選択肢を与え、即時でしかもほとんど検知できない取引を可能にするインターネットなどのテクノロジーに助けられ、世界的な産業になった。人身売買はまた、安価で、脆弱で、不法な労働力に対する世界的需要があることにも後押しされている。例えば、東アジアの裕福な国々では、家事使用人に対する需要が非常に大きい。これら使用人の中には、搾取や強制労働の犠牲になる者もいる。

 妻や愛人としての若い女性に対する需要の新たな原因は、インドや中国の人口密集地帯で広がりつつある出生率の男女格差である。インドでは現在、男女の出生率は、男子1000人に対して女子は933人に過ぎない。これは主に、インドの家父長制の強い社会において女の子が経済的負担になるとの認識のせいである。夫婦の多くが、安価で手に入りやすい超音波診断器を用いて胎児の性別を判別して、女子だと分かると、その胎児を中絶する。インドの2001年人口統計データを2003年に分析調査した結果によると、出生率の男女格差が最も深刻な州は、豊かな北西部のハリヤナとパンジャブであり、中には、男女の出生率が、男子1000人に対して女子が825人以下にまで落ちている地域もある。
 同様の出生率格差が、中国の各地で起きているが、原因は、政府の1人っ子政策にある。この政策のために、多くの親が、女子と判別された胎児を中絶するようになったのである。北朝鮮やベトナムの少女や女性が、中国南部に売り飛ばされて、強制的に妻にされ、売春させられていると伝えられている。このような男女の出生率格差は、長年続いていて、現在、インドと中国両国の特定地域において著しい嫁不足問題が起こっている。
被害者の救出

 この報告書が示すように、世界全体での人身売買被害者の数は、膨大である。被害者の多くが、売春宿、労働搾取工場、少年兵キャンプなどの人身売買の現場を調査しているNGOや政府機関の活躍により発見されている。

 被害者の迅速な救助は、最優先課題である。しかし、救助することで、苦しみが終わるとは限らない。国によっては、適切な保護施設が不足しているところもあり、子供を含む被害者を刑務所に入れて、さらに精神的打撃を与える場合もある。必要書類が十分そろっていない外国人被害者を、健康や安全に配慮することなく即座に強制送還する国もある。そのような場合、多くの被害者が、苦痛の上にさらに借金を負わされて再び売り渡され、虐待を受けることになる。

 性的搾取、強制労働、束縛労働、少年兵強制の被害者の精神的・肉体的苦痛は、関係当局にとって長期的課題となっている。カウンセリング、シェルター、医療、職業訓練が、被害者の完全なリハビリテーションと、出身地である地域社会への完全復帰のために必要である。

 被害者の救助と同様に重要な課題が、救助後の長期的アフターケアとリハビリテーションであり、計画と相当の資源が必要になる。被害者に敬意をもって接し、また被害者に新生活を開始するための適切な機会を与えることを確保するための包括的サービスを実行する必要がある。しかしながら、適切な保護施設の不足を、被害者を解放しない口実にしてはならない。

非自発的強制労働

 発見が最も困難で悪質な人身売買の形態の1つが、非自発的強制労働である(法的定義については下記を参照)。開発途上の地域社会にある家を離れて、都市その他のより開発の進んだ地域社会へ、仕事を求めて短距離または長距離の旅をする経済目的の移住者の多くが、非自発的強制労働の標的にされやすい状況にある。建設労働者や家事使用人などの未熟練労働者であることが多い大部分の経済目的の移住者は、自分と家族の利益となる搾取のない仕事を得ている。

 しかし、経済目的の移住者の中には、雇用主の虐待を受ける者もいる。この虐待には、雇用主による言葉および肉体的虐待、または給与の不払いや休憩拒否などの雇用契約不履行による虐待などがある。さらに少数だが、自分が捕らわれの身であると感じるほど搾取されている者もいる。

 では、どのような搾取・虐待の労働状況が、非自発的強制労働と見なされるのだろうか。答えは、米国の法律であるTVPAに示されている。雇用主が、自分の仕事に労働者を従事させるために、言葉または肉体的虐待、あるいはそのような虐待を示唆する脅迫を行う場合を、非自発的強制労働としている。虐待や物理的な束縛を受けることなく、その仕事から逃れることができないと従業員に信じ込ませるように雇用主が故意に仕向けた場合を、非自発的強制労働としている。雇用主の行動や脅迫が非自発的強制労働の状況をつくり出している場合には、従業員を仕事から離れないように物理的に束縛することは条件にならない。従業員の旅券、就労許可証あるいは身分証明書などの旅行関連文書を没収するような雇用主の行為は、非自発的強制労働の条件を満たす物理的束縛行為の1つである。こうした理由により、多くの政府が、外国人従業員の移動の基本的自由を確保する重要な手段である旅行関連文書を雇用主が保持する行為を違法とみなしている。

