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*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

アメリカの法廷制度ー長い歴史と新たな方向性

リチャード・ヴァン・ディーゼンド 

国務省国際情報プログラム・電子ジャーナル2003年5月号

 米国の法廷は、過去20年における取り扱い件数の増大とアメリカ社会に影響を与える問題の変化に対応して、「万人に正義を」の理想を、より完全に実現するために新たなアプローチやプログラムを試みてきた。これらの革新は、過去220年にわたる米国の発展に順応することを可能にしたアメリカ政府の構造に特有な柔軟性を反映している。

 米国の政府は、連邦(全米)と州そして地方のレベルに分かれている。さらに、各レベルで政府の機能は、立法・行政・司法の3部門に分割されている。司法府を政府の独立した同格の部門とする概念は、18世紀に導入された統治理論に寄与した。この概念がアメリカで過去2世紀にわたり徐々に発展するにつれて、司法府と行政府、そして立法府の間での政府権限の分割は、法廷にとっては司法の独立の概念と絡み合ってきた。かくして、法廷が自らの問題を処理できるようにし、また新たに設立された米連邦裁判所行政局への司法省行政部門からの裁判機能の移転に伴い、1937年から始められた立法府より配分される公的資源を法廷自身が管理できるようにする動きは、概して分権よりもむしろ司法の独立の見地に基づいたものである。

 このような一連の政府の部門化と階層化が効率を低下させることは明らかではあるが、しかしそれは意図したものでもある。米国憲法の作成に携わった人々は、政府の権限に深い不信の念を抱いていた。彼らは、機能と責任分野を分割することにより、政府が国民を抑圧することを防ぐための「抑制と均衡」のシステムを創りあげることを意図した。さらに、18世紀末に米国の政府制度を創設した人々もまた、この分権政府の特性により生じる州間や、州政府対連邦政府の、そして政府の3部門間での競争を通じて、革新を奨励し、新たな試みを促進することを意図したのである。

 統治に対するこのアプローチが、米国人の非常に広範囲で根強い支持を得てきたため、政府の3権分立の構造は、各州の憲法にも普遍的に採用されてきた。かくして、米国には、一つではなく、実に55の法廷制度が存在する。連邦法廷制度、50の州、コロンビア特別区、プエルトリコ、および準州のそれぞれが持つ法廷制度である。(これに加えて、多くのアメリカ先住民特別居留地で発生する紛争を解決するために複数の部族法廷がある。)連邦法廷は、海事問題、特許・著作権、破産、国際条約・貿易問題、および州間の争いに判決を下す独占的な憲法上の責任を持つ。連邦法廷にはまた、連邦法や米国憲法違反に関する案件を判断する権限がある。州法廷は法により、州法や州憲法の違反、大多数の連邦法および米国憲法の違反、米国が英国から継承した判例による伝統的「コモンロー」に基づく申立を含む案件を判断する権限がある。

 米国連邦法廷の方が良く知られてはいるものの、米国の市民や企業が正義を求めるのは主として州法廷である。毎年法廷に持ち込まれる案件の96%以上が、州法廷に提訴され、その数は、年間9000万件を超える。裁判では、米国の州法廷はすべて、憲法、慣習、および法律を確固たる拠り所とする原則に従わなければならない。これらの原則は、判事・弁護士の全米委員会や全米州法廷センター(National Center for State Courts)により作られた予審法廷行動基準(TCPS)と上訴法廷行動基準(ACPS)に、より詳細に定義され、説明されている。(TCPS とACPSは、法廷が自らの行動を判断する際に利用することのできる自主基準である。これら基準の作成は、司法支援局(Bureau of Justice Assistance)と州司法協会(State Justice Institute)の補助金により支援された。)

