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*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

ヒラリー・ローダム・クリントン国務長官の外交政策に関する外交問題評議会での講演

2009年7月15日、ワシントンDC

 ハース会長、どうもありがとうございます。外交問題評議会(CFR)の新しい本部を訪れることができ、大変うれしく思います。私は、母船ともいうべきニューヨーク市の本部は何度も訪れていますが、このように国務省のすぐそばにCFRの拠点ができて良かったと思います。私たちはCFRから多くの助言をいただいていますが、これからは、私たちが何をすべきか、また将来についてどのように考えるべきかを示していただくために、今までのように遠くまで出かけなくてもよくなりました。

 ハース会長の今のお話は、私たちの直面するさまざまな課題に関して私がお話しすることの縮小版と言えます。本日の聴衆の中には、多くの友人や同僚だけでなく、過去の政権で働いていた方々もいらっしゃいます。ですから、インボックスがいっぱいでない時はありません。

 私が国務省で仕事を始める少し前に、かつて国務長官を務めていたある方があるアドバイスをくださいました。それは、あまりにも多くのことをしようとしてはいけない、ということでした。賢明な忠告だと思えました。ただし、実行可能でさえあれば、ですが。けれども、2つの戦争、中東における紛争、暴力的な過激主義と核拡散という今も続く脅威、世界的な景気後退、気候変動、飢餓と疾病、そしてますます広がる貧富の差、といった今日の国際的な課題は容赦がありません。こうした課題はすべて、米国の安全保障と繁栄に影響を及ぼすものであり、また世界の安定と前進を脅かすものです。

 しかし、それは、未来に絶望する理由にはなりません。これらの問題を悪化させる要因、すなわち経済の相互依存、開放された国境、そして情報・資本・物品・サービス・人の迅速な移動は、同時に問題解決に貢献する力ともなります。そして、より多くの国家が共通の課題に直面している中、私たちには、他の国々と協力して問題を解決するために米国の指導力を発揮する機会と大きな責任があります。それが今日の世界における米国の中心的な使命です。

 他の国々の台頭と米国内の経済危機を、米国の力の衰えを示す兆候と見なす人たちもいます。また、そもそも米国の主導に任せることを良しとしない人たちもいます。そうした人たちは、米国を、他国の利益と自らの理念を犠牲にして、性急に自国の意志を押し付けようとする、責任を負わない大国と見なしています。しかし、それは間違っています。

 問題は、米国が主導できるか、あるいは主導すべきか、ということではなく、米国が21世紀にどのように主導するか、です。柔軟性のないイデオロギーや旧来の方式を適用することはできません。私たちは、自国を守り、共通の繁栄を拡大し、より多くの場所でより多くの人々が天与の可能性を活用できるようにするためには、米国が自らの力をどのように使えばよいか、ということを新たな見地から考える必要があります。

 オバマ大統領は、通常の枠外で物事を考えることを私たちに教えてくれました。大統領は、共通の利害、共通の価値観、そして相互の尊敬に基づく、新しい関与の時代に乗り出しました。いずれ私たちは、米国独自の強みを活用して、パートナーシップを通じて、こうした利害を推し進めなければなりませんし、米国が模範となることによって生まれる力や、人々の政治的権限の強化によって、普遍的な価値観を推進しなければなりません。そうすれば、私たちは脅威を打破し、危険を管理し、21世紀の機会をとらえるために必要な世界的な合意を形成することができます。自らの理想に忠実に従い、その時代に合った戦略を受け入れるならば、米国は常に世界のリーダーであり続けます。ですから私たちは、パートナーシップを築き、どの国家も単独では解決できない問題を解決するために指導力を発揮し、より多くのパートナーを動員して成果を挙げるための政策を追求します。

 しかし、まず述べておきたいのは、米国の外交政策を形づくる理念は極めて重要ですが、これは私にとって単なる知的な活動ではない、ということです。私は、16年以上にわたり、ファーストレディーとして、上院議員として、そして今は国務長官として、外国で米国を代表する機会、というより特権を与えられてきました。私は、おなかの膨れた飢えた子供たち、人身売買される少女たち、治療できる病気で死んでいく男性たち、財産の所有や投票の権利を否定された女性たち、そして学校に行けず、仕事もなく、将来について強い無力感にとらわれている若者たちを見てきました。

 しかし一方で、希望と勤勉と創意が、どう見ても不可能な状況を克服する例も見てきました。そして国内では、36年近くにわたり、子供、女性、家族を支援してきました。米国内の各地を訪れ、米国民の日々の懸念に耳を傾けてきました。仕事を維持し、住宅ローンを支払い、子供の大学の学費を賄い、医療費を払うために、必死で努力している親たちに会ってきました。

 そして、そうした活動や見聞きしたことから、外交政策は一般の人々のために成果を挙げなければならないと確信するようになりました。その将来が世界経済の回復にかかっている、デトロイトの自動車工場を解雇された労働者、機会の欠如が政情不安定や景気停滞につながる可能性のある開発途上国の農民や中小企業のオーナー、イラクやアフガニスタンなどで米国のために命を懸けている人たちの家族、そして、より明るい将来を与えられるべき世界中の子供たち、といった人々です。こうした、米国内の何億もの人々、そして世界中の何十億もの人々の生活と経験、希望と夢を考慮して、私たちは決断を下し、それに従って行動を取らなければなりません。そして、私や同僚たち、そして私たちの日々の仕事を鼓舞してくれるのが、こうした人たちです。

 米国の外交政策における優先事項に取り組むに際し、私たちは緊急な課題、重要な課題、そして長期的な課題に同時に取り組まなければなりません。しかし、同時に複数の問題に対処する「マルチタスク」を余儀なくされながらも―これは非常にジェンダー問題と関係ある言葉ですが―優先事項を決めなければなりません。これについては、オバマ大統領が、プラハからカイロ、モスクワ、アクラに至る各地の講演で概要を述べました。私たちは、核兵器の拡散を後退させ、核兵器の使用を防ぎ、核兵器の脅威のない世界を構築したいと思っています。テロリストを孤立させて打ち負かし、暴力的な過激派に反撃する一方で、世界各地のイスラム教徒に働きかけたいと思っています。中東における包括的な和平を追求し達成するための努力をあらゆる当事者に奨励したいと思っています。米国経済を強化し、充実した開発計画を推進し、自由で公正な貿易を拡大し、適正な雇用を創出するための投資を増加することによって、世界経済の回復と成長を追求したいと思っています。気候変動と戦い、エネルギー安全保障を強化し、繁栄するクリーンエネルギーの未来の基盤を築きたいと思っています。国民の権利を守り、国民のために成果を挙げる民主的政府を支援し奨励したいと思っています。そして、世界中どこであろうと、人権を守るつもりです。

 自由と民主主義と正義と機会が、私たちの優先事項の基盤となっています。米国は、こうした理想を利用して、その意味するところと矛盾する行動を正当化しようとしている、と非難する意見もあります。また、米国は往々にして恩着せがましく、帝国主義的であり、他国を犠牲にして米国の力を拡大することだけを求めている、という意見もあります。事実、このような認識が反米主義に拍車をかけていますが、これは米国の本当の姿を反映するものではありません。私たちが近年、一定の支持を失ったことは確かですが、その損害は一時的なものです。言ってみれば私の「ひじ」のようなもので、日ごとに回復しています。

 中南米でもレバノンでも、イランでもリベリアでも、民主主義に刺激された人たち、民主主義とは単に選挙を行うことだけではないと理解する人たち、すなわち民主主義とは、少数派の権利と報道の自由を守り、強くて有能な独立した司法制度、議会、および行政機関をつくり上げ、民主主義が成果を挙げると約束することでもあると理解する人たちは、米国人が彼らの敵ではなく友人であるということを理解してくれます。オバマ大統領が先週ガーナで明確に述べたように、オバマ政権は、説明責任を果たす透明な統治を支持し、どこに住んでいようとも民主的制度の構築に努力する人々を支援します。