 労働者が酷使される労働環境から逃れる自由があると感じ、その労働に起因する実際の虐待、または虐待と認められる行為に関する公正な聴取を受けることができるよう確保することは、雇用主の責任であり、政府当局の責任である。

人身売買との戦いにおける効果的戦略とは

 効果的な反人身売買の戦略は、人身売買の3つの側面すべてに的を絞ることである。すなわち、供給サイド、人身売買業者、需要サイドである。

 供給サイドに関しては、人身売買を促す要因に対してさまざまなプログラムで対処する必要がある。プログラムには、人身売買の危険性について地域社会への警告、教育機会と教育制度の改善、経済機会の創出、平等な権利の促進、標的にされる地域社会に向けた法的権利に関する教育、そして生活機会の向上と拡大の創出が挙げられる。

 人身売買業者に対しては、法執行プログラムにより、売買ルートの確認と遮断、法的定義の明確化と法執行責務の調整、人身売買業者および業者を援助しほう助する者に対する積極的な訴追、法の支配をむしばみ、人身売買を促し、利益を上げる社会の腐敗との戦いを進めなければならない。

 需要サイドに関しては、人身売買被害者を搾取する者たちを確認し、訴追しなければならない。非自発的強制労働の雇用主と性的搾取のために売買された被害者を搾取する者を名指し、恥じ入らせなければならない。人身売買被害者が送られる国では、人身売買行為の隠ぺいや黙殺を困難にすることを目的に、意識向上キャンペーンを行う必要がある。人々を、奴隷同様の労働環境から取り戻し、彼らの家族や地域社会に復帰させなければならない。

 地方、州、国、地域の人身売買対策プログラムを調整する必要がある。この問題に対する社会の関心を高めることにより、各国政府は、人身売買対策への資源配分を増やし、この問題に対する理解を深め、政府の効果的戦略の策定能力を向上させることができる。国内、2国間、地域内の調整と協力により、戦いのための各国の努力を強化し、ボランティアを集める。人身売買業者に法的保護を与えないために国際基準を調整し、各国の協力をさらに緊密にするべきである。

 人身売買に関する知識を高め、人身売買対策機関のネットワークと努力を強化しなければならない。宗教団体、NGO、学校、地域社会の団体、伝統的指導者をこの戦いに動員する必要がある。被害者とその家族には、職業訓練と代替の経済機会が欠かせない。人身売買対策戦略を定期的に見直して、戦略が革新的かつ効果的であり続けることを確認しなければならない。最後に、人身売買対策の技術に関する訓練を政府職員に行い、また、問題の実態と規模を明らかにするため人身売買の流れを統計的に追跡して理解を深めなければならない。

売春の合法化が人身売買の抑止につながるか

 米国政府は、売春合法化の提案には強固な立場で反対している。売春は現代の奴隷売買に直接的に寄与し、本質的に尊厳をおとしめるものであるからである。法執行機関が売春を容認し、地域社会がこれを合法化すれば、組織犯罪集団が、より自由に人身売買を行うことになる。売春が合法化された場所では、性的サービスのコストに、売春宿の家賃、検診費用、および登録料が含まれる。これらのコストを部分的な理由として、利用者が安価なセックスを求め、売春が合法な地域で違法売春が盛んになった。売春が合法化された国の中には、無登録売春を行う女性の数が、登録女性の3倍から10倍に及ぶ国もある。これら無登録女性の多くが、売買された外国人である。合法化により人身売買の被害者の数が減少したという証拠はどの国にもない。また、この分野で活動しているNGOは、人身売買の被害者の数はしばしば増加している、と指摘している。要するに、売春が合法化されている場所では、搾取業者が、合法売春市場の監督・規制コストを避けて利益を最大にしようとするために、人身売買の「闇市場」が出現するのである。従って、売春の合法化は、人身売買業者の性的奴隷売買を正当化し、被害者の発見をより困難にするための最高の隠れみのとなる。