新たなアプローチ

 アメリカの裁判の基本的なすすめ方は、米国の映画やテレビ番組でひんぱんに扱われるために、世界中の人々に良く知られるようになった。陪審による裁判が米国の司法制度の基本要素であることに変わりはないが、陪審による評決は、大半の米国の管轄区域に持ち込まれる争いの5%未満である。訴訟の中には、陪審なしで判事が1人で審理するものもある。しかし、圧倒的多数の案件が、当事者間の話し合いにより解決されている。個人や企業が関係する場合は、これは和解と呼ばれる。刑事訴訟ではこの慣行は、司法取引として知られている。司法取引は、広く批判されてきた。司法取引が、検察側や弁護人の資源の不足、または検察側の過度な手加減に起因する場合は、特に批判される。しかしながら、適正な方針指導と緊密な司法監視の下での司法取引は、事実関係が争点になっていない訴訟を迅速に解決する手段になる。これにより、有罪か無罪かの判断が非常に困難な訴訟に刑事司法制度の資源を集中できる。

 さらに、過去20年の間、連邦法廷制度と州法廷制度の双方が、法廷の目標を達成するための新たなアプローチを編み出してきた。これらのアプローチには、調停や仲裁のような法廷外紛争解決テクニックを訴訟プロセスの中に組み入れること、(企業や、家族のあらそい、子供に関連する問題等のための)特別な法廷や訴訟当事者を対象とする専門法廷または審理予定表をつくること、さらに薬物乱用・家庭内暴力・精神病のような従来からある法律上の紛争の根底にある諸問題に対処するために特別に用意された手続き(「問題解決法廷」としばしば呼ばれる)が含まれる。

より良き対応策の発展

 このようなプログラムを設ける理由は、法廷により、また管轄区域により異なるものの、これは、上記に掲げた第5の原則、つまり法廷のプロセスを他の原則の許す範囲内で可能な限り効果的かつ迅速なものにするという原則の実現に向けたアメリカの法廷指導者達の断固たる意思を反映したものである。これはまた、問題解決手段の改善を求める社会の要望に応えるものである。例えば、米国弁護士協会の要請により1999年に行なわれたアメリカの世論調査によると、回答者の78%が「裁判に時間がかかり過ぎる」と答え、77%の回答者が「訴訟を起こすのに費用がかかり過ぎる」と答えている。回答者の56%が、刑務所に代わる地域密着型の判決を増やすことを支持している。

 全米州法廷センターの要請でハースト社がその後行なった全米調査も、同様の結果を得ている。この調査では、回答者の約半数が、刑事裁判の取り扱いに関するその地域の法廷の仕事に対して並以下の評価をしており、半数以上が家族・少年犯罪訴訟に関する法廷の仕事に対して並以下の評価を与えている。また、ぎりぎり過半数の回答者が、契約、業務、および傷害に関する法廷の紛争処理に満足している。少数派グループの間で懸念が最大であった。

 法廷は、その性格と目的からして、人民主義的(つまり、判決に大衆の意向を反映するもの)ではなく、またそうあってはならないが、故サーグッド・マーシャル最高裁判事がいったように、「人々の尊敬だけが、判事としてわれわれが求める事ができる力の真の源泉であることを、われわれは決して忘れてはならない」ともいえる。

法廷関連の紛争解決

 法廷が関連する「法廷外」または「補完的」紛争解決手続きの制定は、訴訟解決のより良い、より迅速で、より安価な方策を創り出す努力の結果である。大半の訴訟が和解するという認識で、これらのプログラムが、当事者による紛争の根幹にある問題への対処を可能にし、さらに訴訟手続きの初期の段階でこれを行うことにより、準備に要する実質的な出費を避け、合意に要する時間を短縮することが可能になる。

 調停(つまり、当事者が、専門訓練を受けた「第3者」の助けを借り合意すること)は、今や広く利用されており、ビジネスに関する争い、離婚・親権をめぐる案件、人身傷害・経済的損害に関する訴訟、小額の賠償の申し立て(例えば5000ドル未満のもの)、水利権紛争、借家人・借地人と家主・地主の間の紛争の解決に役立っている。調停はまた、刑事犯罪者や少年犯罪者が被害者に支払う損害賠償額の決定に利用されることもある。調停結果に不満な当事者は、通常何ら罰則を受けることなく裁判を求めることもできる。

