
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2009年2月17日、東京
クリントン国務長官 どうもありがとうございます。この素晴らしい大学にお招きいただき大変光栄です。また小宮山総長の温かい歓迎の言葉、そして持続可能性や男女平等についてのお言葉に感謝します。
ここ東京大学で学生の皆さんと意見交換を行い、皆さんの考えや関心を寄せていることを聞く機会に恵まれたことをうれしく思います。また今年開催されるワールド・ベースボール・クラシックに向けて、既に練習が始まったこの時期に日本を訪れることができて喜んでいます。それで思い出したのですが、75年前にニューヨーク・ヤンキースの伝説的なメンバーが日本に遠征し、大変多くの熱狂的な観客を集めました。ニューヨーク州選出の前上院議員、そして生涯のヤンキース・ファンとして、1934年にベーブ・ルースという名の野球選手が来日したこと、そして現在、松井秀喜という名の野球選手がヤンキースでプレーしているという事実は、心躍るものであることを皆さんにも知ってほしいと思います。
今日は、野球以外のこともいろいろお話しするつもりで来たのですが、重要なことは、東大の学生の皆さん、つまり、既にここで学んでいる皆さん、数週間前に成人式を迎えた皆さん、この素晴らしい大学への入学を志して、今月入学試験を受ける皆さん、そして間もなくこの大学を卒業される皆さんが、特別な仕事にかかわっていると認めることだ、と思います。
この会場に来る前に数人の学生の皆さんと会う機会がありましたが、その際に聞いたことはとても印象的でした。国際関係や持続可能性の問題で貢献する道を模索する学生さんや、赤十字の活動で既に1年間、アフガニスタンで過ごした青年がいらっしゃいました。皆さんには多くのことを期待していますが、その一方で、皆さんの世代が数多くの深刻な問題と取り組まなければならないことをよく承知しています。今日ここに来た目的のひとつは、皆さんの考えを聞くことです。なぜなら私には、お互いの意見を聞くことから学ぶことができると強く信じているからです。また、それが、国務長官としての最初の外国訪問の目的のひとつでもあります。
今、私たちはめまぐるしく変化する時代に生きています。新しく就任した米国のオバマ大統領は、「変化」について語りました。変化は、私たちが好むと好まざるにかかわらず起きます。私たちにとっての課題は、変化のエネルギーをうまく利用して、これまでよりも持続可能性が高く、平和で、進歩的な、繁栄した世界のために変化を役立てることです。
すでに体験した変化について考えてみると、現在では、科学技術の進歩のおかげで、医師は何千キロメートルも離れた場所にいる患者を治療することができますし、学生は自宅のコンピューターで大学の課程を学ぶことができます。また、自動車は電気やバイオ燃料で走り、研究者は最も微細な物質の粒子を検出したり、宇宙のはるか彼方にある惑星を見ることができるのです。
しかし、技術の進歩が非道な目的に利用されかねないことも分かっています。大洋や大陸を横断する麻薬の密輸や人身売買を計画したり、ムンバイのテロリストたちのように、携帯電話を利用して、連携してテロ攻撃を遂行する、あるいは大量破壊兵器の売買や拡散を促進する、といったことです。
今、私たちは逃れようのない事実と向き合っています。地球規模の問題には、地球規模の解決策が求められており、これを自国だけで達成できる国はどこにもありません。私は、未来へ向かう私たちが必要とする、より多くの好ましい進歩を実現するに当たり、日米の協力関係が中心的な役割を果たす、と強く信じています。それでは、両国が協力して相互依存から生じる好機をとらえ、課題に取り組むにはどうしたらよいでしょうか。
私は、新たな地球規模のネットワークを構築したり、政府間の交流に携わるだけでなく、世界中の人々の知恵や常識にも依存する、スマートパワーについていろいろな話をしてきました。ここ日本や、インドネシア、韓国、中国では、公式会談のほかに、学生、市民活動家、宗教指導者、学者、実業家など、人権、優れた統治、医療制度、教育の機会、宗教的寛容、そして飢餓と貧困の撲滅の拡大を目指して努力する人々との対話を促したいと思います。