 米国の外交政策への取り組みは、過去の世界ではなく、現在の世界を反映するものでなければなりません。19世紀型の大国協調や、20世紀型の勢力均衡戦略を採用しても、意味を成しません。冷戦時代の封じ込めや、単独行動主義に戻ることはできないのです。

 今日、私たちは、この世界を特徴付ける2つの避けられない事実を認識しなければなりません。第1に、いかなる国家も、単独でこの世界の課題に対処することはできない、ということです。今日の課題は、あまりにも複雑です。新興勢力から企業や犯罪カルテル、非政府組織(NGO)からアルカイダ、国営メディアからツイッターを使う個人まで、あまりにも多くの当事者が影響力を求めて競争しています。

 第2に、ほとんどの国々が、核不拡散から疾病との戦いや対テロ活動に至る、共通の世界的な脅威について懸念を持っていますが、それだけでなく、歴史、地理、イデオロギー、そして無気力が理由で、極めて現実的な障害にも直面しています。こうした障害は、共通の利害を共通の行動に転換する際に邪魔になります。

 以上の2つの事実により、別の世界構造が必要となります。それは、各国が協力し各自の責任を果たすことを促す明確な誘因に加えて、傍観者となったり、不和や分断の種をまいたりすることを妨げる強力な誘因を各国が持つ世界構造です。

 そこで米国は、CFRのような機関の外交政策専門家の言う「集合行為問題」、そして私が協力への障害と呼ぶ問題を克服するために、指導力を発揮します。それは、いかなる国家も単独でこうした課題に対処できないのと同様、いかなる課題も米国抜きで対処することはできないからです。

 その際、次のような方法を取ります。私たちは、既存の制度を通じて作業を行い、その改革を行いますが、それだけにとどまりません。米国の招集能力、世界各国を結び付ける能力、そして健全な外交政策戦略を活用して、問題解決を目的とするパートナーシップを築きます。また国家レベルだけでなく、国家以外の主体や個人が問題解決に貢献できる機会をつくります。

 私たちは、こうした手法が、共通の懸念事項に基づいて多様なパートナーを一体化させることにより、私たちの利益を推進させると信じています。この手法は、他の関係者が責任を放棄したり権限を乱用したりすることを難しくする一方で、責任を公正に分担する意志を持つあらゆる国家、団体、あるいは市民に貢献の機会を与えるものです。すなわち、より多くの参加者による協力を助長し競争を減らすことによって、多極化した世界からマルチパートナーの世界へと均衡を変えていきます。

 しかし私たちは、この手法が万能の解決策ではないことを理解しています。そして、私たちの目的を、今後もきちんと見据えていきます。世界中の人々が皆、米国に好意を持っているわけでも、共通の価値観と利害を持っているわけでもありません。積極的に米国の活動を損なおうとする者もいます。そのような場合には、他国とのパートナーシップが力の連合となり、そうした否定的な行動を阻止あるいは抑止することができます。

 そして、私たちと敵対する国々、あるいは敵対する可能性のある国々に対しては、米国の外交と開発の重視は、わが国の安全保障を維持するための武器に代わるものではない、ということを伝えたいと思います。米国は喜んで話し合いに応じますが、この姿勢はつけ込むことができる弱さの表れではありません。米国は、ためらうことなく、友好国、国益、そして何よりも国民を積極的に守り、必要であれば世界最強の軍事力によって守ります。これは、私たちが求める選択肢でも威嚇でもなく、すべての米国民への約束です。

 世界的な協力の構造を構築するためには、適切な政策を立案し、適切な手段を使うことが必要です。私はよくスマートパワーについて話をしますが、その理由は、それが私たちの思考と意思決定に極めて中心的な役割を果たすものだからです。スマートパワーとは、利用可能なあらゆる手段を賢明に使うことであり、その中には、各国を招集し結び付ける能力も含まれます。スマートパワーとは、米国の経済力や軍事力、起業や革新を実行する能力、そして米国の新しい大統領とそのチームの能力と信頼性でもあります。そして、政策決定において旧来の常識を適用することでもあります。それは原則と実用主義の融合です。

 スマートパワーは、5つの分野における具体的な政策上の取り組みにつながります。第1に、私たちは、パートナーと協力する手段を更新し、新たな手段をつくり上げるつもりです。第2に、米国と異なる意見を持つ人々とは、原則に基づいて関与していきます。第3に、開発をより重視し、米国の力の中心的な柱のひとつに位置づけます。第4に、紛争地域で民間の活動と軍事行動を統合します。そして第5に、米国の経済力、模範となることによって生まれる米国の力など、わが国の力を生み出す主な要素を活用します。

 第1の取り組みは、従来の同盟国、新興国、および多国間機関との間に、こうした、より強固な協力の仕組みを構築し、私が今述べたように、原則に基づき、かつ実用的な方法でそうした協力を行うことです。私たちは、こうした協力の仕組みを対立するものではなく、補完的なものと考えています。

 まず私たちは、近年ほころびを見せていた、基本的な同盟関係の再活性化から始めています。欧州においては、2国間関係の改善と、欧州連合とのより生産的なパートナーシップ、そして北大西洋条約機構(NATO)の再活性化を意味します。私は、NATOが歴史上最も偉大な同盟関係であると考えています。しかし、それは冷戦のために構築された同盟でした。新しいNATOは、東はバルト諸国から西はアラスカ州まで広がる地域の10億近い人々から成る民主主義的な共同体です。私たちは、NATOの戦略的概念が今世紀においても前世紀と同様に有効であるように、この概念を更新すべく作業しています。同時に、主要な同盟国である日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピン、およびその他のパートナーと協力し、米国との2国間関係だけでなく、太平洋を挟んだ組織の強化に努めています。米国は大西洋地域と太平洋地域の両方に属する国家なのです。

 また、中国、インド、ロシア、ブラジル、トルコ、インドネシア、南アフリカといった世界の主要新興国に対して、世界的な課題への取り組みで全面的なパートナーとなるよう奨励することに、特に重点を置きます。私は、この仕事の重要性と、これを行うに当たっての私の個人的な決意を強調したいと思います。共通の課題について問題を解決し、核不拡散、テロ対策、経済成長、気候変動といった私たちの優先事項を推進するためには、これらの国々の参加が不可欠です。こうした国々に対して、米国は共通点を求めながらも、米国の原則を堅持します。

 今週、私はインドを訪問し、クリシュナ外務大臣と共に、米印2国間関係において政府全体での取り組みを必要とする広範な計画を策定します。またその後7月中に、ガイトナー財務長官と私は共同で、中国との新たな戦略・経済対話を主導します。ここでは、経済的な課題だけでなく、米中が共に直面する幅広い戦略的課題を議論します。秋にはロシアを訪問し、ラブロフ外務大臣と私が共同議長となる2国間の大統領委員会を推進する予定です。

 これらをはじめとする会合は、成果を保証されているものではありませんが、幻想を抱かせることなく私たちの協力の道を広げ、意見の異なる範囲を縮小するプロセスと2国間関係を始めるものです。私たちは、直ちに進展があるものではなく、前途も平穏でないことを認識していますが、この道に一歩を踏み出し、歩み続ける決意を固めています。

 今の世界は、現在の国際的・地域的な制度がつくられた当時の世界から大きく変化しています。従って、こうした制度も変化し、改革されなければなりません。最近イタリアで行われたG8サミットの後に大統領が述べたように、私たちは「行動の効率性と能力に包括性を加えた」制度を求めています。国連から世界銀行まで、国際通貨基金(IMF)からG8やG20まで、そして米州機構(OAS)や米州サミットから東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)まで、あらゆる機関にそれぞれ果たすべき役割がありますが、これらの機関が活力と関連性を維持するためには、正当性と代表性、そして問題が生じたときに加盟国が迅速に、かつ責任を持って行動する能力を持たなければなりません。

