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選挙資金の現状

ジョセフ・E・カンター

米国の大統領選挙 2004
はじめに

2004年大統領選挙の日程

米国における政党

大統領候補者指名と米国の民主主義

米国選挙手続き

トーマス・マンとのインタビュー: 2004年選挙戦

連邦議員選挙

世論調査、専門家、そして2004年選挙

選挙資金の現状

* 予備選挙と党員集会

* 大統領候補を選出する2大政党の全国大会

* メディアと2004年選挙

* 若い有権者は経済、国家安全保障に関心

* 若い有権者の動員 NGO その他の組織の役割

米国の選挙人団 (州別選挙人数)

* 選挙人団に関するFAQ

* 選挙資金についての基礎知識

選挙関連用語集

歴代大統領のポートレート

参考文献・ウエブサイト

* 印のものは国務省ウェブサイト「U.S. Elections 2004」 掲載の記事ではありません

 米国のある著名な政治家が、「政治にとって資金は母乳である」と断言したことがある。米国の民主政治が、自由かつ開放的な選挙と多元主義の伝統を基盤としており、そこでは利害の対立する者同士が公共政策に対する影響力を巡って競い合っていることを考えると、こうした発言も驚くには当たらない。特に今日有権者の数が多く、少なくとも主な公職の選挙の場合、有権者とのコミュニケーション手段としてマスメディアに依存せざるを得ない状況では、この発言は適切である。放送メディアを利用することは、大勢の視聴者にメッセージを伝える効率的な手段であると同時に費用もかかるからである。

 米国で公職に立候補する者の選挙資金源には主として、(1)直接献金をする個々の市民、(2)候補者の所属政党、(3)政治活動委員会(PAC)を通じて政治献金をする利益団体、および(4)候補者自身または家族の資金、がある。1970年代以降、一部の選挙、特に大統領選挙では、公的資金という5番目の資金源もある。

2002年3月、連邦議会下院での選挙資金改革法案の可決を祝福するマーティ・ミーハン下院議員(民主党、マサチューセッツ州)(左)とクリス・シェイズ下院議員(共和党、コネティカット州)(右)(Paul Hosefros/The New York Times)
 放送メディアへの依存度が高まっていること、および政治が職業化していることによって、選挙運動に必要な資金がますます高額化している。2000年の大統領選挙では、候補者の選挙支出の合計が6億700万ドルとなった。また連邦議会議員候補者の支出総額は10億ドル強であった。2000年の上院議員選挙で当選した候補者の1人当たり平均支出は740万ドル、下院議員選挙の当選者の平均支出は84万9000ドルであった。しかしながら、有権者との直接のコミュニケーションにおいて政党や利益団体の果たす役割が拡大するに従い、候補者自身の支出が選挙運動の総支出に占める割合は減少しつつある。

 従来、政党や利益団体は、主として候補者への政治献金という形で資金を提供し、候補者は、宣伝やダイレクトメールなどで有権者を説得するため、また有権者に実際に投票させるため、有権者とのコミュニケーションに資金を使った。最近の選挙では、政党および利益団体は、支持する候補者に政治献金をするだけでなく、自ら選挙の結果に最大限の影響を及ぼすべく、より直接的に資金を使っている。こうした現象は、選挙における資金の流れの監視を難しくしており、特に、候補者が直接管理する資金以外の資金を規制しようとする政策立案者にとって難題となっている。

 米国の選挙における支出が多額であること、そして民間の資金源への依存度が高いことは、裕福な献金者や利益団体が公共政策に不当な影響力を持つ可能性につながるとの批判は、以前からあった。その対策として提案されてきたのは、政治資金に対する政府の規制強化であった。その第1歩が、選挙資金に対する国民の意識を高めるために透明性を向上させ、それによって「特殊利益団体」による「公共の利益」の妨害を防ぐことであった。「改革派」に反対する人びとは、こうした選挙支出は、今日の経済における製品・サービスのコストや政府予算の規模に比して妥当である、と主張している。彼らにとっては、選挙支出とは、民主主義が選挙という競争のために払うコストであり、利益団体による多額の献金や支出は、米国が長年にわたり培ってきた多元主義の現代的表現なのである。政府の司法部門からは、選挙資金に関して別の問題が提起されている。選挙献金および選挙支出に対する制約は、憲法で保護されている政治の場における献金者の言論の自由を不当に制限するものかどうか、という問題である。