 仲裁手続き(専門知識を基準に当事者が選択した1人または複数の「第3者」へ紛争の裁決を委託する事)は、建設、医療サービス、売買仲介業務および雇用に関する契約にしばしば要求されている。仲裁の決定は通常、当事者に対して拘束力を有し、見直しは許されない。

 第3者初期評価(当事者双方が提出した詳細な報告に基づく損害問題と損害額に対する専門家の評価)や略式陪審裁判(非公式陪審に対する証拠と主張の簡略な説明)などのその他の手続きの使用頻度はそれほど多くなく、主に大きな金額が絡む複雑な訴訟や紛争に使われる。

 概して調停は、通常の訴訟プロセスに比べて、訴訟当事者の満足度および合意書に対する順守の度合いで「より良い」という評価を得ている。しかしながら、調停が費用と所要時間の面でも優れているか否かは、訴訟プロセスのどの時点で調停に合意したのか、誰が費用を支払うのか、そしてプログラムの質と監督によるところが大きい。消費者契約の一環として必要とされる仲裁委員会の公正さに関しての疑問も提起されている。

専門法廷の誕生

 特定種類の訴訟や訴訟当事者のニーズに応えることを目的にした専門法廷または審理予定表は、特に新しいものではない。デラウェア州衡平法裁判所は、設立当初からビジネスに関する訴訟に重点を置いた法廷である。また最初の「少年法廷」が創設されたのは、20世紀初頭のことである。しかし、特定種類の訴訟の複雑さや、特定種類の訴訟当事者の特別なニーズが、その分野の専門知識、特有なサービス、専門の手続き、さらには専門の施設さえも必要になるという認識が強まるにつれて、多くの州の法廷制度は、ビジネス、家族関係、家庭内暴力あるいは少年犯罪の訴訟のみを審理する法廷を設け、新たな規則を発表し、専門知識をもつ判事を、任命してきた。

 例えば、商業に影響のある法律問題・金融問題に深い理解と経験を持つ判事の任命に加えて、ビジネスに関する専門法廷は、多くの場合複雑な問題の迅速な決着を可能にする手続きとプロセスを持っている。また、証人に自分の職場での証言を可能にするテレビ会議設備などの最新技術による法廷情報管理や表示機能を備える法廷もある。

 家庭内暴力の専門法廷には、セキュリティとカウンセリングを強化し、また治療サービスを利用できるところや、当事者双方の証人と支援者の座席を別にする法廷も多い。

 家族問題の専門法廷は、いくつかの異なった訴訟に関係している可能性のある家族のメンバーに関する情報の流れと、そのメンバーに与えられるサービスの円滑化を図るように作られている。これにより、家族に関する命令に整合性を保つこと、そして必要なサービスが個人と家族全体の双方に提供されること、が保証される。この調整の重要性は、以下の例で説明することができる。

 13歳の少年が、自分の父親が酔って母親を殴り、1歳の妹を泣きやませようと乱暴に揺するのを目の当たりにした後、学校でけんかをした。この結果、この少年に対して少年犯罪申立書が、また父親に対しては家庭内暴力の訴状と児童虐待申立書が法廷に提出された。さらに、母親から、離婚および、父親が家族に接近しないようにするための保護命令が請求された。

 家族問題の専門法廷がない管轄区域では、これらの法律問題を、それぞれ別の法廷で異なった判事が審理する可能性がある。この家族が貧しい場合には、各件で異なる弁護人が任命される可能性がある。またそれぞれの法廷に配属された社会福祉指導員または保護監察官が家族に関する情報を収集し、その法廷でのみ利用できるファイルに保管する可能性もある。

 これらの判事が少なくとも、家族に起こっている事態に関するすべての関連情報を持っていない限り、非行問題を審理する判事が少年を父親の保護監督の下に置く一方で、離婚請求を審理する判事が母親に保護監督を認める決定をする可能性がある。また、家庭内暴力の訴状を審理する判事が父親に懲役刑を申し渡す一方で、児童虐待申立を審理する判事が家族カウンセリングを命令する可能性がある。さらに、家庭内暴力と児童虐待に対する処分命令が、期間にばらつきのある、タイプの異なるアルコール中毒治療を受けることを父親に義務付ける可能性もある。