 また私たちは、政府以外にも働きかけます。それは、21世紀の国政においては、市民とのパートナーシップが極めて重要な役割を果たすと信じるからです。オバマ大統領のカイロでの講演は、一般市民に直接語りかけるコミュニケーションの素晴らしい例のひとつです。そして私たちは、これに続けて、教育交流、アウトリーチ(積極的対外活動)、ベンチャー企業などの総合的な計画を実施しています。私は、訪問先のどの国でも、市民社会を強化し、市民と触れ合う機会を求めます。イラクでは初めてバグダッドで行ったような市民集会、幅広い層の若者が視聴する地元の人気テレビ番組への出演、あるいは民主主義活動家や戦争で夫を亡くした女性や学生たちとの会合などです。

 私は、数々の具体的な課題に重点的に取り組むためにそれぞれ特使を任命しました。初の国際女性問題担当特使や、新たな官民パートナーシップを構築する特使、また米国内のディアスポラ社会と接触し、彼らの祖国における機会を拡大する特使などです。国務省では、国境を越えた対話をするためや、技術を常に最新のものに維持するためだけでなく、特に社会の周辺部に取り残されがちな人たちの機会拡大のために、政府が最も革新的な技術を使うようにすべく努力をしています。私たちがこうした措置を取っているのは、市民に直接働きかけることによって、彼らが私たちとの協力を受け入れることを促し、米国と彼らの政府および彼ら自身とのパートナーシップを、より強力かつ持続可能なものとすることができるからです。

 また私たちは、パートナー国に対して、より柔軟かつ実用的な姿勢を取り始めています。あらゆる課題について意見の一致を見ることはできません。自らの原則を堅持することによって、協力可能な分野での連携が妨げられるようなことがあってはなりません。従って私たちは、パートナー国に対して、私たちの意見を受け入れるか拒否するかの二者択一を迫ったり、米国の味方か敵かどちらかだと主張したりすることはありません。今日の世界においては、それは国際的な違反行為です。

 その典型的な例が、北朝鮮をめぐるわが国の外交です。私たちは、北朝鮮の挑発的な行為に対応して、国連安全保障理事会で合意を形成するために、大量の外交資源を投入してきました。私は、日本、韓国、ロシア、および中国の外相と何度も話し合い、彼らの懸念事項を聞き、米国の原則と譲れない一線を明確にし、前進する道を求めてきました。短期的な成果として、北朝鮮に対して真の効力と影響力を持つ2つの安全保障理事会決議が採択され、それに続いて、中国、ロシア、およびインドが、米国と協力し、他の諸国が決議を順守するよう説得する作業に積極的に関与しました。長期的な成果としては、朝鮮半島の全面的かつ検証可能な非核化に向けた、より厳格な共同作業が実現する、と私たちは考えています。

 こうしたすべてのパートナー国との関係を深めていくには、時間と忍耐力が必要です。また粘り強さも必要です。それは、急を要する課題を先送りにするということではありません。また、成果を挙げるまでに何年もかかる活動を遅らせる理由にもなりません。私の最も気に入っている言葉のひとつとして、マックス・ウェーバーは、「政治とは、硬い板に、長い時間をかけてゆっくりと穴をあけるようなものだ。それには情熱と大局的な視点の両方が必要だ」と述べています。大局的な視点は、情熱と忍耐力に影響を及ぼします。そして言うまでもなく、情熱があれば、何もしない言い訳を見つけるようなことはありません。

 時間だけではすべての傷を癒やせないことは、よく理解しています。その好例がパレスチナとイスラエルの紛争です。だからこそ、私たちは時間を無駄にせず、2つの国家でパレスチナ人とイスラエル人が平和に、そして安全に暮らす権利を実現できるよう、政権発足の初日から集中的な活動を始めたのです。これは、米国と世界の利益にかないます。イスラエルと協力して、入植地の問題に取り組み、パレスチナ人の生活環境を改善し、存続可能なパレスチナ国家の建設につながる状況をつくろうとしています。過去数十年にわたり、米国の歴代政権は、入植地問題に関して一貫した姿勢を貫いてきました。私たちは、イスラエルの行動を期待していますが、こうした決断が政治的に難しいものであることも認識しています。

 また、和平に向けた進展が、米国あるいはイスラエルの単独の責任ではあり得ないことも理解しています。紛争の終結には、あらゆる当事者の行動が必要です。パレスチナ人には、安全保障に関して既に取っている前向きな行動をさらに拡充する責任、扇動的な行為を断固として阻止する責任、そしていかなるものであろうと、意味のある交渉の可能性を低くするような行動を慎む責任があります。

 また、アラブ諸国には、パレスチナ自治政府を、言葉でも行動でも支持し、イスラエルとの関係改善を図る措置を取り、和平に応じ、この地域にイスラエル国家を受け入れる覚悟を自国民にさせる責任があります。サウジアラビアの和平案は前向きな1歩であり、20カ国以上の支持を得ています。しかし私たちは、さらに多くのことをする必要があると考えています。そのため、この和平案を支持する人たちに、今、意味のある措置を取ることを要請しています。アンワール・サダト・エジプト大統領とフセイン・ヨルダン国王は、重要な第1歩を踏み出しました。そして、彼らの大胆な行動と先見性が、イスラエル国内の和平支持派を動かし、永続的な合意への道を切り開きました。アラブ諸国も、パレスチナ人を支持し、イスラエル人にささやかなりとも機会を提供することによって、同様の効果をもたらすことができます。ですから私は、すべての当事者にこのように言います。平和のメッセージを発信するだけでは十分ではありません。それと同時に、対立を持続させる憎悪と不寛容と軽蔑(けいべつ)の文化に対抗する行動を取らなければなりません、と。

 私たちの第2の政策上の取り組みは、敵対国や意見の異なる国家の場合でも、外交によって主導していくことです。そうすることが米国の国益を推進することになり、他のパートナー諸国と共に主導する米国の立場をより良くする、と私たちは信じています。関与することを恐れたり嫌がったりすることはできません。しかし、一部には、これは愚直さの表れ、あるいは自国の国民を抑圧する国々を黙認することである、という意見もあります。私は、それは間違っていると思います。関与によって米国の国益と価値観が推進される可能性がある限り、その選択肢を排除するのは賢明なことではありません。交渉によって、各政権がどのような計算をしているかを知ることができ、またわずかな可能性であっても、ある政権が、国際社会に受け入れられることによって得る利益と引き換えに、やがては自らの行動を変える可能性がどれほどあるか知ることができます。リビアが、そうした例のひとつです。また、対話という選択肢を徹底的に使ってみることにより、たとえ説得が失敗に終わったとしても、パートナー諸国が圧力をかけることをいとわなくなる可能性が高まります。

 こうしたことを踏まえた上で、イランについて少しお話ししたいと思います。私たちは、イラン大統領選のエネルギーを大いに称賛しながら見ていましたが、イラン政府が国民の声を抑えるために暴力を使い、続いてその行動を隠すために外国人や外国人ジャーナリストを逮捕し、国外追放し、技術へのアクセスを断ち切ったやり方に、がくぜんとしました。米国およびG8のパートナー諸国が明確に述べたように、こうした行動は遺憾であり、容認できないものです。

 私たちは、イランに関して何を受け継いだかをよく知っています。なぜなら私たちは日々それに対処しているからです。イランへの対応の拒否が、イランの核武装への歩みを方向転換させたり、イランによるテロ支援を縮小したり、イラン政府による国民の扱いを改善したりすることにつながっていないことは承知しています。

