

今日の近代マスメディアは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、書籍、映画、そしてインターネットを通じて、全米および世界中の何十億もの人々に情報を伝えている。米国のニュースメディアは、選挙の候補者、選挙の争点に関する各候補者の意見、世論調査、政治討論、党大会、政治広告などに関する情報を提供している。ニュースメディアは、国民のための監視機構となり、国民とその指導者の間の連絡役を果たし、候補者のイメージや評判に影響を及ぼす。
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選挙遊説
候補者を追うテレビの報道内容は、時とともに大きく変化してきた。以前は、大統領候補に関する報道は、主として彼らの公的な職務と活動だけを取り上げていた。しかし現在では、候補者が選挙遊説の日常にレポーターを招き入れ、以前に比べて候補者の個人としての側面を強調するようになっている。候補者の自宅やスタジオでのインタビュー、そして彼らが各地の住民と食事を共にする光景などが放映されることによって、選挙の争点や各候補者に関する情報が、より個人的な形で国民に伝えられる。
ハースト・アーガイル・テレビジョンは、2000年および2002年選挙の報道で、南カリフォルニア大学アネンバーグ・スクールの「優れたテレビ政治ジャーナリズムのためのウォルター・クロンカイト賞」を受賞した。ハースト・アーガイルは、地方、州、および全国の選挙運動に関する政治番組を、計200時間放映した。現在、ハースト・アーガイルは、視聴者に政治広告の「真偽チェック」、そして政治情報専用のウェブサイトを提供している。2004年予備選挙期間中には、1時間の特別番組「選挙遊説の旅」で、民主党大統領候補らの私生活を追った。この番組では、自分で洗濯をするジョセフ・リーバーマン上院議員、日課の運動をするウェズリー・クラーク退役大将、2人の子どもと共に遊説バスで移動するジョン・エドワーズ上院議員などの様子が紹介された。
選挙運動の報道を求める米国民の要求は、選挙の年が訪れるたびに、またメディアの新技術の導入とともに、高まるばかりである。従来、候補者はバスで遊説の旅をしてきたが、近年、選挙報道の拡大に伴い、CNNとABCニュースの両社も、遊説報道用に移動スタジオと報道局を備えた自社のハイテク・バスを導入した。CNNのバスは「選挙エクスプレス」と呼ばれている。ABCニュースも最近同様の車両3台を使い始めた。
ABCニュースの政治担当ディレクター、マーク・ヘルプリンは、「われわれは、こうしたバスが単なるPR戦略ではないことを理解してもらうために大きな努力を払ってきた。バスは、より良いジャーナリズムのための手段なのだ」と語る。
「ニューヨーク・タイムズ」紙は最近、テクノロジーが記者の仕事や、選挙運動に関するメディアの報道の形を変えていることについて、次のように述べた。「選挙運動担当の記者は、従軍記者と同様、必ずしもコンピューター・マニアではない。しかし、24時間ニュース・サイクルのどん欲な要求によって、彼らもより良い仕事をするため、あるいは少なくともより速く仕事をするために、先端技術を採用せざるを得なくなっている。そうした技術が、記者の1日をも変えつつある。彼らは、朝はABCニュースのオンライン政治情報「ザ・ノート」に目を通し、夜は他社のウェブサイトをチェックしながら、常にライバルを出し抜く努力をしなければならないのである。
政治広告
ペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション学部の学部長で、アネンバーグ公共政策センターの所長を務めるキャスリーン・ホール・ジェーミソン博士によると、「政治広告は今や、大統領候補が有権者へメッセージを伝える主要な手段となっている。こうした広告の伝達ルートとして、テレビは、ラジオや新聞などの印刷物に比べ、候補者の資金を多く集めるとともに、広く有権者の注意を引くことができる」。1952年以降行われてきた大統領候補による30分間の演説放送に代わって、1980年までには60秒間の政治広告(スポット)が主流を占めるようになった。2004年の政治スポット広告の標準的な長さは30秒間である。ジェーミソン博士によると、スポット広告は、あらゆる広告形態の中で最も多く使用され、広く視聴されている。
政治スポット広告は、候補者の知名度を高め、その候補者が重要と考える課題について質問し、時事問題に個人的な側面を与え、候補者の才能や今後の計画を視聴者に伝え、また対立候補の致命的な欠点とされる点を攻撃する。一部の政治学者によると、有権者は、彼らがすでに持っている意向をさらに強化するような30秒間の政治広告を視聴する傾向があるため、全国ネットのニュースより政治広告の方が、有権者に多くの情報を伝えることができる。