米国には、以前のように、他者の話に耳を傾ける用意があります。少し前まで、米国政府が世界各地の人々の異なった意見に耳を貸さないことがあまりにも多くありました。オバマ政権は、この状況を変えるつもりです。そして今日が、その長く建設的な対話の始まりとなってほしいと思います。スマートパワーを行使すると、私たちが住んでいる世界について現実的にならざるを得ません。私たちが地球規模の問題の原因となっていることを認め、解決策を見つけ出すために可能な限り熱意を持って取り組むことを決意しなければなりません。世界は、傍観者や目撃者としてではなく、積極的な参加者としての皆さんの力を必要としています。
特に緊急を要する3つの問題について少し触れたいと思います。第1は、金融危機です。日本や米国はもちろん、世界中の人々が経済的に困難な状況にあるときに、楽観的でいることは容易ではありません。魔法の杖のひと振りで、現在直面している危機を消し去ってしまうことはできませんし、問題が存在しないふりをすることも、もちろんできません。しかし、協力して取り組む方法を探し出すことは可能です。
米国では先ごろ、大変重要な景気刺激法案を可決したところです。今後は、住宅市場問題の是正と金融システムの再構築に取り組んでいきます。日本をはじめ他の国々も同様に、需要を活性化し、自国の経済を刺激する措置を取っているか、あるいは検討しています。これは重要なことです。全世界的が強調して対応することが必要です。競って貿易その他の障壁を設けている場合ではありません。開かれた、公正な貿易の推進に力を注いでいく姿勢を堅持しなければなりません。
しかし、そのためには、各国の指導者が国民のことに心を砕いていること、そして答えを見つけ出すために力を合わせて懸命に取り組むことを伝えて、自国と世界中の人々を安心させなければなりません。核拡散とテロの時代にある現在、安全保障は地球規模で考えなければなりません。日米関係は永続的で揺るぎないものですが、常に現在と将来の世代による行動が求められます。今日、中曽根外務大臣と私が「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」に署名できたことをうれしく思っています。中曽根大臣とは、両国が協力できるその他の分野についても広く議論しました。
北朝鮮とその核開発プログラムに関する話し合いもそのひとつでした。私は、オバマ政権が6者協議を通じてその問題に取り組む決意であること、そして北朝鮮が完全かつ検証可能な方法で核兵器プログラムを断念することを米国が主張していくことを明言しました。今日はまた、北朝鮮によって拉致された日本人のご家族2組とお会いすることができました。6者協議では、拉致問題も議題として取り上げます。
最後になりましたが、東大、そして小宮山総長が、持続可能性に力を入れていることを称賛したいと思います。つい先ごろ、温暖化が予想以上に急速に進んでいるという報告を受け取りました。私たちは、クリーンなエネルギー源を発見し、利用し、市場に出す努力を倍加させなければなりません。これを行うのは、自分たちの健康を守るためです。私たちの安全に必要だからです。このように新しいエネルギーの未来の実現に真剣に取り組むことで、新たに雇用を創出し、さらなる経済成長を促すことができるからです。また、環境のためになるからです。
日本の先見の明と指導力は称賛に値します。私たちが今いる建物は環境に配慮したものであり、それは東大だけでなく、日本全国でも見られる革新的精神の表れです。
また小宮山総長に対しては、地球環境工学の分野におけるご尽力と、私たちをクリーンなエネルギーの未来へと導く指導力に感謝します。2050年に向けた構想について総長が書かれた本をいただきました。総長や私がそれまで生きて、その構想を実現できるかどうかは分かりませんが、ここにいる大半の皆さんは生きていることでしょう。ですから、その構想が建設的なものであること、変化を起こすことを決意している世界が力を合わせて何ができるかを示す構想であるようにすることに、大きな利害関係があります。
こういったことはすべて課題ですが、私はそれをむしろ好機ととらえたいと思います。現在、おそらく多くの人が、楽観的でいられるはずがないと思っているでしょう。私たちが抱えている不安の多くは深刻で、生活の質、あるいは地球の存続にさえに深く関わっています。しかしオバマ大統領が就任演説で語ったように、困難な時にあっても、行く手に広がる道にしっかりと目を据え、現状を転換させるような決断ができる自由な人々に宿っている強さと個性を忘れてはなりません。誠実に取り組み、決意を翻すことなく、希望を失うことなく、賢明に努力すれば、私たち人間が直面しながら解決できない問題などありません。