 オバマ大統領も私も、イランと対話すれば何らかの成功が保証される、という幻想は一切抱いていません。そして、選挙後の何週間かの間に、見通しは確かに変わっています。しかし私たちは、イランに関与を提案し、イランの指導者たちに明確な選択肢を提供することの重要性も理解しています。それは、国際社会に責任ある一員として参加するか、あるいはさらなる孤立への道を歩み続けるか、という選択肢です。

 直接交渉が、その選択肢を提示し説明するための最良の手段です。私たちがイランの指導者たちに明確な機会を提供したのは、そのためです。イランには、核の軍事力を持つ権利はなく、米国はこれを阻止する決意を固めています。しかし、イランは原子力開発計画を平和目的にのみ使うであろうという国際社会の信頼を取り戻すことができるならば、イランには民生用原子力発電を行う能力を持つ権利があります。

 イランは、近隣諸国を脅したり、テロを支援したりすることをやめれば、この地域の建設的な参加者となることができます。人権に関する義務を果たせば、国際社会において責任ある位置を占めることができます。選択すべき道は明らかです。私たちは、今もイランに関与する準備ができています。しかし、行動すべき時は今です。いつまでもチャンスがあるわけではありません。

 第3の政策上の取り組み、そして国務長官としての私にとって個人的な優先事項のひとつは、開発をより重視し、米国の力の中心的な柱のひとつとすることです。世界中の人々の物質的な生活条件を向上させることによって、米国の安全保障と繁栄と価値観を推進します。こうした活動は、新しいパートナー国の能力を開発し、共通の問題に根本的に取り組むことによって、より大きな国際協力の基盤を築くことにもなります。

 私が先週発表した「4年ごとの外交・開発政策見直し」の主な目的のひとつは、開発と対外援助をより幅広い外交政策の一環として、いかに効果的に計画立案し、資金を充て、実行すべきかを調査することです。率直に言って、米国の開発予算が政府予算に占める割合はこれまで、他のほとんどの先進諸国より小さいものでした。しかも、その開発支出の中でも、真の持続的な進展に貢献したものはごくわずかでした。米国の開発支出のあまりにも大きな部分が意図された対象に届かず、米国内で契約上の間接費や人件費に使われています。私は、非政府機関(NGO)とのパートナーシップを増やすことに力を入れていますが、より一層多くの税金が具体的な成果を挙げるために有効に使われることを望んでいます。

 私たちは、開発のための、より機動的・効果的・創造的なパートナーシップを求めているので、国家主導の解決策を重視します。その例として、今私たちがハイチと共に始めようとしている復興と持続可能な開発に関する施策や、アフリカ諸国と進めている世界規模の飢餓に関する施策などが挙げられます。こうした構想は、その国の国民が辛うじて暮らしていけるだけの援助をすることを目的にすべきではありません。国家が自力で立ち上がることを援助する手段なのです。

 また私たちの開発計画は、経済成長と社会の安定をけん引する存在として女性を重視します。長年にわたり、世界で、衛生・教育・食糧の不足している人口の大部分を占めてきたのは女性でした。また、世界の貧困層の大半は女性です。世界的な景気後退は、女性や少女たちに不当に大きな影響を与えており、その結果として、家族、地域社会、そして地域全体にさえも影響が出ています。世界各地の女性に権利が与えられ、教育、医療、および有給で雇用される機会が与えられるまでは、世界の進歩と繁栄が、そのガラスの天井によって阻まれます。

 第4の取り組みは、米国が紛争に関与する場合に、民間の活動と軍事行動を協調させ、相互に補完するような形で実施することです。国際的なパートナー諸国と活動を統合しているアフガニスタンとイラクでは、これが米国の戦略の中核を占めています。

 アフガニスタンとパキスタンにおける米国の目標は、アルカイダとこれを支持する過激派を分断し、解体し、最終的には打倒することと、彼らがこの両国に戻ってくるのを阻止することです。しかし、米国民からは、アルカイダの指導者たちは隣国パキスタンにいるのに、なぜアフガニスタンで米国の若者たちの命を危険にさらすのか、とよく質問されます。その問いには、きちんと答えなければなりません。米国とその同盟国がアフガニスタンで戦っているのは、タリバンがアルカイダを保護し、アルカイダからの支援に依存し、時には連携して活動しているからです。すなわち、アルカイダを壊滅させるためには、タリバンとも戦わなければならないのです。

 タリバンと共に戦う人々のすべてがアルカイダを支援しているわけではなく、タリバン政権が追求した過激主義的な政策を支持しているわけでもないことは分かっています。今日では、米国と、アフガニスタンで米国を支持している同盟国は、タリバン支持者の中でも、アルカイダを拒否し、武器を捨て、アフガニスタンの憲法に記されている自由で開かれた社会に参加する意思のある人々を歓迎する用意があります。

 これらの目標を達成するために、オバマ大統領は、アフガニスタンにさらに1万7000人の兵士と4000人の軍事訓練担当者を派遣します。また同様に重要なこととして、米国は、アフガニスタン政府を強化し、かつて活気のあった農業部門を再建し、雇用を創出し、法の支配を奨励し、女性の機会を拡大し、アフガニスタン警察の訓練を行う新たな活動を主導するために、何百人もの直接雇用の米国民間人を派遣します。アフガニスタンとその国民に関与するという私たちの決意には、誰も疑いを挟むことはできません。しかし、アフガニスタン国民の将来を決定するのは彼ら自身なのです。

 この取り組みを進めるに当たり、アフガニスタンで成功するには隣国パキスタンとの密接な協力が不可欠であることを忘れてはなりません。私はこの秋、パキスタンを訪問する予定です。パキスタン自体も、過激派グループから強い圧力を受けています。アフガニスタン、パキスタン、米国の3国が協力することによって信頼が生まれ、数々の政策分野で前進しました。米国の国家安全保障だけでなく、アフガニスタンの未来も、経済的に存続可能な、民主的で安定したパキスタンにかかっています。私たちは、パキスタンの民主主義と、米国とパキスタンに共通する安全保障を脅かす過激派に対処しようとする、パキスタンの新たな決意を称賛します。

 イラクでは、米国は外交と開発計画を強化する一方で、米軍の責任ある撤退を実行しています。先月、戦闘部隊を都市部から移動させました。現在、私たちは、安全保障の問題から、イラクの能力を促進する民間の活動へと重点を移しており、イラクの省庁の仕事を支援し、国家の統一に向けた活動を助けています。また、米・イラク戦略枠組み合意で概説した、イラクとの長期的な経済・政治関係をつくり上げようとしています。この合意は、米国とイラクおよびイラク国民との今後の協力の基盤となるものであり、私は、来週ワシントンを訪れるマリキ首相と、この合意とその実施について話し合うことを楽しみにしています。

 第5の取り組みは、米国の経済力や模範を示すことによって生じる力など、伝統的な米国の影響力を強化することです。私たちは、拷問を禁止し、グアンタナモ収容所の閉鎖を始めることによって、米国の価値観を取り戻しました。また、メキシコにおける麻薬密輸や地球規模の気候変動などの問題に関する米国自身の責任の度合いについて率直に述べてきました。メキシコが現在直面する麻薬密輸業者との紛争に米国が果たしている役割に関する明らかな事実を私が認めたとき、それに批判的な人もいました。しかし、そうした批判は的を外れています。私たちの責任を取る能力、変革を求め、正しい行動を取ろうとする意志は、それ自体が米国の国家としての偉大さを証明するものであり、国益のために連合を組む際の戦略的な資産です。

 これは特に、核不拡散や気候変動などの主な優先事項について言えることです。オバマ大統領は、核兵器のない世界というビジョンの実現に向けて取り組み、核兵器の脅威と拡散を縮小するために一連の具体的な措置を取ることを約束しています。例えば、現行の戦略兵器削減条約(START)に代わる新たな枠組み合意や包括的核実験禁止条約の批准に向け上院と協力すること、核不拡散条約の枠組み内でより大きな責任を負担すること、そして来年ここワシントンに世界各国の首脳を集めて核サミットを開くこと、などの措置です。今こそ私たちは、共通の核不拡散の行動計画を前進させるために実用的な措置を取るよう、他の国々を促さなければなりません。

