
*以下は、2004年3月22日付朝日新聞朝刊10面「私の視点」に掲載された寄稿を、同新聞社の許可を得て転載したものです。
米保健福祉省長官 トミー・トンプソン
異なる国籍の両親から生まれた子供たちは、双方の文化をつなぐ真の懸け橋だ。その相互理解を促進する力は、どんな職業外交官や政治家もかなわない。94 年の国際家族年から10年。人と国をつなぐシンボルでもあるこうした子供たちに改めて注目したい。
グローバリゼーションの進展により、歴史的に国内法の領域であった家族法も、時代の変化に応じた国際化を迫られている。安全保障や経済分野のみならず、家族や子供をめぐる難題でも、各国は解決に向けて協力する必要がある。
両親が離婚したような場合、国境をまたいだ子供の奪い合いと養育費の未払いは深刻な問題で、著しく増加している。ひとつの国のなかで起きても難しい問題なので、国際的な場合は困難を極める。こうした家族を守るためには、国際協力が欠かせない。
一方の親が強引に子供を自宅から連れ出したり、相手と子供との接触を阻んだりすることは子供の奪取とみなされる。80年に締結さ れ74カ国で効力を持つ「子供の奪取に関するハーグ条約」は、国を越えて我が子を取り戻そう、我が子との面会を果たそうとする時、 重要なよりどころとなる。
米国はこの条約に加わったのみならず、連れ去りを防ぐための関連法規も整備 してきた。14歳未満の子供のパスポート取得に双方の親の同意を必要とする措置は、その一例だ。
養育費の問題は私が長官を務める保健福祉省が主管庁であり、各種の法律で厳 しく監視している。例えば、養育費を払わない親にはパスポートを発給しな い。裁判所が定めた扶養義務を親権を持たない親に履行させるのに、かなりの成果をあげている。
また、養育費にかかわる二国間協定も進めている。米国は相手国の親権を持つ親のために、米国に住むも う一方の親から養育費を集める。協定国は同様の措置を、米国の親権者に対して行うというものだ。
ハーグ国際私法会議では養育費問題に関する新条約を協議中で、米国も日本も参加している。日本の関与は喜ばしいのだが、条約への署名は予定していないと知り、落胆している。
主要7カ国のうち日本だけが「子供の奪取に関する条約」に未署名だ。未成年者のパスポート取得に、両親双方の正式な署名を義務づけてもいない。二国間協定もどの国とも結んでいな い。残念ながら日本の行政当局は、親権や養育費についての裁判所命令を強制的に執行できないようだ。他国の裁判所命令となれば、 なおさらのことだろう。
家族の問題で法的な国際協力を進めるために、各国の法体系を一致させるべきだと主張しているのではな い。法体制というものは、 その国の大切な価値観を反映しているからだ。ただ、 経済分野での国際競争やテロ対策における国際協力のために国内法を調整することがあるように、国際的な子供の奪い合いや養育費問題で、家族法は有効に機能しなくてはならない。
米国政府は海外に住む米国市民の福祉を守る必要があり、とりわけ子供には重大な責任を負っている。関係する政府の後押しのも と、双方の親から経済的、 精神的な支援を受けていく ことが、子供の幸福に通じると確信する。子供の奪い合いや養育費の確保問題で米国をはじめ他の国々と法的な協力ができるよう、日本が必要な措置を講じることを強く期待したい。


駐日米国大使