 米国の現行の選挙資金制度は、改革派の意見と現状維持派の意見、そして政府規制の基準となってきた司法判決を融合したものであるとも考えられる。現行の制度は、これまでに制定され支持されてきた法律に加え、米国の政治が発展してきた過程の両方を反映している。

 

民主主義国間の政治制度の相違

2003年6月、ロサンゼルスで開催された資金集めのイベントで支持者に手を振るブッシュ大統領(REUTERS)
1999年5月、カリフォルニア州議会の共和党議員が、連邦および州政府の政治プロセスにおけるラテン系住民の参加を促進するための、新たな政治活動委員会の設置を発表した(AP/Wide World Photos)
 米国の選挙資金制度を、他の民主主義国の制度と比べてみると、米国の政治制度独特の側面を理解する上で役に立つ。
候補者中心の選挙
 まず何よりも重要な点は、米国の制度は、民主主義国の大半で採用されている議院内閣制と異なっていることである。議院内閣制では、政府を選出し運営するプロセスにおいて、政党が中心的な役割を果たす。米国の選挙でも政党は重要な役割を果たすが、20世紀に数々の改革や変革が行われる前の初期の時代と比べると、政党の重要度ははるかに低下している。

 米国の選挙制度は、良くも悪くも、政党中心ではなく候補者中心の制度である。米国の候補者は、独立した代理人であり、その経歴や指名を左右するのは、党の役員ではなく、予備選挙の投票者である。こうした独立性は、開放度と説明責任の向上という健全な効果をもたらす一方で、候補者がある程度独立した選挙運動組織と資金源を必要とするため、選挙費用の増大につながったことも確かである。同様に、最近の有権者の多くは、政党にとらわれず、「政党より人に」投票することを誇りとしているため、候補者にとっては、公人として効果的なコミュニケーションを行う負担がさらに大きくなっている。

憲法修正第1条
 米国の制度のもう1つの特徴は、合衆国憲法修正第1条によって明確に定義されている言論と結社の自由という権利が、政治プロセスで強力な役割を果たしていることである。制定された法律が、そうした権利を侵害するものであるかどうかを判定するのは、司法制度の役割である。連邦最高裁判所は、1976年の画期的な判決(バックリー対バレオ)で、選挙運動、政党、および利益団体が有権者とのコミュニケーションに費やせる金額を制約する判決を覆す一方、選挙に関与する団体の資金源に対する制約を認めた。最高裁は、有権者とのコミュニケーションのための支出を制限することは、言論の自由の制約であり、許されないことであると明言した。最高裁は、資金源(すなわち献金)に対する制限も、言論の自由の抑制であるとしながらも、政府が、献金者と候補者との間の報償的な関係により生じる不正(または不正の疑い)から制度を守るための「妥当な」制限は正当化される、と判定した。この判決、およびその後の下級裁判所における判決は、資金を費やす権利と言論の自由の権利を同等とし、さらに候補者に与えられた献金と候補者が費やした資金を区別することにより、米国の政治における資金の規制と流れに重大な影響を及ぼした。

政治に対する政府の支援
 米国の政治制度が他と異なるもう1つの点は、他の民主主義諸国では、国庫から選挙資金を出す例が米国よりはるかに多いという点である。諸外国では、一般的に政府が政党に補助金を提供しており、米国と異なり国営放送局を通じて無料で政見放送ができる例も多い。政治家は、直接の補助金と無料の政見放送という恩恵によって、選挙資金調達の負担が軽減される。

 一部の米国民は、長年にわたって、選挙運動に政府補助金を提供すること、および民間放送会社に無料または割引料金の政見放送を義務付けることを支持してきた。そして、その実現にある程度成功している。しかし、こうした政策は、主義上の理由に基づく(すなわち、納税者に自分が支持しない候補者への援助を義務付けることに対する)反対、そして実際的な理由に基づく(例えば、完全に公正な選挙運動補助金制度を考案するにはどうすればよいのかといった)反対にあった。

 1970年代に、公的資金による候補者援助を支持する人びとは、大統領選挙および一部の州・地方政府の選挙でそうした制度の制定に成功したが、連邦議会議員の選挙ではこのような制度は実現していない。1976年以降、主要政党公認の大統領候補者は、かなりの一般選挙補助金を自動的に受ける資格があった(2000年の大統領選挙では、共和党のジョージ・W・ブッシュ、民主党のアル・ゴア両候補にそれぞれ約6700万ドルの補助金が提供された)。各政党にも、大統領候補者指名大会のための補助金が与えられ、予備選挙では、各候補者に対する個人からの少額の寄付に匹敵する額を政府が提供する制度がある。