私に分かっていることは、皆さんが個人的に、あるいは日本全体として向き合っている未来が、やがて日本の歴史になる、ということです。今日の私の1日は、朝、明治神宮を訪問することから始まりましたが、私の心を強く動かしたのはその歴史的、宗教的な意義でした。この素晴らしい大学では、過去から未来への変遷を象徴する赤門を通ってキャンパスへ入ります。皆さんは、この偉大な大学で受けた教育を利用して機会の門を通り、今よりも明るい未来が待つ世界の構築に貢献することができます。これは確かに私が信じていることであり、米国の新政権と米国から、わが国の友人へ、パートナーへ、そして同盟国へ伝えたいメッセージです。日米両国が助け合えば、この新しい進路を開く力となることができますし、そうすることが不可欠です。第1の経済大国である米国と、第2の経済大国である日本は、信念を持ち、創造力と回復力に富み、知的で、揺るがぬ決意を持つ国であってほしいと世界中から期待されています。そうなるか、ならないかは日本と米国次第ですが、両国なら大丈夫だと私は信じています。
皆さん、きょうはお集まりいただきありがとうございました。
さて、この後に話し合いの機会が設けられています。学生さん2人がマイクを持って待機していますから、手を挙げていただければ、彼らが順番に(聞き取り不能)。まずこの方から始めましょう。
問 素晴らしいお話をありがとうございます。とても心に響くお話でした。東大に来ていただき、お会いする機会を得ることができて光栄です。私は現在、大学院で人間の安全保障の研究をしています。私は長年の長官のファンです。
クリントン長官 ありがとう。
問 私の質問は、ビルマ、別名ミャンマーに対する米国の制裁についてです。ビルマに対して貿易や投資に関する制裁措置を科す米国の政策は、ビルマ国民が真に何を必要としているかをビルマ政府に認識させる結果になっていないようです。しかも多くの人が指摘しているように、この政策は米国産業界の利益に悪影響を及ぼし、ビルマ国民の生活の変化を促す新たな技術、労働条件の向上、発想をもたらしてくれる米国企業や多国籍企業からの投資が増加するという利益を、ビルマ国民が受けられなくなっています。私は、ビルマ国民として、米国政府と米国民がビルマ国民のことを心配し、ビルマにおける人間の安全保障の向上のために力を貸してくれていることに感謝しています。私の質問は、ほかにどのような選択肢があるか、ということです。つまり、政治的自由と経済の自由が効果的に促され、すべての一般市民がもっと自由に選択できるようにするために、ほかにどのような選択肢があると思われますか。
クリントン長官 大変良い質問だと思います。ビルマ国民に対する懸念から、米国は政策の見直しを行っています。どのような手段を取れば現在のビルマ政府に影響を与えることができるか、またビルマの人たちをより効果的に支援する方法についても模索しています。
先週ニューヨークのアジア・ソサエティーで行った講演でも言ったことですが、ビルマ国民やノーベル賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏が、自国で自由に生活できる日が来るのをこの目で見たいと思います。ですから、もっと効果的な方法がないのか、というあなたの疑問を真摯(しんし)に受け止めています。既に私は、ビルマ国民を強力に支持する多くの人たちと話し合いを行ってきましたが、みんなが口をそろえて、もっと良い方法がないか、探してみようと言っています。私たちは現在それに取り組んでおり、もっと効果的な政策が策定できることを願っています。
ありがとう。
問 お目にかかれて光栄です。工学部の学生です。今日は、便利なエネルギー源であると同時に、軍事技術への転用という潜在的危険があり、しかも核廃棄物処理が困難であるために賛否が分かれている問題である、原子力エネルギーに対する長官の考えを知りたいと思っています。この問題についてどのようにお考えですか。
クリントン長官 これも大変重要な質問だと思います。原子力に伴うジレンマは、確かに深刻です。ちょっと聞いてみたいのですが、皆さんの中で、原子力をもっと民生利用するべきだと考えている人がどれくらいいますか。そして原子力の利用には賛成でも、原子力の民生利用から生じる結果を心配している人がどれくらいいますか。