人身売買被害者数の推定

 米国政府の推定によると、昨年1年間で世界の60万から80万の人々が、国境を越えて売買された。データの分析により明らかになったのは、国境を越えて売買された被害者の80%が女性であり、このうち70%が性的搾取のために売買されたことである。米国に入国して売買された被害者の数は、1万4500人から1万7500人と推定された。この数字は、人身売買の流れを推定するために改善された方法を使って最近改定されたものである。国内での人身売買を含む世界の被害者数は、200万から400万人と推定される。

 全世界の人身売買被害者の数を推定することは、本質的に困難な作業である。麻薬取引や武器密輸と同様に、人身売買も秘密の活動であり、無数の形態により定量化をさらに困難なものにしている。人身売買は、外国人の密入国や移住労働の極端な虐待の一部分として隠されていることが多い。さらに、人身売買のデータの入手可能性が、地域により大幅に異なる。例えば、中東への、中東からの、中東を経由して行われる人身売買のデータは著しく不足している。この報告書で米国政府が主として引用しているのは、国境を越えて売買された被害者数の推定である。これらの被害者は、各国国内で売買される被害者ほど確認が困難ではないためである。


「過酷な形態の人身売買」の定義


 人身売買被害者保護法(TVPA)では、「過酷な形態の人身売買」を次のように定義している。

a. 暴力、詐欺あるいは強制により営利目的の性行為を強いたり、強いられた人が18歳未満の場合の性的人身売買。

b. 強制労働、借金返済のための奴隷労働、債務奴隷または奴隷に従事させる目的で、暴力、詐欺あるいは強制により、労働またはサービスを行う人を募集、かくまい、運搬、供給または取得する行為。

用語「過酷な形態の人身売買」の中で使われた言葉の定義

性的人身売買」は、営利目的の性行為を目的に、募集、かくまい、運搬、供給、取得することを意味する。

営利目的の性行為」は、対価の授受により行われる性行為を意味する。

非自発的強制労働」には、以下のような手段により強制される奴隷状態が含まれる。

a. もし奴隷状態に入らないか、あるいは継続しない場合には、本人または他の人に重い危害または肉体的制約が加えられると信じ込ませるような策略、計画またはパターン。

b. 法的プロセスの悪用または悪用するという脅迫。

債務奴隷」は、合理的に評価されたサービスの価値が債務の清算に適用されず、またはサービスの期間が定められず性質が定義されていない場合、債務者による人的サービスの約束に起因する債務者の状態または状況、または債務の担保として支配下に置かれる人の状態または状況を意味する。

強制」は、以下を意味する。

a. 人に重大な危害または肉体的制約を加えると脅迫する行為。

b. ある行為を行わない場合には、誰かに重大な危害または肉体的制約が加えられると信じ込ませるような策謀、計画またはパターン。

c. 法的プロセスの悪用または悪用をするという脅迫。



当報告書について

 人身売買報告書は、過酷な形態の人身売買に対する各国政府の対策に関する最も包括的で世界的な報告書である。この報告書で扱われている期間は、2003年4月から2004年3月までである。

当報告書に含まれる事項と含まれない事項 人身売買年次報告書には、多数の過酷な形態の人身売買の被害者の出身国、経由国、目的国とされた国1が含まれる。奴隷問題は、世界のあらゆる国に広がっている可能性があるため、ある国が除外されている場合、その国に関する適切な情報が不足していることを示すに過ぎない場合もある。各国に関する報告は、地域別に構成され、当該国の人身売買問題の規模と性格、当報告書に含む理由、人身売買対策への取り組みについて述べている。また、当該政府の最低基準順守に対する評価や人身売買対策に関する提言も含まれている。これ以外には、人身売買に対する法執行、被害者保護、そして防止に向けた当該国政府の努力に関して述べた上で、当該国を第1階層、第2階層、第2階層監視リスト、または第3階層に格付けした根拠を説明している。

1)台湾関係法第4条b項には、「米国の法が、外国、国家、政府または同様の組織に言及する場合、そのような条文には、常に台湾が含まれており、またそのような法律は台湾にも適用される」とある。

 国の中には、人身売買対策行動に向けた目標と基準を設定するために実行チームと行動計画を設けた国もある。しかし、国の取り組みを評価する際、計画と実行だけでは高い評価を得られない。むしろ、当報告書が重視したのは、人身売買業者に対する訴追、有罪判決、実刑判決、被害者保護、防止努力を重点とした、人身売買対策のために各国政府が行った具体的な行動である。当報告書では、法案や施行前の法律には高い評価を与えていない。しかし、実行チームや行動計画あるいは法案の中には、人身売買対策として各国政府が行った予備的行動の例として、各国に関する報告の中で触れているものもある。最後に、教育プログラム、経済開発の支援、または男女平等促進のためのプログラムなどの人身売買阻止に間接的に貢献する活動は、価値ある試みではあるものの、当報告書の主眼ではない。