問題解決法廷

 いわゆる「問題解決」法廷は、1989年に生まれたマイアミ麻薬専門法廷をもって嚆矢とする。熱烈な支持者と連邦政府からの資金の下に、このような法廷が全米に広がり、薬物乱用犯罪に関係しない訴訟にまで拡大していった。このような法廷は、同じ人物が同様の犯罪や行為を繰り返す姿を見た判事の挫折感から生まれた。しかしながら、その哲学上の根幹の少なくとも一部は、20世紀初頭に作られた少年法廷の本来の概念にある。この法廷で判事は、問題になっている犯罪の細部よりも、子供の問題・行動・ニーズへの対処により強い関心を払う公的父母の役割を演ずるべきとされた。

 問題解決法廷は、法廷の強制力を現実に使用する、あるいはその恐れを抱かせる事により、被告に治療その他のサービスを求めさせ、参加させるだけでなく、被告が根底に抱える薬物乱用、精神衛生、感情の管理、または貧困関連の問題に効果的に対処するために必要なサービスをまとめていく。さらに問題解決法廷には以下のような特徴がある。

 「ミッドタウンコミュニティー法廷」はこうした麻薬専門法廷や精神衛生専門法廷モデルを変形したものである。この法廷は、ニューヨーク市の住民を悩ませている小規模ながら頻繁に発生する非暴力犯罪(破壊行為、万引、売春、無賃乗車等)に対処することを目的に設立された。被告が罪を認めた場合には、判事と弁護人は、高度な技術を用いて、被告に前科があればその記録、また被告が以前に薬物乱用や精神問題などに関わるサービスを法廷から命令されて受けたことがあるか否かを迅速にみきわめることができる。この情報は、被告との対話と併せて、保護観察処分の条件として、健康、精神衛生、雇用、教育、住宅など、その法廷で利用できるサービスに委託するために使われる。通常は、地域奉仕義務も課される。

 問題解決法廷の利点には、次のようなものがある。

 しかしながら、問題解決法廷には、先に触れた基本原則が一貫して順守されているかどうかに関するいくつかの懸念がある。これらの懸念の中には、専門法廷と法廷外紛争解決にも当てはまるものがある。例えば、

21世紀のためのセーフガード

 このような新たな道を歩む法廷は、潜在的利点と懸念を生む可能性の双方を十分に意識し、法廷の効果とアクセスの改善に努めるにあたって、アメリカの司法制度の根底にある他の原則を危うくしないという難しい課題を十分認識している。

 当論文やこれに続く論文で論考する新たな道の根底にある革新、実験および普及のプロセスは、アメリカの連邦政府制度の偉大な力の1つを示す例である。それは、州が憲法の枠内で、政府の基本的責任を満たす革新的アプローチを開発しテストする「実験室」の役割を担う事ができるということである。

 事実、効果的アプローチの探求は米国の国境を越える広がりを見せており、アメリカの法廷が他の国で開発されたプログラムを採用したり、他の国の法廷が米国が学んだことを応用したりしている。内在するこの活力は、アメリカ司法の誇り高き伝統が、21世紀においても引き続き重要なセーフガードになるという希望と確信を与えてくれる。

リチャード・ヴァン・ディーゼンドは、ハーバード大学で学士号と法律の学位を取得。彼は現在、全米州法廷センターの法廷運営主席コンサルタントの1人である。同センターは、米国および世界中で司法の運営と質の向上を図るためのコンサルティング・訓練・調査・技術・管理・情報サービスを提供している。
全米州法廷センターの国際プログラム部部長を務めるリチャード・ヴァン・ディーゼンドによるこの論文は、2003年5月にInternational Information Programの電子ジャーナルで "The Changing Face of U.S. Courts" のタイトルの下に発表された。この論文は同ジャーナルのサイトで見ることができる。

 当論文については、自由に転載できます。