この問題の一端に、原子力は炭素を含まないエネルギー形態ですが、廃棄物の処理方法を見つけ出していない、という点があります。また、原子力発電所の建設には多くの費用がかかります。ですから、新しいエネルギーの未来の一環として、安全で、廃棄物をあまり出さない原子力をつくり出す方法を考え出すことこそ、東大工学部の学生が取り組むべき課題だと思います。
たとえ民生利用の原子力でも、北朝鮮のような、ならず者国家の手に渡ると、悪用される可能性があります。そのため民生用原子力の拡散の結果についても慎重に検討する必要があります。
広範囲にわたる民生用原子力に取り組む場合は、このような困難な問題があることを念頭に置かなければならないと考えています。中には、さらに多くの原子力発電所を建設しようと急いでいる国もあります。一方では、エネルギーの需用と、炭素の排出がゼロという現実を考えると、それは理屈にかなっています。しかし、世界中の最高の英知を集めて、悪用や廃棄物排出の可能性を生み出さないようなやり方で原子力を利用する方法を考え出す努力をしようではありませんか。それが皆さんの世代の課題ですから、工学部の学生にこれに取り組んでほしいと思います。なぜなら、この問題に対処するには、皆さんの知性が必要だからです。
問 法学部の3年生です。テロとの戦いを、西側諸国とイスラム世界の紛争に結び付けることがよくあります。イスラム世界に対する偏見をなくすための良い考えはありませんか。
クリントン長官 テロとの戦いを、イスラム世界に対する偏見やイスラム世界との紛争であると性格付けることは不公平だと思います。どの宗教にも、宗教を悪用する人は必ずいます。私はキリスト教徒ですが、何世紀にもわたり数多くの者たちが、キリスト教の名の下に恐ろしい行為を行ってきました。彼らは宗教を悪用しました。同じように、今世界で起きていることを見ると、イスラム教の悪用から、さまざまな計略を推し進めている過激主義者が生まれていることが分かります。
私たちには、好ましい変化を起こすために声を上げ、イスラム世界と協力し、世界中のイスラム教徒たちと力を合わせて過激主義者たちに立ち向かう責任があります。今日の世界には、これを実現することが大変困難な場所が数多くあります。それでも、確固たる意志を持って、困難を乗り越え、イスラム教徒と直接対話する方法を見つけ出さなければなりません。
先ごろオバマ大統領は、アラブ系テレビ局、アルアラビアのインタビューに初めて応じました。大統領は、世界最大のイスラム教国であるインドネシアで子供時代をすごしました。私も明日、インドネシアを訪れることになっています。オバマ大統領と新政権のメンバーが、あらゆる階層の人々に影響を及ぼすテロを防ぐ努力を決してやめることなく、イスラム世界に対しこれまでと違った立場を示す努力を一致団結して行っていることは、皆さんもお分かりだと思います。しかし、これは、美辞麗句や大衆扇動に陥ることなく、米国の立場や真の姿について判断することができる人々に聞いてもらえるように意思の疎通を図るにはどうすればよいか、という、私たちが直面している安全保障の中心的課題のひとつです。
過去10年間の米国の行動を見ると、ボスニア、コソボ、そしてアフガニスタンで、イスラム教徒を守るために戦争を始めたことが分かります。自国の若者を犠牲にして、イスラム教徒に降りかかるテロ、民族浄化、その他の恐怖を防ぐ努力をしてきました。ところが、イラク戦争によって、私たちの主張を通すことが難しくなりました。サダム・フセイン政権下ではあり得なかった選挙が平和裏に行われたにもかかわらず、ご存じの通り、その過程に問題が多かったためです。米国がイラクにかかわった理由は数多くあるのですが、イスラム世界だけでなく、世界の多くの人々からそれが間違いだったと受け取られています。ですから、米国が世界中の人々の権利を守るべく立ち上がること、そして過激主義者たちの主張に筋道を立てて反論するために、世界中のイスラム教徒の権利を守るべく立ち上がることを明らかにしなければなりません。偏見を生む考えや、テロリストを喜ばせるような態度をすべて排除し、過激主義者たちを孤立させる活動を始めることができると思います。