 また、オバマ政権は、温室効果ガス排出の大幅削減も約束しており、そのために、エネルギーの生産・消費・節約の方法を劇的に変え、その過程で新たな投資を大幅に増やし、何百万もの雇用を創出する計画を立てています。今こそ私たちは、自らの義務を履行し、クリーンなエネルギーの未来の機会をとらえるよう、他のすべての国々を促さなければなりません。

 私たちは、特にこの経済的混乱の時期にあって、世界での米国の力と能力を強化するために、国内の経済回復を進めています。これは従来、国務長官の優先事項ではありませんが、私は、米国の世界的な指導力の柱として、米国経済の回復と成長を積極的に支持しています。また、政府全体が一体となって行う国際経済政策の策定に関する取り組みの中で、国務省に重要な役割を取り戻すことに力を入れています。私たちは、米国の経済政策、すなわち貿易と投資、債務免除、融資保証、技術援助、適正な労働慣行などが、米国の外交政策目標を支えるものとなるように努力します。米国の経済的な対外活動は、適切な開発活動と相まって、より良い形のグローバル化を実現し、近年見られた激しい対立を弱め、さらに何百万もの人々を貧困から脱出させることができます。

 最後に、私は、国務省の職員が、米国の優先事項を効果的かつ安全に実施するために必要な資源を確保できるようにする決意を固めています。だからこそ私は、初めて、管理・資源担当国務副長官を任命しましたし、国務省と米国国際開発庁(USAID)の追加予算を確保すべく奮闘しました。また、今後数年間で対外援助を倍増しようとしていますし、さらには外交官と開発の専門家の数を大幅に増やす計画を実施しています。

 戦闘に向かう米軍兵士に弾薬を与えないなどということは決してないのと同様、十分な資源を与えずに文民を現場に送り出すことはできません。外交と開発に投資しなければ、結局は、紛争とその結果としてもたらされる状況のために、さらに多額の出費をすることになります。ゲーツ国防長官が述べたように、外交は国家安全保障に不可欠な手段であり、それは、フランクリン、ジェファーソン、そしてアダムズがワシントンの軍隊のために外国の支援を得た当時から、変わることのない事実です。

 今申し上げたすべての取り組みを総合すると、非常に野心的な行動計画となります。しかし、世界は、私たちに選択あるいは待つという余裕を与えてはくれません。始めに述べたように、私たちは、緊急な課題、重要な課題、そして長期的な課題に同時に取り組まなければなりません。

 私たちは、大きな変化の証人であるとともに、その変化を生み出す者でもあります。受身の傍観者であることはできず、そうなるべきでもありません。私たちは、暴力的な過激主義、核兵器、地球温暖化、貧困、および人権侵害のない世界、そして何よりも、さらに多くの場所でさらに多くの人々が天与の可能性を発揮することのできる世界に、変化の流れを向かわせる決意を固めています。

 私たちが構築を目指している協力の構造は、支配や分断する力ではなく、問題を解決する能力を利用して、これらすべての目標を前進させるものです。それは米国をはじめとする、すべての国家が前進するための構造です。

 今から230年以上前、トーマス・ペインは、「私たちには、世界を初めから作り直す力がある」と述べました。今日、当時とは大きく異なる新しい時代に、私たちはその力を使うことを求められています。私たちには、適切な戦略と適切な優先事項、適切な政策があると、私は信じています。そしてまた、適切な大統領と、多様で献身的、かつ未来を柔軟に受け入れる米国民がいることも信じています。

 今、私たちがしなければならないのは、実行することのみです。皆さん、どうもありがとうございました。


リチャード・ハースCFR会長 幅広く、深い、本当に包括的なお話をどうもありがとうございました。ここで、そのようなお話をしていただいたことにお礼を申し上げます。

 それでは早速、会員からの質問に移ります。マイクの順番を待ち、なるべく大勢が質問できるように個々の質問をできる限り短くしてください。名前を呼ばれた方は、氏名と所属を述べてください。

 とても大勢の方がいらっしゃいますね。この質疑応答で、私は会員の70%から嫌われることになります。代わりに長官に質問者を選んでいただきましょうか。

クリントン長官 いえいえ、それはあなたの役目です。

ハース会長 では、オデ・アバディーンさん。

 私は1999年のパレスチナ民族憲章改訂時に、クリントン元大統領と一緒にガザにいらしていた長官をお見かけしました。当時、大きな希望が生まれていました。長官は、2010年までに…2010年末までに、イスラエルとパレスチナの和平合意が実現すると思われますか。またシリアについてもご意見を聞かせていただけますか。

クリントン長官 ガザでの式典と、当時大きな希望が生まれていたことをよく覚えています。私は、個人的にも、また現在の国務長官としての立場からも、今もその希望を持ち続けています。私がオバマ大統領に、熟練した交渉担当者を特使として任命するよう進言したのは、そのためでもあります。そしてジョージ・ミッチェル氏が、特使の任務を喜んで受諾しました。以来、私たちは、そのような交渉の条件を整えるために、文字通り休むことなく作業を続けています。

 しかし、私が講演で申し上げたように、これはイスラエルだけの責任でも、パレスチナだけの責任でもない、と私たちは考えています。中東地域全体、特にアラブ諸国がこの件にさらに力を入れて取り組み、2つの国家という解決策を真に支持する意志を明確にすることを期待しています。

 米国は、できる限り精力的に努力を続けるつもりです。どのような予測もするつもりはありませんが、米国がこの件に深く、永続的に関与すると言うことはできます。私は簡単には落胆しませんし、ほかの人々にも簡単に落胆してほしくありません。なぜなら、これは極めて困難な仕事であり、特に1999年のガザと2009年の現状との間には10年の年月が流れているからです。しかし実際には、過去6カ月間の進展を見て元気が出ました。

 シリアに対しては、大使復活の提案も含め、米国は関与を望んでいること、しかし互恵的な関与を期待していること、そしてその可能性を共に探り始める中で、シリアが特定の行動を取ることを期待していることを明確に伝えてきました。私たちが中東で何をするにしても、シリアは重要な当事国のひとつであると思います。シリアが、イランとの関係や、過激派やテロリストの活動に対する支援に関して、どのような位置に立つべきかというシリアの考えが変わっていき、シリアと米国が、両国の、そしてより広範な地域の利益となるような双方向の関与を追求できるようになることを、私は願っています。

ハース会長 長官はお話の中で、そうした状況におけるパレスチナ自治政府の役割の可能性についてお話されました。ハマスについては特に言及はされませんでしたが、ハマスが和平プロセスで役割を果たすことができる状況は考えられますか。

クリントン長官 現時点では、私たちは4者協議の原則を堅持しています。そして、ハマスがイスラエルを承認し、暴力を放棄し、過去の合意の順守に同意することを期待する、ということを、公式にも非公式にも、さまざまな形で明確に表明してきました。そして、4者協議のメンバーである欧州連合(EU)、ロシア、国連が、この点について米国を強く支持していることを大変喜ばしく思っています。

 また、パレスチナ自治政府とハマスとの統一政府の実現に向けた努力において、パレスチナ自治政府は断固たる姿勢を取っています。それは言うまでもなく、パレスチナ自治政府が2つの国家という解決策を強く支持しているからであり、ハマスはまだそうするには至っていないからです。従って、現段階で私たちが望んでいるのは、イスラエルとパレスチナ自治政府に交渉を始めてもらうことです。