今年の報告書はどの点が違うのか 2003年人身売買被害者保護再承認法(TVPRA)により、TVPAに対して幾つかの重要な変更が加えられた。人身売買根絶のための最低基準の4つのうち3つには、変更はない。最低基準は以下の通り。

1. 当該政府は、過酷な形態の人身売買を禁止し、そのような売買を処罰しなければならない。

2. 暴力、詐欺、強制を含む性的人身売買のあらゆる行為、意味のある同意をする能力のない児童が被害者となる性的人身売買、レイプや誘拐を含むか、または死を招く人身売買行為の故意の遂行に対して、当該政府は、性的暴行のような重大犯罪と同等の刑罰を規定すべきである。

3. 過酷な形態の人身売買のあらゆる行為の故意の遂行に対して、当該政府は、十分な抑止効果があり、そしてこの犯罪の凶悪性を適切に反映する厳罰を規定すべきである。

4. 当該政府は、過酷な形態の人身売買根絶に向けた真剣かつ継続的な取り組みをするべきである。

 第4の最低基準は、改定および補足され、7つではなく10の基準を考慮することを現在求めている。基準(1)では、捜査と訴追だけではなく、有罪判決と刑罰、そして国務省の法執行データ提供の要求に各国政府が応じているかどうかをも考慮することを求めている。基準(7)は、汚職対策に関連し、人身売買に関与した政府職員に対する訴追、有罪判決、刑罰、およびそのようなデータを当該政府が提供したかどうかを考慮することも求めている。新たな3つの基準は以下を求めている。

8. 当該国の国籍を持たない過酷な形態の人身売買被害者の比率が微少か否か。

9. 当該政府が、その能力に応じて、第1節から第8節までに述べられている基準を満たすための政府の努力を組織的に点検し、そうした取り組みの定期的評価を公表しているか否か。

10. 当年度に当該政府が、過酷な形態の人身売買根絶のための前年の評価と比べて目に見える進歩を遂げているか否か。

 人身売買根絶のための最低基準順守に向けて、ある国が真剣かつ継続的な取り組みをしているか否かを評価する基準は、当報告書の付録に掲載されている。

 TVPRAはまた、翌年1年の間、特別な監視を受ける国の「特別監視リスト」を作成した。このリストは、1)2003年報告書では第2階層だったものの今回は第1階層にリストされた国、2)2003年報告書では第3階層だったものの今回は第2階層にリストされた国、3)当報告書で第2階層にリストされ、かつ以下の条件に該当する国により構成される。

a. 過酷な形態の人身売買の被害者の絶対数が、極度に大きいか、または極度に増加している。

b. 前年来の過酷な形態の人身売買対策強化を示す証明の提示をしていない。この証明には、人身売買犯罪に対する捜査、訴追、有罪判決の増加、被害者支援の強化、政府職員による過酷な形態の人身売買関与の減少が含まれる。

c. 国が最低基準順守に向けて顕著な努力を払っているとの判定が、翌年にはさらなる措置を講じていくという国のコミットメントに基づいている。

 特別監視リストの国は、2005年2月1日までに米国連邦議会に提出される中間評価において再審査される。

なぜ2004年報告書には昨年の報告書よりも多くの国別評価が含まれているのか? 2004年報告書には、前年の報告書よりも16カ国多い140カ国における人身売買と政府の対策に関する分析が含まれている。過去、いくつかの国が含まれなかったのは信頼できる完全な情報を集めることが困難だったからである。その理由として、違法かつアンダーグラウンド的な性格があること、政府プログラムの欠如または初期段階にあること、人身売買と密入国との識別が困難であること、しばしば違法に国境を越えたり、肉体的に虐待や強制を受けたりする人身売買被害者の恐怖心と沈黙、がある。また、いくつかの国では、情報はあるものの、そのデータが、国から国へ、または国内で売買された人数が、人身売買報告書に含める基準であるおよそ100人かそれ以上であることを裏付けていなかった。

 過去1年の間、多くの政府からの反応が強くなり、被害者に保護サービスの存在を知らせるための社会啓発キャンペーンが増加し、人身売買対策における透明性が向上している状況を目の当たりにしてきた。このような前向きな行動により、国務省は今年は、より多くの国の情報を入手できた。国務省は、より多く、より確かな情報が入手可能なため、将来は多数の人身売買被害者を抱える国のすべてを報告書に含める。