 各候補者は、補助金を受ける代わりに、最高裁が自発的なものとして認めた選挙支出制限に同意しなければならない。しかしながら、利益団体や個人は、合法的ではあるが、連邦法で想定された水準を超える資金援助(後述する「ソフトマネー」)を提供することが可能であるため、こうした制限の有効性が次第に失われている。

 

連邦選挙資金法の主要原則

 1970年代以降、3つの主要原則が米国の連邦選挙資金法を支配しており、大統領選挙および連邦議員選挙に適用されている。(州および地方政府の選挙に関しては、50州がそれぞれ独自の規則を定めている)3つの原則は、以下の通りである。

資金調達活動の公開
 選挙資金の内容を公開し、対立する政党や候補者、およびマスコミによる詳しい調査を容易にすることは、選挙献金や選挙支出から生じる可能性のある不正を抑制する最大の要因であるとされている。この点に関する政府規制については、少なくとも原則において、おおむね意見が一致している。連邦政府レベルでは、この規則により、調達資金の総額、および200ドルを超えるものについては詳しい内訳を含む定期報告を提出することになっている。

資金源に関する禁止事項
 以前から、企業、国法銀行、および労働組合は、連邦選挙に影響を及ぼすために自らの資金(すなわち企業利益や組合費)を使うことを禁止されている(州の選挙ではこれらの資金源を許可している州も多い)。しかしながら、こうした組織が政治活動委員会(PAC)を設置して、企業幹部や株主、労働組合員などから自主的な献金を集めることはできる。このようにして集めた資金を連邦選挙に使うことができるため、企業または労働組合が影響力を持つことが可能となる。 なお、米国のすべての選挙において、外国人による選挙資金の提供は禁止されている。

献金の制限
 資金源が個人、PAC、あるいは政党のいずれであっても、連邦選挙に関与する候補者、政党、または団体に対する献金の額は、連邦法によって制限されている。個人が1回の選挙で1人の候補者に提供できる資金は2000ドルまで、また2年間の選挙期間中にすべての候補者、政党、およびPACに提供できる資金は合計9万5000ドルまでとされている。PACが1回の選挙で1人の候補者に提供できる資金は5000ドルまでであるが、1つの組織からの献金総額に対する制限はない。

 

選挙資金改革の推進力

 政治と資金から生じる問題によって、米国では選挙資金改革が長年の議題となってきた。1980年代および90年代を通じて、改革推進派は、1970年代に制定された規制の強化を目指し、政治制度における資金の役割と重要性を縮小しようとしたが、成功しなかった。

2003年9月、マケイン・ファインゴールド選挙資金改革法の合憲性を巡る法廷審問期間中に、連邦最高裁判所の前で記者会見をするラス・ファインゴールド上院議員(民主党、ウィスコンシン州)(左)とジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州)(右)(REUTERS)
 2002年にようやく可決された法案は、それまでの選挙資金法とはかなり異なるものであった。旧法の措置が既存の連邦規制制度の改善を目指していたのに対し、2002年超党派選挙改革法(BCRA、または法案の提出者である2上院議員の名前を取ってマケイン・ファインゴールド法と呼ばれる)は、連邦選挙資金法を回避していると思われる活動を連邦政府の規制の対象とすることによって、連邦規制制度を守ることを目的としている。

 1980年代から、政党の全国委員会は、連邦法で許可されている金額をはるかに超える政治資金を、連邦選挙自体には使わないとの名目で集めるようになった。こうして、1970年代の改正で制限されたはずの強力な多額政治献金者「ファット・キャット」が復活したことは、米国の選挙における「ソフトマネー」の台頭を予告するものであった。ソフトマネーとは、連邦選挙規制の枠組み外で集められ費やされるが、連邦選挙に少なくとも間接的に影響を及ぼす資金のことである(これに対して、連邦選挙法に従って集められ費やされる資金を「ハードマネー」という)。

 通常、こうしたソフトマネー献金は、金額および資金源において連邦選挙では禁止されていたものであり、州の政党に分配されて、草の根選挙運動や有権者動員活動に使われた。ソフトマネー献金は、こうした活動を支持することによって、名目上の支持対象である州・地方選挙の候補者だけでなく、連邦選挙の候補者をも支援する結果となった。また、党の全国委員会の役員、および連邦選挙の候補者や公職者が協力して行う資金調達活動は、献金の主な目的が連邦選挙の候補者の支援であることを示唆していた。