 また、タリバンについて述べたように、武器を捨て、アルカイダを拒否し、自由で開放された社会に参加する意志のある人々を、私たちは歓迎します。そしてこれは、拒絶と抵抗の姿勢が自分や子どもたちに望ましい未来をもたらしてはくれてはいないということを認める、他の組織の人々にも当てはまることだと思います。ですから私は、できる限り多くの人たちが2つの国家という解決策に参加するよう奨励する決意でいますが、参加するためには一定の条件を満たさなければなりません。

ハース会長 ルービンさん。

 フィラデルフィア・インクワイアラー紙のトルーディ・ルービンです。

クリントン長官 ルービンさん、お元気ですか。

 現時点でのオバマ政権のイランに関与する意欲について、少し詳しくご説明いただけますか。

 まず、5月に送られた書簡に対して、アヤトラ・ハメネイ師またはイラン政府から何らかの反応があったのでしょうか。また、イランが関与に関心を示したとして、協力しようとしない場合、どうなるのでしょうか。 全く譲歩がない場合、いつまでこの状況が続くのでしょうか。そして最後に、バイデン副大統領の発言の後で、イランに対する攻撃について、イスラエルに青信号、黄信号、あるいは赤信号が出されたのかどうかを明らかにしていただけますか。

クリントン長官 3つともやさしい質問ですね。

 イランに関しては、スピーチで述べたことの範囲内にとどめておきます。私たちは、イランの選挙後の状況がイラン政府の様相を変えていることをよく認識しています。現時点でイラン政府がどのような意志を持っているのか、私たちにはわかりません。イラン政府が選挙後に取った抑圧的な行動、そして選挙において、何らかの不正行為が行われた可能性が高いことについて、非常に憂慮しています。

 しかし、先に述べたように、現在、私たちに開かれている道はありません。それでも私たちは、イラン政府には選ぶべき選択肢があることを明確にしています。そして、その選択肢が追求に値するものかどうかを判断するイラン政府の決定を待ちます。イラン政府がこれを追求する道を選んだ場合、私たちは、これが無制限の関与ではないことを極めて明確に示しています。これは、何があってもずっと開放されている扉ではありません。そして、イラン政府が何らかの決断を下すまでは、私たちには今後の予想がつかないと思います。

 副大統領の発言については、その翌日に、大統領とホワイトハウスが明確に説明したと思います。

ハース会長 1人の質問者から2つ、あるいは3つの質問が出ていますが、これからは1人ひとつの質問に限らせていただきます。

 シェーファー大使、どうぞ。

 ありがとうございます。長官、お会いできてうれしく思います。

クリントン長官 ありがとうございます。

 最後にお会いしたのはコロンボで、長官がファーストレディーの時でした。

クリントン長官 私も覚えています。

 長官は、間もなくインドを訪問されますが、その訪問でどのような成果を期待されているのかお聞きしたいと思います。おそらく、成果の多くは2国間の問題についてだと思いますが、外交政策と国際問題の議題に少し焦点を絞ってお話しいただけますか。本当の意味で、インドと協力できる見込みのある課題がありますか。一方、ほかと比べて難しい課題はありますか。その場合、協力の出発点はどこになるとお考えですか。

クリントン長官 私たちは、米国とインドが非常に広範囲に及ぶ包括的な対話を始めようとしていることをとても喜んでおります。米印間の対話としては、これまでで最も広範囲に及ぶものであると思います。この対話には6つの柱があり、そのひとつはもちろん、外交政策、戦略的な課題ですが、そのほかに保健、教育、農業、経済などがあります。

 従って、予断は避けたいと思いますが、あらゆる課題が話し合いの対象となることは明らかです。インドには、地域的な役割だけでなく国際的な役割をも果たす、とても大きな機会があり、そうした役割を果たす責任もますます重くなっている、と私たちは考えています。そしてインドもこれを認識しています。インドがその役割をどのように定義するかを、私たちは話し合いの過程で深く探っていきます。しかし、言うまでもなく、私たちがインドの指導力と関与を歓迎する分野の中には、難しい分野も多数あります。

 核不拡散は簡単なことではありません。ストローブ・タルボットの著書「Engaging India」を読んだことのある方ならご存じのように、これはとても難しい問題です。しかし私たちは、大量破壊兵器、中でも核兵器に関して国際的および地域的な体制をつくるための新たな方法を検討したいと思っています。インドが隣接地域での自らの役割をどのように見ているのか、ということに大きな関心があります。スリランカに言及されましたが、今後のインドの決断が、軍事的に、特に海軍の面から見て、どのような意味合いを持っているのでしょうか。インドの取っている経済的措置は…インドは、他の多くの国々と比べて、この景気後退の始まりをうまく切り抜けてきましたが、今後も経済成長を続け、国民を貧困から脱け出させるために、どのような措置を取るのでしょうか。インド国民会議党は、貧困層、特に農村地帯の貧困層に対して数々の重要な公約を掲げました。

 インド訪問中に、インドで初めてLEED(訳注:Leadership in Energy and Environmental Design、日本の建築環境総合性能評価システムに類似する米国の環境対応評価制度)の認証を受けた建物を見学し、気候変動とクリーンエネルギーについてお話しする予定です。インドと中国は、新たな地球規模の気候変動の体制において、自分たちが果たすことを期待されている役割について、当然とも言える疑問を持っています。国務省のトッド・スターン気候変動問題担当特使が私に同行します。私たちは、対話を通じて、双方の利益となる何らかの方法を見つけ出したいと思っています。このLEEDの認証を受けた建物は、インドが何ができるかを示す格好の事例です。

 インドの農業施設も訪問します。インドは、農業生産性を今後も向上させることを強く望んでいるからです。しかし、そのためには、作物を市場に送るためのインフラを築かなければなりません。農場から市場への道路が必要です。貯蔵・冷蔵施設が必要です。従って、これはとても重要な分野だと思います。今私が述べたのは、ごく表面的なことにすぎません。とても期待しています。シン首相、クリシュナ外相、そしてその他の方々との会合を非常に楽しみにしています。私たちは、関与を広く深く拡大するためにできる限りの努力をします。

ハース会長 ミッチェル元上院議員とトッド・スターン氏のお名前が挙がりましたが、念のために、長官のスタッフの皆さんの中から、ご質問があるかどうかお聞きしておきたいと思います。

クリントン長官 質問はしない方がいいと思いますけど。

ハース会長 朝のスタッフ会議の時間が十分取れなかった場合を考えて、スタッフの皆さんにも質問の機会を作ろうと思ったのですが…それでは、後ろの方の、後ろから3列目あたり、遠いのでどなたなのか分かりませんが、1人か2人、手が挙がっています。

 コングレショナル・クオータリー誌のジョナサン・ブローダーです。報道によると、ジョージ・ミッチェル氏とイスラエルのエフード・バラク国防大臣の話し合いで、特定の数の入植地…入植地内で住宅の建設がすでに始まっており、これらの住宅の建設を進めることを認める合意があった、とされています。この報道は本当ですか。

クリントン長官 私は、いかなる形であれ、交渉の内容に触れるつもりはありません。何らかの決定が行われれば、必ず公式発表があると思います。そして、決定されるまで待つことが、イスラエル政府に対しても、米国政府に対しても、公平なことです。

ハース会長 ハティ・バビットさん。

クリントン長官 バビットさん、こんにちは。

 こんにちは。「4年ごとの外交・開発政策の見直し」について少しお聞きしたいと思います。この「見直し」は、長官の土曜日の講演から、「4年ごとの国防政策見直し」をモデルとしている部分は少しあるけれども、このプロセスで利害関係のある省庁の数が多いため、多くの点で「国防見直し」より複雑なものである、と私は理解しています。長官は、「外交・開発政策の見直し」がどのように実施されるとお考えですか。