「階層」についての説明

第1階層: 政府が、人身売買被害者保護法(TVPA)の求める最低基準を完全に順守している国。

第2階層: 政府が、TVPAの求める最低基準を完全に順守していないが、順守に向け大きな努力をしている国。

第2階層監視リスト: 政府が、TVPAが求める最低基準を完全には順守していないが、順守に向け大きな努力し、かつ以下の条件に該当する国。

a. 過酷な形態の人身売買の被害者の絶対数がかなり多いか、またはかなり増加している。
b. 前年からの過酷な形態の人身売買対策強化を示す証明を提示していない。
c. 翌年にかけさらなる措置を講じていくという国のコミットメントに基づいて、その国が最低基準順守に向けて大きな努力をしていると判定した場合。

第3階層: 政府が、最低基準を完全に順守せず、順守に向け大きな努力をしていない国。

当報告書の使われ方
 当報告書は、対話の継続といくつかの政府の行動を奨励するための手段として、また訴追、保護、防止プログラムと政策に資源を集中させる手助けとなる指針として、米国政府が用いる1つの外交手段である。今年の報告書発表後、これまでと同様に、国務省は、人身売買根絶に向けた協調的取り組みを強化するために、当報告書の内容に関して各国政府を関与させ続ける。来年、とりわけ、第3階層に分類されている国に対する制裁措置と監視リストに分類されている国に対する中間評価を決定する前の数カ月間、国務省は、この報告書作成に際して収集した情報を用いて、より効果的に支援計画の目標をしぼり込み、人身売買対策を進める上で援助を必要とする国と協力していく。国務省は、この報告書が、世界で人身売買対策を進める政府や非政府組織の活動の促進剤になることを期待している。

方法 国務省は、世界中の米国大使館、領事館、在ワシントン外国大使館、人権問題や人身売買問題に取り組んでいる非政府組織や国際機関から、この報告書のための情報を入手した。各国政府担当官、地元および国際NGO代表者、国際機関担当官、ジャーナリスト、学者、そして被害者など幅広い層の人々との会合を含み、十分な調査を基に、米国の外交官は、人身売買の状況および政府の対策に関して報告した。

 人身売買監視対策室は、米国大使館の担当官からの情報、外国政府担当官およびNGOや国際機関の代表との会合、既刊の報告書、各地域への出張調査で得た情報、各国政府の人身売買対策の進展度をNGOや個人が報告するために設けられたEメールアドレス tipreport@state.govに寄せられた情報を用いてこの報告書の草案をまとめた。今年の報告書の作成に際して、国務省は、これらの各国の情報源を見直して、以下の評価を行った。各国政府の評価は、2段階のプロセスにより行なわれた。

第1段階:被害者数の多さ 最初に、国務省は、その国が、「多数の過酷な形態の人身売買の被害者の出身国・経由国・目的国」であるかどうか、つまり前回の報告書でも適用された基準である被害者数が100人を超える国であるか否かを判定する。この基準値に達した国のみが、当報告書に含まれる。このような情報が入手できなかった国は、含まれない。

第2段階:階層の設定 国務省は、2003年人身売買報告書に含まれる国々を、TVPAで定められた階層と称する3つのリストに分類した。分類は、各国政府の人身売買対策の範囲を基に行なわれる。国務省はまず、当該政府が人身売買根絶に向けたTVPAで定めている最低基準を完全に順守しているか否かを評価する。順守している国は、第1階層に分類される。それ以外の国に関して、国務省は、順守に向けて大きな努力をしているか否かを検討する。大きなな努力をしている国は、第2階層に分類される。政府が最低基準を完全に順守せず、順守に向けた大きな努力もしていない国は第3階層に分類される。最後に、特別監視リストの条件が検討され、該当すれば同リストに分類される。

 TVPAが定めているように、第2階層と第3階層の判定に際して国務省が考慮するのは、当該国における人身売買全体の規模、政府の最低基準不順守の度合い、特に政府職員の人身売買への加担、援助、黙認あるいは共謀の規模、当該政府の資源と能力に照らし合わせた上で政府が最低基準順守に向けて取るべき妥当な措置である。