もうひとつ、大統領も言及していたことに触れておきたいと思います。過激主義者が存在する環境では、多くの場合、彼らの目的のひとつは、女性から教育の機会を奪い、彼らの社会で男女平等を実現しないことです。それが過激主義者の重要な方針のひとつなのです。そのため、私個人にとって、過激主義者との思想の戦いに勝つための闘争は、少女や女性の人間としての尊厳を認めることと大いに関係しているのです。ですから、その主張を行って、ほかの人々、特に他のイスラム教徒の人たちにも声を上げてもらい、一緒に同じ主張ができる機会を提供したいのです。
問 長官、どうもありがとうございます。参加させていただき、ありがとうございます。中国からの留学生で、大学院でサステイナビリティ学を研究しています。米国政府がいろいろな分野で指導力を発揮していることは、周知の事実です。そして、長官は先ほどのお話の中で、気候変動問題を取り上げておられました。今後の気候変動に関する交渉、特にコペンハーゲンで開催が予定されている国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)では、どのように指導力を発揮しようと考えていらっしゃいますか。どうもありがとうございます。
クリントン長官 ありがとう。今回のアジア歴訪の同行者の中には、気候変動担当特使もいます。気候変動問題は前政権下では軽視されてきたので、大統領と私は、この問題の優先順位を高めることにしました。そのため、コペンハーゲンへ向けた準備段階で交渉役を務める特使を任命したのです。
それだけでなく、もっといろいろなことを行いたいと思っています。各国が、同じ方向を目指しながら異なる手法を取ることができるような形で2国間関係を築く方法を見つけたいと思っています。中国の例を挙げてお話ししましょう。今週の終わりには、トッド・スターン特使と共に中国政府の担当者と会って、この問題について話をします。
中国は、自国民の生活水準を向上させるという目標を掲げています。日本や米国のような国に住んでいる私たちにとって、人々がより良い生活を送ることができるようにするということが大切な目標であるということに異論はないと思います。しかし、もし中国の人々が、米国や日本の場合と同じような工業化と成長の過程をたどったならば、炭素系物質の排出によって環境に過度な負担を強いることになることが分かっています。
米国は歴史的に見て、炭素や水銀などさまざまな有害物質の最大排出国です。ところが昨年、初めて中国が米国を上回りました。ここに、日本と米国が中国と連携して、中国が有害な開発パターンを避ける手助けをする機会が生まれたのです。ご承知の通り、日本はクリーンなエネルギーの分野では指導的立場にあるので、日本にとっては、中国と力を合わせてエネルギー効率の良い建物や乗り物をつくり出す良い機会であり、また米国にとっては、中国と協力関係を構築する良い機会なのです。
私が望んでいるのは、日本と米国が中国と協力して、開発を促すことができるようになることです。日本と米国が中国に向かってこう言ったとします。開発はしてはいけない。日米はもうすべて経験してしまった。日本と米国が大気を汚染してしまったから、中国はこれをきれいにしなければいけない。水も日米が汚染してしまったから、それも中国が浄化しなければならない。それができないなら、中国は低い生活水準に甘んじていなければいけない。このように言うことは不公平であるだけでなく、日本にとっても中国にとっても、また日本と米国にとっても建設的ではありません。
どの国も、分かった、そうします、とは言わないでしょう。それは考えられないことです。ですから、その代りに、私たちは、中国の人々の生活水準がこれからも向上し続けるように手助けしたいと申し出て、有害物質の排出を増やさず、同時に経済を発展させながら、協力できる方法を提示する必要があります。
日本で設計されたものを製造すること、クリーンなエネルギーのための国内市場を作ること、そして住宅やあらゆる種類の建物のエネルギー効率について考え始めましょう。私には、これが取るべき道だと思えます。なぜなら、もし中国とインドが、排出を規制し、これまでのような地球を傷つける行為をすべてやめる活動に参加しなければ、私たちは、自分たちで設定する持続可能性の目標を達成することはできないからです。ですから、私は先ほどのような米国、日本、中国の間の誠意ある協力関係を望んでいるのです。
はい、そこの若い女性、どうぞ。
問 自然環境を専攻しています。野球部にも入っています。でも、男子ほど強くありません。どうすれば長官のように強く(聞き取り不能)できるのですか。