 しかしながら、規制制度が破綻しつつあるとの認識が広がるようになったのは、1996年の国政選挙期間中であった。その年、各政党が総額9億ドルのソフトマネーを集めただけでなく、利益団体や政党は、選挙に関する意見広告という、規制の枠外で連邦選挙に影響を及ぼす新たな手段を見いだした。これは、ソフトマネーの1つの形態であり、特定の候補者の当選あるいは落選を明確に奨励せずに、争点についての特定の立場と関連して、候補者の意見を伝えようとするコミュニケーションの手段である。

 ほとんどの下級裁判所では、バックリー対バレオの判決について、コミュニケーションが政府の規制の対象となるには、明確な表現が含まれていなければならない、と解釈してきたため、意見広告を出す団体は、たまたま次の選挙の候補者でもある公職者への見方を良くしたり悪くしたりする形で広告を出せば、連邦選挙法の制約を回避することができた。1996年以降の選挙では、こうした形で多額の資金が使われてきたと推定されているが、情報公開の義務が皆無に近かったため、正確な数字の入手は不可能である。

 

マケイン・ファインゴールド法の効果

 改革派は、PAC、選挙支出、および公的資金を制限する活動から、1996年以降、政治資金に対する連邦政府の規制を弱体化させている抜け穴をなくす事に焦点を移した。2002年のマケイン・ファインゴールド法は、全国政党および連邦政府の公職者や連邦選挙の候補者が、ソフトマネーを集めたり使ったりすることを禁止するとともに、州および地方の政党が「連邦レベルの選挙運動」と定義される活動にソフトマネーを使うことを禁じている。また意見広告に関しては、この新法では、予備選挙の30日前から、または一般選挙の60日前から放送される政治広告で、連邦政府公職の候補者を明らかにしたものについては情報開示を義務付け、また労働組合や法人の資金による広告の提供を禁止している。

 マケイン・ファインゴールド法の通過に先立ち議論が行われている間にも、同法の合憲性に対する疑問が常に存在していた。これは、1976年のバックリー対バレオの判決が、議会が想定していた制度の実現の代わりに、連邦選挙における資金の流れに広範な影響を及ぼす結果となったことを考慮すると、当然とも言える。同法の制定が実現に近づくにつれて、議論は合憲性の問題に集中した。2004年の選挙運動がすでに始まり、政治家が新しい法律に適応しようとしている中で、政界はマケイン・ファインゴールド法の迅速な合憲性審査を待ちわびている。

 その最初の判決として、2003年5月2日、コロンビア特別区地方裁判所がマッコネル対連邦選挙委員会(FEC)の裁判において、党の全国委員会がソフトマネーを集め、州および地方の政党に分配することを全面的に禁止する規則を無効としたが、より直接的な影響を連邦選挙に及ぼす可能性のある意見広告の禁止、および連邦選挙の候補者や公職者によるソフトマネー調達の禁止は維持した。また、同裁判所は、連邦選挙の候補者に言及したすべての放送広告について、時期に基づく規制も無効としたが、時期にかかわらず、広告が連邦選挙の候補者を支持しているか、あるいは反対しているかという、より主観的な基準に基づく規制を認めて、観測筋を驚かせた。この判決は後に、2004年の選挙運動をすでに開始している人びとの混乱を最小限に抑えるために、執行が延期された。連邦最高裁判所が9月に口頭弁論を聴取した上で最終判決を下すことになっている。

 連邦最高裁判所は、バックリー対バレオの判決以来の一般的なパターンに従って、この新法による言論の自由に対する規制の拡大を却下するだろうか。それとも、旧法に関連する大量の証拠と長年の経験に基づき、裕福な個人や団体による過大な影響力と不正の危険性は、本来なら最高裁が避けようとする強力な規制を適用する正当な根拠となる、と判断するだろうか。いずれにしても、最高裁の判決が、政治資金の流れの今後の規制に重大な影響を及ぼすことは確実である。

 

ジョセフ・E・カンター (Joseph E. Cantor) は、米国議会図書館議会調査局の米国政府専門家。ジョンズ・ホプキンズ大学卒業後、1973年、議会調査局に入局。1979年以降、選挙資金を専門に研究し、議会に選挙資金に関する情報を提供するとともに、関連課題や関連法改正案の分析に貢献している。

* 本稿はUnited States Elections 2004 に掲載の"The State of Campaign Finance" の仮訳です。