「普通の選挙運動関連ニュースと普通の政治広告のどちらかを取るなら、私は普通の政治広告を見る」とジェーミソン博士は言う。「そして、違う候補者の政治広告を続けて見る。広告のやりとりを見ることによって、通常のニュースを見た場合より、政策を深く知ることができる可能性が高いからだ。選挙運動のニュースは、戦術や駆け引きや世論調査、そして誰がなぜリードしているかということばかり伝えて、候補者が何を公約し、何を実行したかという情報が少なすぎる」
無党派の研究・教育組織である「メディアおよび公共問題センター」の報告によると、テレビの政治広告は、テレビ産業で3番目に大きい広告収入源であり、その額は1982年以来4倍以上に増えている。2002年の選挙期間中に候補者が費やした政治広告費は10億ドルを超えた。最も有用な情報が最も多くの市民に伝わるような選挙運動を促進することによって米国の選挙の改善を目指す公益グループ、「より良い選挙運動のための同盟」の調査では、全米各地の40のテレビ局の広告料金が、2002年選挙に先立つ2ヵ月間に50%以上も上昇した。
TNSメディア情報・選挙運動メディア分析グループのデータによると、ブッシュ・チェイニー陣営は、激戦区となる州の合計100の市場で13のスポット広告を放映するために、約5670万ドルを費やした。また、この調査によると、その63%に相当する3600万ドルは、7種の「中傷」広告のために費やされた。
ここ数ヵ月間に、ケリー上院議員に有利な争点を支持する資金調達を行うために、税法の条項にちなんで「527グループ」と呼ばれる非課税政治組織が多数結成されている。法に従い、こうしたグループは、ケリー陣営から独立した活動をしている。(ブッシュ大統領の支持者も同様のグループを結成しているが、その数はかなり少ない)。「USAトゥデー」紙によると、「ムーブオン・オルグ・ボーター・ファンド」や、「メディア・ファンド」などの527グループは、これまでにテレビ広告に約3000万ドルを費やしている。ミズーリ大学コロンビア校のデータによると、こうした527グループによる50のスポット広告のうち推定84%が、ブッシュ大統領を攻撃するものである。これらのスポットに、ケーブル局で放映されたケリー陣営による中傷広告5件を加えると、これまでに4000万ドル以上が中傷広告に費やされていることになる。
「政治においては、マスコミが中傷広告に注目するため、興味深い相乗効果が発生する」とジェーミソン博士は述べている。「その結果、コンサルタントは、マスコミが中傷広告に注目することを意識して、そうした広告の作製に際してはより慎重になる可能性が高い。従って、中傷広告は、比較広告や意見広告に比べて、むしろ不正確さが少なくなる」
政治広告にはいくつかの種類がある。候補者自身のことより対立候補の欠点を強調する「中傷広告」、候補者の経歴を説明したり米国に関する候補者のビジョンを強調する「自伝的広告」や「ビジョン広告」、1つまたは複数の具体的な争点を取り上げ、それに関する候補者の提案を述べる「意見広告」、そして有権者に候補者が困難な時代に指導者として信頼できる人物であることを伝えようとする「信用広告」などがある。
特定の地域に合わせて制作したスポット広告もよく見られる。例えば、ブッシュ・チェイニー陣営による最近の一連の広告は、ケリー候補が反対しているとされる兵器システムを具体的に取り上げているが、アリゾナ州で放映された広告では、「ここアリゾナ州で製造されている」アパッチ・ヘリコプター、トマホーク巡航ミサイル、そしてF-18戦闘機を挙げている。この広告は、アリゾナをはじめ9州で、州によって異なるバージョンが放映された。
共和党全国委員会によると、CNNの報道では、ケリー陣営が選挙運動の対象としている39市場のうち38市場で、またブッシュ・チェイニー陣営が対象とする41市場のうち15市場で、一部の527グループが反ブッシュのスポット広告を放映した。
ミズーリ大学コロンビア校コミュニケーション学部のウィリアム・ベノイト教授は、「今後、ブッシュによる『肯定的な広告』の割合が多少増え、ケリーによる『中傷広告』の割合がわずかに増える、と予想する。しかし、ケリーが本格的に中傷広告を増やすのは、世論調査で大きく遅れをとった場合に限られるだろう」と述べている。
* 本稿は国務省のウェブサイトにあるニュースレターElection Focus 2004 (May 21, 2004, Issue 1, No. 11)に掲載の記事"Media and the 2004 Election" の仮訳です。


駐日米国大使