クリントン長官 よく野球をしましたし、大勢の男の子たちとプレイしました。自分が希望する未来に向かう道を模索している若い女性から、自分は何を、どうすればいいのかと聞かれることがよくあります。家族的背景、興味や経験など、それぞれみんな違っているので、すべての人に当てはまる答えを見つけ出すことは大変難しいことです。ですから、最も大切なことは、自分自身に正直であること、自分の人生にとって大切で意義があると信じることを行うことです。
時にはそれが、皆さんの周りの誰もが皆さんに最適だと思うような道であることもあり、そうでないこともあります。時には、両親や友人が皆さんに望んでいたことと違っていることもあります。しかし、できる限り自分に正直であろうと努力することが大切です。そしてこの素晴らしい大学で勉強している皆さんは、世界中のどの女性よりも多くの選択肢に恵まれることになるでしょう。教育が自己実現と自己充足への鍵であることは、今も変わりません。これは若い男性だけでなく、女性にとっても言えることです。
世界中には、ただ生き残るだけで精一杯の人々がいること、また日本政府と日本の人々がアフガニスタンに建てた学校のことを考えてみてください。今日、私が見た統計によると、日本の皆さんは、アフガニスタンの子供たちのために500校もの学校を建てています。そしてそのうちの多くが女子のための学校です。現在アフガニスタンの一部には、女子が学校に通うことが危険な地域もあります。
数カ月前に、通学途中の少女がタリバンのメンバーに襲われ、酸をかけられるという恐ろしい事件がありました。そのうちの1人の、12歳か13歳くらいの少女がインタビューに応じているのを見ましたが、女子の教育を認めない過激主義者によって、彼女の容ぼうは損なわれてしまったのです。それなのに、その少女は、学校を続けたいということだけを訴えていました。
皆さんのような若い女性や、私自身は、母親や祖母の時代に比べ、より多くの機会に恵まれています。ですから、私たちが受けた教育を、自分のためだけでなく、社会のためにも使うことが大切です。私は多くの皆さんが立ち上がって、何を学んでいるかを話すのを聞きましたが、それこそ皆さんがやろうとしていることなのです。ですから、自分に正直になり、可能な中で最高の教育を受け、たとえ勝算が少なくても自分と自分の夢のために立ち上がってください。この点については私も実際に経験しましたが、皆さんが変化をもたらすことができると理解しています。身近な人々の人生に変化を起こすことができるのはもちろんですが、それをはるか超えて変化を起こすこともできます。皆さんが何らかの決断をするに当たり、幸運をお祈りします。そして時々野球をすれば、自由な発想をすることができるでしょう。
それでは、今度はこちらの人、どうぞ。
問 法学部の4年生です。日米関係を地域的な同盟から地球規模の協力関係に発展させる上で、どのような課題に直面していらっしゃるでしょうか。
クリントン長官 ありがとう。その問題に関するさまざまな可能性について、今日、日本政府の関係閣僚と議論を交わしました。この集会の後、麻生首相とも会談する予定です。麻生首相は、オバマ大統領が最初にホワイトハウスに招待する外国の指導者です。日本政府と日本国民の代表である麻生首相が、オバマ大統領と2月24日に会談を行います。ですから、米国が、両国の関係をさらに深く、広く発展させる可能性について真剣に検討していることは明らかです。日米安全保障同盟は、皆さんが生まれる前に成立して、来週(原文のまま)で50周年を迎えますが、両国は揺るぎない同盟を堅持しています。米国は、日本への攻撃を阻止し、米国が日本を支持し、日本を防衛する用意があることを明確に示すひとつの手段として、核抑止力を日本まで拡大しています。
私は今日、中曽根外務大臣と共に、米国海兵隊を沖縄からグアムへ移転する協定に署名しました。これは太平洋における軍事態勢を近代化するための取り組みの一環です。また、アデン湾の海賊対策で日米が協力できること、そして、日本が今アフガニスタンで行っているような、人々により良い機会を与えることでテロを防止する方法についても話し合いました。