クリントン長官 バビットさん、ありがとうございます。私は6年間、軍事委員会の委員を務めました。そして、私の見たところ、「4年ごとの国防政策見直し」は、国防総省にとって非常に重要な規律でありツールとなっていました。それは、国防総省が自らを厳しく見直し、優先事項とそれを達成するための手段を提示することを余儀なくするものでした。そして私は、それが、米国の外交政策において国防総省が次第に極めて重要な位置を占めるようになった多くの理由のひとつである、と考えました。そこで、私たちの取ろうとしている多くの措置のひとつとして、初めての「4年ごとの外交・開発政策の見直し」を行うことを決定したわけです。なぜなら、それによって、私たちが何を達成しようとしているのかを深く考え、できる限り具体的に述べ、自らの使命と必要な資源を調和させ、私たちのしようとしていることを正当化し、その成果を実証することを要求される、と思うからです。

 特に、世界的な景気低迷にあって、私は、現在失業中の人たちや、ぎりぎりの線で生活している人たちに、なぜ私が外交や開発と呼ばれているものに、さらに多くの予算を要求しているのかを説明できる状態にしておく、大きな責任を感じています。私は、戦車や飛行機を作る予算を要求しているのではありません。米国を代表し、重要な交渉を行い、早期の警報の役割を果たす人たちを派遣することを要求しているのです。ほかの国と協力し、米国が行う投資に対して持続可能な成果を挙げ、生活水準を引き上げ、その結果として、安定と、望むらくは民主主義の種をまくことができるような専門家を、現場に派遣することを要求しているのです。私たちは、それを強く主張しなければなりません。

 私たちは、既にその作業を始めています。これは極めて複雑な作業だと思います。この点について、私は幻想を抱いてはいません。また、バビットさんがおっしゃったように、ほかの多くの機関と調整しなければなりません。国防総省は、外交や開発と呼ぶことのできる作業もしています。財務省や多国籍金融機関は、少なくとも開発には確実に関与しています。このほかにも、農務省、米国通商代表部など、多くの機関があります。そして私たちは、政府が一体となって行う取り組みについて説明したいと思っています。従って、国務省内での作業に加えて、ホワイトハウスと協力し、外交と開発における他のすべての利害関係者をまとめる努力をしていきます。

 軍隊による外交・開発活動に使われてきた権限と予算の一部を取り戻すために、私が国防総省および議会と突っ込んだ話し合いを行っている、と申し上げても、皆さんにとっては意外なことではないと思います。そうした権限と予算の移行が、国務省とUSAIDが困難な…ここ数年通常よりも困難な状況にあったことの多くの理由のひとつです。

 従ってこれは、政策手段であるとともに、私たちが達成できると考えていることを説明し正当化する活動でもあります。私は、これを制度化したいと思っています。ハワード・バーマン議員がこれを法制化する可能性があります。ですから、これは単発的なものではなく、また私が国務長官だから実施するものでもなく、国務省とUSAIDが4年ごとに同様の厳しい分析を行うことを義務付けるものとなります。

ハース会長 それでは、一番後ろの方。どなたか分かりませんが、その男性の方、どうぞ。

 戦略国際問題研究所のスティーブン・フラナガンです。

ハース会長 ああ、フラナガンさんでしたか。

 私の質問は「配当」について、つまりオバマ政権は、同盟関係を尊重する姿勢を改めて示すことによって、どのような利益を得ているのか、ということです。オバマ政権が提案する戦略の転換と、一般的には同盟関係を改めて尊重する姿勢を、米国のNATO同盟国の多くが歓迎しているのは確かですが、率直に言って、ストラスブルグとケールで行われたNATO首脳会議での反応は、軍、民間を問わず、少し熱意に欠けるものでした。オバマ大統領は、これを「手付金」に例え、今後さらに支払いがある、と述べていますが、いまだに一部の同盟国からは、オバマ政権の戦略のうち民間の側面がまだ十分に練り上げられていない、という不満が聞かれます。

 そこで、お聞きしたいのは、どこから…米国の同盟国が2回目、3回目の支払いをしてくれるとお考えですか。また、現在の状況について簡単に説明していただけますか。アフガニスタンに新たに人員を、米国が民間人を派遣するとおっしゃいましたが、米国の同盟国やほかのパートナー諸国はどうなのでしょうか。

クリントン長官 私も、あのときの反応が「手付金」であるという点では同意します。私は、おそらく一部の人たちよりも、この成果を高く評価しているかもしれません。このプロセスから締め出された、あるいは自らの貢献が十分に評価されなかった、と感じていた同盟国を説得することがいかに困難だったかを知っているからです。多くの巻き返し作業が必要であり、それは私たちの総合的な戦略見直しの一部でした。リチャード・ホルブルック特別代表がここにいらっしゃいますが、彼は、関係省庁で構成されるチームのほか、国際チームも結成しました。私たちは、国際治安支援部隊(ISAF)に参加する同盟国、そして大統領が提案した戦略の促進に参加することを望むその他の国と、集中的な話し合いを続けています。

 今は、誰もが直面している世界的な経済危機によって、状況は難しくなっています。米国内でもそうですが、アフガニスタンに派兵して8年近くもたつのに、今また増兵し、予算の増加と、さらに多くの民間人の派遣まで要請しようというのか、という声に対して、理解を求めるのは難しいことです。つまり、私たちは、自国内のこうした疑問に答えなければなりません。皆さんもご存じのように、英国のブラウン首相は…英国は8人の兵士を失いました。しかし英国政府は、アフガニスタンで米国をはじめとする国々を支持することがなぜ重要なのか、ということを国民に伝え始め、その結果、私の知る限りでは予想以上に肯定的な反応を得ました。恐れや不安を鎮め、今後の進路を明確に示そうとする意志がなければならないからです。

 民間人についてですが、これはジャック・ルー管理・資源担当国務副長官が、ホルブルック特使とそのチーム、USAID、その他関係者全員と協力している分野のひとつであり、私たちは、志願者の数に勇気付けられています。しかし私たちは、米国が重点を置く分野を限定しています。例えば、私が挙げた農業です。アフガニスタン国民の70%は農村地帯に住んでいます。アフガニスタンはかつて、「中央アジアと南アジアの庭園」とも言われていました。それが、ソビエトの侵攻とそれに対する抵抗運動、そして後には軍閥への抵抗運動によって、今日のアフガニスタンの土地はむしばまれ、乾き切っています。アフガニスタンの農業基盤全体を再活性化しなければなりません。従って、私たちはそこに重点を置いています。米国が、すべての人々に、すべてのことを約束するわけではありません。むしろ、私たちは、米国が重点を置くことのできない分野に同盟国が力を入れることができるように、同盟国と協力しています。

 これは、とても複雑な問題です。本来の趣旨は、現在、米海兵隊が南部で行っている一掃と確保を可能にすることです。また、人々に安全を提供し、市場その他の日常の活動手段を取り戻し、現地に赴き地元の人々とさまざまな分野で協力することです。例えば、アフガニスタンの警察の訓練ですが、これには集中的に取り組むつもりです。また、農業や、そして言うまでもなく、私が国務長官なので、女性の問題、そして女性の役割と機会の問題にも取り組みます。

 私はここで、米国がしなければならないすべてのことを知っているとも、すべての同盟国が約束を果たしてくれる、とも言うつもりはありませんが、軍事資源から、民間および開発資源へと移行する政治的または経済的圧力を感じている人たちの存在に勇気付けられています。そして、私たちは、現在実行している戦略に直接関連する計画を立てることができた、と思います。

ハース会長 リーバー教授。

 ジョージタウン大学のボブ・リーバーです。やさしい質問に続いて、少し難しい質問をさせていただきます。ジミー・カーターからロナルド・レーガン、そしてビル・クリントンまで、歴代の大統領がイランに働きかけ、拒絶されてきました。はっきり言って、すべての大統領がそうした体験をしています。イランは20年にわたり、さまざまな条約の義務の遂行を怠ってきました。イランがこれらの構想に肯定的な反応を示さない場合、そして米国の友好国・同盟国およびロシアや中国を含むその他の国々が、本当に意味のある制裁措置を支持する準備ができていない場合には、どうなるのでしょうか。オバマ大統領は、選挙運動中あるいはその直後に、米国はイランの核保有を容認する意志はない、と述べています。そこで、私がお聞きしなければならないのは、オバマ政権は核武装したイランと共存する準備ができているのか、という点です。