罰則 第3階層にリストされた国の政府は、何らかの制裁の対象になる可能性がある。米国政府が、人道的支援以外の支援や貿易関連以外の支援を停止することもあり得る。このような支援を受けていない国に対しては、教育・文化交流プログラムに参加する資金の供与を停止する可能性がある。TVPAに従い、これらの政府に対する、国際通貨基金や世界銀行等の多国間開発銀行などの国際金融機関からの支援(人道的、貿易関連、特定の開発関連支援を除く)に米国が反対することもある。これらの予想される結果としての罰則は、翌会計年度が始まる2004年10月1日に実施される。

 TVPAに基づく制裁のすべてまたは一部は、当該支援の提供がこの法の目的を促進するか、または米国の国益に沿うものであると大統領が判断した場合には、免除される。TVPAは、女性や子どもを含む弱者に制裁が及ぼす著しい悪影響を避けるために、必要な場合には制裁を免除することも定めている。報告書が発表された後、また制裁が実施される前に、当該政府が最低基準を順守しているか、または順守に向けた大きな努力をしていると大統領が判断した場合には、制裁が免除される。

 階層の分類に関わらず、米国も含めて、各国にはさらになすべきことがある。階層の分類は不変ではない。すべての国は、人身売買対策に向けた努力を続け、強化していかなければならない。米国は、あらゆる形態の現代の奴隷制度を根絶するための国際強調を強化するため、世界中で進展を監視し、パートナーとの協力を継続する。


II. 世界における成功例

 2004年人身売買報告書の作成中、および年間を通じて国務省が外国政府、国際機関、非政府組織と関わってきたことで、数多くの革新的な人身売買対策が明らかになった。これらの努力の多くが特に注目されるのは、持続可能かつ低コストな人身売買対策措置だという点である。これらの取り組みやプログラムが、革新的で創造的であること、確固たる具体的な結果をもたらしていること、持続可能であること、他地域で模倣できる可能性があることから、ここに成功例として記述した。

買春ツアー阻止 パナマ政府は、児童ポルノ、買春ツアー、インターネット利用との関連で、人身売買問題に対処するため新たな人身売買対策法を制定した。特に注目すべき点は、新法による禁止事項を旅行客に対して書面で知らせることを航空会社、旅行会社、ホテルに義務付けていることである。

被害の事前阻止 コロンビア政府は、行政安全保障省(DAS)に対して、人身売買被害者になる可能性のある旅行者を発見し、彼らが国際線に搭乗する前に接触する権限を与えている。DASの職員は、被害者になる可能性のある旅行者に、人身売買と詐欺の求人である危険性を知らせようと試みる。2003年には、被害者になる可能性のある旅行者9人が、求人が詐欺であると説得され、国際線に搭乗しなかった。

経由国と目的国との協力 イタリア政府は、モロッコ政府の「プロジェクト・テクスティリア2000」(Project Textilia 2000)に資金を提供した。このプロジェクトは、イタリアへの密入国にかかわりがあることで知られるホウリグバ周辺の地域で行われている小規模プロジェクトに資金を出している。モロッコ国内で有給職の機会を提供することで、人身売買の被害者の発生を防ぐのが、このプロジェクトの目的である。イタリアに既に入国した被害者に関しては、イタリアの人身売買対策新法により、被害者支援計画のための別予算が組まれている。この予算の70%を中央政府が、30%を地方政府が支出している。

性売買を標的に マドリードの市議会は、2004年1月に売春と人身売買に対する包括的な対策を発表した。これには、防止、研修、被害者支援および利用者に対する警察の措置が含まれている。性的搾取を目的とする人身売買と戦う最善の方法は、被害者と同様に利用者にも焦点を当てることだという原則に基づいて、法執行手段の策定に際してスウェーデン政府の協力を求めた。

伝統的慣習との戦い 「里子」というアフリカの慣習が、人身売買取引に直接つながっている。子供の売買は、人身売買業者と子供の家族との間の私的な取り決めから始まり、その動機は、家族の悲惨な経済状況、そして人身売買業者の利益と安価な労働力への欲望である。典型的な例では、自給自足農業に従事している家族が、子供が教育を受け、実用的な職業知識を学ぶことができると聞かされている。非常に多くの場合、子供は、売買され、強制的家事労働や街頭での物売り、あるいは性的搾取などの事態に追い込まれる。これに対して、ガーナ政府は、「子供を帰宅させる作戦」(Operation Bring Your Children Home)を開始した。これは、子供を人身売買業者に売り渡した家族に対し事業支援、職業訓練、小額の短期融資、学費と制服の支援を提供する代わりに子供を呼び戻すよう奨励することが目的である。このプログラムへの社会的関心を高めるために、ガーナ警察は、アクラにある大型トラックの駐車場で情報提供のための集会を開き、運転手や運送組合代表に対して人身売買被害者を発見するための研修を行った。