日本は、世界中から人々を集め、日米両国にとって大変に重要な問題であるパキスタンへの支援について、最善の策を決定する会議を主催します。日本は、中東でパレスチナ人を支援する活動を行っています。日本はアフリカの開発を援助しています。緒方(貞子)元国連特使と会って日本が供与している開発援助について話をしました。ですから、日本は既に、2国間ならびに多国間で他の国々と協力して行う活動に深く関与しています。私は、先ほど取り上げた、クリーンなエネルギー、効率性、気候変動に関する中国との関係をさらに進展させる新しい機会を探っているところです。
しかし、私たちが創造力を発揮できる方法がたくさんあると思います。学生の交流プログラムが数多くあります。この対話集会が始まる前に会った学生の中には、米国の大学院に行くことを考えていると言う人もいました。日本と米国の間には、フルブライト交換留学制度やJETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)など、長い歴史を持つ、非常に充実した教育交流プログラムがあると思います。良い機会はたくさんあります。
特に、両国の若者が、開発プロジェクトやクリーンなエネルギーのプロジェクトで一緒に仕事をすることができる新しい方法を探す必要があります。それは、日米の政府間の関係が深まるにつれ、それを政府レベルでとどめてしまうことなく、あらゆるレベルまで浸透させていくことが何よりも重要だからです。私は、日本が世界各地で行っていることをもっと多くの米国人に知ってもらいたいと思っていますし、両国が協力してできることについて、あらゆる方々と対話していきたいと思います。
この国務長官として初の外国訪問に出るに当たり、私は、政府関係者との会談も大切ですが、外に出て行って、国民の皆さん、特に皆さんのような若い人たちと話すことが同じように重要であると明言してきました。ですから、これからは創造的手段を探していくことになるでしょう。良いアイデアがある人は教えてください。なぜなら、プロジェクトは数多くあると思いますし、良いアイデアは政府の枠を超えて出てくるものだと思うからです。皆さんからの意見も歓迎します。
問 長官、どうもありがとうございます。経済学部の4年生です。先ほど、最も重要な問題のひとつに金融危機との戦いがある、とおっしゃいました。米国は、この金融危機を解決する上で、基本的にどういうことが日本の役割であると考えていますか。2番目の質問は、長官が日本の学生に希望することがありますか。どうもありがとうございます。
クリントン長官 良い質問ですね。ありがとう。この金融危機が日本にとってどれほど深刻であるか、私も承知しています。過去数十年にわたり、日本経済成長の大部分は輸出によって支えられてきました。また、国の経済や労働力において、製造業が占める割合が比較的高くなっています。ですから、景気が悪化して、米国や他の国々で新車やエネルギー効率の高い電気製品、電子機器などを買うことができなくなると、日本はその影響をまともに受けることになります。
日本は世界第2位の経済大国ですから、日本政府は国内需要を刺激し、経済を多角化する方策を探していると思います。私は、そのやり方について助言を与える立場にありません。それを決めるのは、日本政府と日本国民の皆さんです。
しかし、ここでも創造的思考が必要です。今日お会いした日本政府関係者の1人は、日本にとって高齢化は好機なのだ、と言っていました。私たちが長生きするようになってきたのは良いニュースです。けれども、長生きするのであれば健康でなければいけません。社会に関与した形で長生きしなければなりません。この政府関係者は、「日本には、高齢者に提供することで、経済活動を生み出すことができるサービスが非常にたくさんあります」と言っていました。高齢化は雇用の創出、サービスの提供、需要の刺激を同時に実現することができるのです。
この点については、皇后陛下ともお話ししました。私は皇后陛下を個人的に非常に崇敬しており、大好きな方です。15年前に最初に会った時の思い出や、その時よりはお互いに少し年を取ったと言って笑い合ったのですが、これは社会が対処しなければならない問題だという話もしました。
一方で、これは経済的な好機でもあります。ではどのようにしたら良いでしょうか。
この点でも、日本が指導的役割を果たすことができます。ここ東大で開発中の、一人暮らしの高齢者の介助をするロボットについての記事を読んだことがあります。これは成長産業です。なぜなら、住み慣れた自宅を離れたくないと言う人がいるからです。このような人々が、人間あるいはロボットの介助を受けることができるのであれば、有益なことですし、雇用の創出にもつながります。