クリントン長官 私が先ほど申し上げたように、また、教授が正しく引用された大統領の言葉のように、私たちは一貫して、イランの核保有を容認することはないと述べています。それは、地域だけでなく世界全体にとって大きな脅威である、と考えています。

 しかし、お分かりでしょうが、私がここに座ってイランと交渉することはしません。私が弁護士として、上院議員として、あるいはその他の何らかの立場で関わってきた交渉のほとんどでそうだったのですが、明確な目標を持って交渉のプロセスを開始すれば、何が可能で何が不可能かということがより明確になると思います。私たちは、この問題について幻想を抱いてはいません。しかし私は、米国がこれまでのほぼ8年間イランとの交渉に参加してこなかったのは間違いだったと考えています。私が思うに、米国は、自らの政策の策定をイランに委託し、その結果は、率直に言って、あまり良いものではありませんでした。それが私の見方です。私は、この交渉の中心に身を置き、米国自身の判断を下すことができるようになること、そして米国が知っていることと知らないことを明確にして、ほかの国々に対して強い立場に立つことを望んでいます。

 関与、すなわち直接関与することの魅力のひとつは、自らの判断を下すことのほかに、自ら判断したことを他者に向けて示し、どのような反応を得たかを明らかにできることだと思います。それによって、協調行動の下地がつくられると思います。事実、過去6カ月間、ほかの国々と交渉を重ねる中で、私は、一部の国が態度を変化させたことに気付きました。それは、イランの行動を懸念する必要があるのは米国だけではなく、米国よりずっとイランに近い国々も影響を受けるのだということを認識したからです。

 ですから、私が先ほど申し上げたように、米国の政策は、米国の国益に最もかなっていると私たちが考えているものです。私たちはこの政策を追求するつもりですが、もちろん、話し合いの結果によっては、もちろん途中でも交渉をやめます。

ハース会長 最後にもうひとつ質問を受ける時間があると思います。スタン・ロスさん。

クリントン長官 ロスさん、こんにちは。

 こんにちは。お会いできてうれしいです。

クリントン長官 私もです。

 もう少し詳しくお聞きしたいのですが…。

クリントン長官 マイクが回ってきました。

 ボーイング社のスタンリー・ロスです。長官が講演の終わりの方で述べられた、経済問題に関して国務省が取る、政府が一体となっての取り組みについて、さらに詳しく説明していただきたいと思います。特に、米国の景気回復に取り組むに当たり貿易が果たす役割についてですが、長官がおっしゃった自由貿易協定以外に、貿易に関して最終的にどのような状況になることが望ましいとお考えですか。また、輸出が景気回復計画の重要な要素となることは明白です。商業支援に関して、長官ご自身と国務省の役割はどのようなものだとお考えですか。米国の企業が外国で厳しい環境に直面することもあります。

クリントン長官 ご存じのように、商業支援は、私たちの責任のひとつであり、私はこれに極めて真剣に取り組んでいます。しかし、ここで1歩下がって、外交政策の経済的な側面における国務省の役割について、より広い視点から見てみたいと思います。

 貿易は、経済的なツールであるとともに外交政策のツールでもある、と私は見ています。そして、私たちは今、貿易政策を厳しく見直している最中であり、貿易に関して連邦議会と米国民をより効果的に説得するにはどうすればよいかを見極めようとするの同時に、世界に対して、米国は貿易国家であり、それを望んでいることを明確に示しています。

 しかし、今は、外交政策の経済的な意味合いが、国家間の関係の一要素として非常に重視されています。G20が、ますます重要性を増しています。 覚えていらっしゃることと思いますが、G20は、1998年にアジア金融危機の結果として発足したものであり、今も重要な存在であり続けているのは、それが非常に有用な目的を果たしているからです。以前なら歓迎されなかった人々、あるいは米国や英国等と同等に見られなかった人々などが一堂に会しています。

 従って私は、国務省の経済政策の役割を強化する必要があると考えています。私たちは、財務省と密接に協力しています。国家経済会議とも密接に連携しています。ひとつ簡単な例を挙げましょう。ホワイトハウスでラリー・サマーズ氏と仕事をしているデービッド・リプトン氏が、つい最近、パキスタンを訪問しました。その目的は、IMFの基準を満たすパキスタンの能力と、同国が何を必要としており、現在どのような状況にあるのかを評価するためでした。これは経済的な分析でしょうか。それとも戦略的、政治的、あるいは安全保障面での分析でしょうか。私は、そのすべてであると考えます。ですから、外国との関係において経済が極めて重要な要素であるときに、私たちは経済のごたごたには関与しない、と言ってはいられません。私が、中国との対話を包括的なものにする努力をした理由のひとつは、戦略的課題と経済的課題を分けることはできないからです。

 ですから、こうした問題のすべてに関して、国務省は経済面でも役割を果たさなければなりません。そして、誰とでも対等に協力しています。もちろん、それぞれの見方も、管轄も異なります。それはよく理解しています。しかし、オバマ政権内部では、今、全員が総力を上げて、政府が一体となって取り組む時が来ているとの認識があります。誰に対しても、立ち上がって自らの役割を果たし、その役割を再定義し拡大することによって、できる限り効果的な参加者となることが求められています。これは、私たちが今負っている責任の一部にすぎないと思います。

 就任から6カ月が経過した現在、長官が最も感銘を受けたことは何でしょうか。最も驚いたことは何でしょうか。

クリントン長官 私は、国務省でもUSAIDでも、そこで働いている人たちの質の高さ、彼らの情熱と強い熱意、昼夜を問わず率先して長時間働こうという気持ちに強く感銘を受けています。これはご自身の経験からもお分かりだと思います。新しい政権の一翼を担うことに興奮しているのです。この政権は、世界中の大勢の人たちにとって非常に大きな意味を持ち、彼らの米国民に対する見方を確実に変化させました。ですから、私たちが準備を整え、活動を始めるまでの間、少し大目に見てくれているかもしれません。

 とはいえ、6カ月が経過してもまだすべての高官の任命が終わっていないことを正当化するのは難しいことだと思います。これは何とかしなければなりません。私たちは、とても仕事熱心な国務省職員たちと一緒に働く政治的指導者を任命すべく努力をしていますが、まだ完了していません。私は上院議員時代、指名された人たちに必ず多数の質問を浴びせていましたが、それがいかに近視眼的見方だったか、全く分かっていませんでした。

 これは驚くべきことです。もうひとつ当時の私には気がつかなかったことがあります。議員時代には、外交政策に関係のある問題が生じた場合、ほかの手段がすべて失敗したら、手紙を書いたものです。新しい軍縮・核拡散防止担当国務次官のエレン・タウシャーのように。私も、8年間の上院議員時代にたぶん何百通も手紙を書いたと思いますが、今私はそうした手紙を読まなければならない立場になりました。テーブルのどちら側に座っているかによって、事情が全く違ってくる、ということです。

 しかし、国務長官を務めることは、私にとって光栄であり名誉なことです。私たちの活動は変化を起していると思います。そして言うまでもないことですが、その変化を米国民にふさわしい成果につなげるために、私たちはできる限りの努力をしていきます。

ハース会長 ここにいる全員が、長官のインドおよびタイ訪問の安全と成功を願っております。そして、長官のお言葉を借りれば、本日長官をここにお迎えできたのは光栄であり名誉なことでした。ありがとうございました。

クリントン長官 ハース会長、ありがとうございます。皆さん、どうもありがとうございました。