没収金を利用した人身売買対策支援 多くの国において、特に最近、資源がテロ対策へと向けられてからは、人身売買対策用資金の優先順位は低い。ドイツのバーデン・ビュルテンブルク州では、人身売買業者からの没収金を将来の捜査費用の資金に当てている。

外交官の連携と情報の共有 ドミニカ共和国の外務省は、人身売買されるドミニカ女性の主要目的国にある自国の大使館や領事館で働く外交官を結ぶ4つの「人身売買対策ネットワーク」を創設した。ネットワークは、中米、カリブ海諸国、南米、ヨーロッパにある。外交官は、人身売買問題の防止対策に積極的に取り組もうとしている。外交官は、駐在国政府と協力して、ドミニカ人被害者(その多くが、人身売買業者の手から逃れて、領事館へ逃げ込み、助けを求めた)の特定と支援、人身売買のパターンに関する情報の収集、そして人身売買業者の特定を行なっている。この情報は、外務省領事部に報告され、人身売買との戦いにおけるドミニカ共和国の同盟諸国と共有される。

規制、検分、研修手段の利用 フィリピン政府は、1317の認可された労働力輸出業者を規制し、抜き打ち検分と定期検分を行っている。政府はまた、海外で働こうとする労働者に対して、出国前に研修と技能試験を行っている。フィリピンの外交官は、家宅捜査と、フィリピン国民の人身売買被害者の本国送還に関する訓練を受けており、時には家宅捜査や本国送還に積極的に関わることもある。フィリピンは、インドネシアやベトナムなど近隣地域の他国政府のために、労働力輸出保護の改善方法に関する研修を実施している。

在外公館による被害者保護 インドネシア外務省は、マレーシア、シンガポール、サウジアラビア、クウェートなどの多数の国の自国の大使館や領事館に避難所を設けている。これらの在外公館は、過去1年の間に多くが人身売買の犠牲になる可能性があった大勢のインドネシア国民を保護した。彼らの。インドネシアの在外公館は、他の政府機関と連携をとりながら、本国送還の支援も行った。

少年ラクダ騎手売買との戦い アラブ首長国連邦(UAE)は、同国内のラクダレースの騎手とするために売買された南アジアの子供たちの身元確認と救済を効率良く行うための革新的な方法を取り入れた。これら子供の大半が、実際の年齢より年上とする偽造書類を使い、UAE入国の際同伴した偽の親によって売買されている。UAE当局は、2003年1月からDNA鑑定を用い、446人の子供を調査し、UAEに子供を連れてきた人身売買業者との虚偽の親子関係65件を摘発した。2003年には、バングラデシュとパキスタンから来た250人以上の子供が確認され、母国に戻された。これらの子供の売買にかかわった人身売買業者の多くが逮捕され、現在起訴されている。湾岸地域の他の国でも、少年ラクダ騎手とその親を装う者のDNA鑑定を採用している。

現代の奴隷制度の根絶に取り組む英雄たち

  法で定められた政府の措置が、人身売買報告書の主眼である。しかしながら、政府に加えて、あらゆる分野の人々と組織が、人身売買根絶に向けて強力で効果的な対応策を取っている。

  広範囲にわたる大勢の多様な人々が参加することが、人身売買との戦いにおいて成功するには不可欠である。だからこそ、今年の報告書には、人身売買との戦いに取り組んでいる以下のような英雄たちの物語を含めている。ここに登場する人々は、世界中で一般市民が取り組んでいる多くの活動の代表的な例に過ぎない。これらの人々は、われわれ全員に模範を示し、1人の行動でも状況を変えることができるということを示している。これ以外にも、多くの人々が、それぞれの方法で人身売買に対して戦い続けている。

ピエール・タミ 
カンボジアのハガル社役員

 ピエール・タミは、カンボジアで人身売買被害者を助けるためにスイス実業家らしい方法を使った。彼の考えでは、支援プログラムは、革新的で財政的に持続可能なものでなければならない。そうすることで、被害者だった人々に、永久に搾取される弱い状況から抜け出し、永久に生活を変える機会を与えることができるのである。タミ氏は、プノンペンで3つの存続可能な被害者支援企業の設立を援助した。栄養不足の状況にある国で必要とされる食料を供給する豆乳工場、高級絹織物デザイン・製造会社、そして衣料品工場労働者に食事を提供するケータリング事業である。これらの企業は、現代の奴隷制度で労働により心に傷を負ったカンボジアの人々に新たな希望を与え、中には、生涯で初めて給料を手にすることができた者もいる。