私が望んでいるのは、日本政府と日本国民がこの経済危機を乗り越えるための対策をじっくり考えて、新しいアイデアがたくさん生まれることです。米国ではそのために今、努力しています。クリーンなエネルギーに関しては、日本に後れを取っています。
オバマ大統領は景気対策法案で、エネルギー効率、よりクリーンな燃料で走る自動車や燃費の向上など、日本が米国に勝っているすべての分野で、私たちが多額の資金を使って一層の努力をするよう求めています。そうなると、日本の皆さんには別の分野で米国の先を行ってもらわなければなりません。
それは日米両国にとって良いことです。なぜなら、日米同盟を考えると、日本がすでに行っている分野をさらに発展させ、未経験の新しい分野に挑戦し、また米国が日本に追いついて競争できるように努力をすることで、経済活動が生まれ、経済が成長して繁栄し、再び収入が増加します。
確かに現在は難しい時期です。それは間違いのない事実ですが、それを機会ととらえようではありませんか。
あなたからの2つの質問のうち、ひとつにしか答えていませんが、よろしければ、こちらの方から最後の質問を受けたいと思います。よろしいですか。ありがとう。
問 来ていただいてありがとうございます。また大変心を打つお話をありがとうございました。法学部4年生です。私は男女平等や子供の権利についても関心があります。今年の春からコンサルティング会社に就職しますので、自分で勉強しておきたいと思っています。子供の未来や男女平等に関する仕事をする上で何か助言がありますか。
クリントン長官 子供の未来か、男女平等か、どちらに貢献するか、選択する必要はないと思います。なぜなら、女性は子供の人生に、子供を持つ選択をすれば自分の子供、あるいはその他の子供と関わることができるはずですし、そうする上で、男女平等を身を持って示すことができるはずだからです。
ところが、どちらか一方を選択しなければならないと考えている若い女性がたくさんいるようです。育児に力を尽くす一方で、独立した対等な職業人としての生活を送ることを可能にするためには、支えてくれる家族が必要です。しかし、社会には、女性がそのような選択をすることができるようにするためにすべきことが、もっとたくさんあります。なぜなら、現在の世界で可能な最高の人材を集めなければ、必要な成功を収めることができないからです。
家庭にいて子育てをする女性にも、仕事を持つ女性にも、まだ数多くの障害があります。それは個人の選択に任されるべき問題だと思います。私の友人には、専業主婦であることに非常に満足している人も、子供を持たずに正社員として仕事をすることに満足している人もいます。しかし今の米国では、ほとんどの女性がどちらもこなすようになるでしょう。子供を持って、家庭と仕事をうまく両立させることになるでしょう。
そして、家庭と仕事の両立が一層うまくいくようにするためには、社会が支援しなければなりません。なぜなら、現状ではほとんどの女性が、家庭と仕事の両方の責任を忠実に果たそうとして、まるで平均台の上に乗っているようにバランスを取っているからです。
私は、あなたがしようとしている仕事が、働く女性に対する社会、政府、そして企業の見方をいくらかでも変えることにつながればいいと思います。なぜなら、女性は携わっている仕事で判断されるべきだからです。そして、どこの社会でも、子供を持つことを断念することなく、仕事の世界に積極的に参加する女性を増やす余地が残されています。
これまで私は、母親であることは私にとって何にも増して大切なことであると、書いたり発言してきました。そして、母親であったことを大変誇りに思い、感謝もしています。一方では、娘を育てながら、長年にわたり仕事を続けてこられたことを大変幸運だったとも思っています。それは、仕事と子育ての両立がどれほど重要なことであるかを理解してくれた夫の助けがあったからであり、だから私は今日こうして、米国国務長官として皆さんの前に立つことができたのです。
ここにいる若い女性にも同じような可能性が開けることを願っていますし、これを可能にするために若い男性が貢献してくれることを願っています。そうすれば、日本は、この大学のこの会場に集っている方々に代表される、非常に優秀な知性の恩恵を余すところなく享受できるでしょう。
ありがとうございました。


大使のスピーチ・寄稿