フランシスコ・シエラ 
駐日コロンビア大使

 フランシスコ・シエラ大使とコロンビア大使館員は、コロンビアから日本に連れてこられた人身売買被害者の支援に懸命に取り組んでいる。大使は、地元の警察当局と日本政府に対し、この問題への取り組みを促し、また本国におけるこの問題の優先度を上げるようコロンビア政府に働きかけた。大使は、東南アジアやラテンアメリカのいくつかの国の大使館との日本における協力を促進した。シエラ大使は、個人に対する被害だけではなく、組織犯罪との関連、そして変化しつつある人身売買パターンの巧妙化にも注目し、人身売買問題のマクロおよびミクロ的側面に目を向けている。

シスター・ユージニア・ボネッティ 
イタリア女子大修道院長協会
(Italian Union of Major Superiors)

 シスター・ユージニア・ボネッティは、イタリア女子大修道院長協会の人身売買対策活動責任者である。ケニアで宣教師として、またその後トリノとローマで反人身売買戦略のコーディネーターとしての24年間に実態を直接目にしてきたことから、シスター・ユージニアは、人身売買の女性被害者を苦しめている不正との戦いに献身している。シスター・ユージニアは、自分の下でイタリア全土で人身売買対策計画に専任で取り組んでいる約200人のシスターと共に、大勢の人身売買被害者の避難、安全確保、世話のために自分たちの住居を開放してきた。シスター・ユージニアはまた、ナイジェリアの修道女たちと協力して、人里離れた最貧の地域社会での人身売買防止活動と送還された被害者の社会復帰への地元の取り組みを促している。シスター・ユージニアは、言葉と行動によって人身売買反対のメッセージを国内および海外に広げている。

ボニー・ミラー 
米国市民

 ボニー・ミラーは、人身売買問題に対する人々の関心と資源を獲得するために非常に多くの時間を費やし、ギリシャにおける人身売買との戦いにさまざまの方法で効果的な活動を行ってきた。ミラーは、ギリシャのNGOによる被害者のためのサービス制度開始を手助けし、人身売買対策の強力な措置を講じるよう政府に働きかけ、ギリシャで最初の人身売買問題ホットラインの設立に尽力した。ミラー夫人は、広範なメディア活動を通じて奴隷反対運動を推進し、人身売買被害者支援の方法について多くの国の外交官が互いに話し合う場をつくってきた。夫人はまた、「Doctors of the World」(世界の医師たち)が被害者のためのシェルターを設立する際に、重要な役割を果たした。トーマス・ミラー駐ギリシャ米国大使の夫人として、外交官の家族がいかに赴任先の地域社会を変える手助けができるかということを示した。

トベガ・ハジョール首長 
ガーナ共和国ニューバクパ

 トベガ・ハジョール首長は、ガーナのボルタ湖地域での労働目的の子供の売買阻止に向けて幅広い活動を行ってきた。ハジョール首長は、子供の売買で知られる地区を特定する際に個人的に助力し、過去1年の間に、漁業で強制労働をさせられていた228人の子供たちが助け出された。ハジョール首長は、これらの子供奴隷を就学させ、家族の元へ返すことで、子供たちの社会復帰を支援した。首長は、家族により良い生活をさせることができるように、親の事業規模拡大のための小口の短期融資資金の確保に自ら取り組んだ。

マリリン・カールソン・ネルソン 
カールソン社会長兼CEO


  マリリン・カールソン・ネルソンは、自分が経営する旅行会社が、旅行と観光における営利目的の性的搾取から子供を守ることを目的とする国際的行動規範に従うことを約束し、人身売買に対する戦いにおいて米国の先駆者となった。署名した行動規範の中でネルソン会長は、社員に子供買春ツアーを行う者の特定と通報をするよう訓練すること、旅行客にこの犯罪に課される法的処罰を知らせること、そして観光における性的搾取を拒否する倫理に関する企業規定を定めることに同意した。ホテルチェーン、クルーズ、レストランなど複数の事業を展開している世界第2位の旅行会社でもあるカールソン社の昨年の売り上げは270億ドルに達し、世界140カ国を超える国々で19万8000人の従業員が働いている。カールソン社は、この行動規範を採用した初めての北米の大手旅行会社である。