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不在者投票制度

アラン・クラーク

アラン・クラーク
在日米国大使館報道室英語編集者。1996年に来日、2000年より和英翻訳者として働く。2005年より在日米国大使館に勤務。

 選挙の投票日に宇宙に行くことになっていたとします。そのような場合でも投票できるのでしょうか?メキシコに海外出張することになっていたら?フランスに留学中だったら?アフリカでボランティア活動をしていたら?南極大陸で科学調査に参加していたら?民主主義が正しく機能するためには、国民が投票権を行使できることが保証されていなければなりません。この目標を達成するために、日米両国では不在者投票制度1 が整備されています。

 日本では1998年に公職選挙法が改正され、2000年から、3カ月を超えて外国に居住する20歳以上の日本国民も、在外選挙人名簿への登録を済ませた上で国政選挙に参加できるようになりました。ただし、日本では住民登録制度があるために、当初は在外選挙人が投票できるのは比例代表選挙だけでした。しかし2006年の法改正により選挙区選挙でも投票できるようになり、2007年の参議院議員通常選挙で初めて実施されました。外務省によると、外国に居住する日本人有権者数は79万8000人に上りますが、最寄りの日本大使館で選挙人名簿に登録しているのは10万人強にとどまっているということです。外国に駐留する自衛官に対しては、2006年に国政選挙と地方選挙に投票する権利が認められました。自衛官の場合は、宿営地に臨時の投票所が設けられ、また南極に派遣されている隊員(海上自衛隊は長年にわたり、南極大陸およびその周辺地域で毎年3カ月間観測任務を行う南極観測隊に参加しています)は投票用紙を日本にファックスで送信することができます。

 米国では、不在者投票は年月とともに発達して、政治生活のひとつの特徴として広く受け入れられるようになりました。ほとんど象徴的ではありましたが、米国で最初に不在者投票が広まったのは南北戦争中(1861–65年)で、戦場にいる北軍兵士が連邦議会選挙に投票することが例外的に認められました。20世紀が始まろうとするころには、いくつかの州が、不在者投票の権利を一般市民へと拡大し始めましたが、まだ限定的であり、広く普及するまでには至りませんでした。第2次世界大戦中、軍人を対象にした不在者投票が恒久的な制度として確立され、大戦後には各州が次々と一般市民を対象に不在者投票制度を導入しました。その結果、1960年代の半ばには、不在者投票を全く認めていないのはニューメキシコ州だけになりました。ところが不在者投票の実際の利用率はまだ比較的低く、1962年の中間選挙の際、カリフォルニア州で不在者投票を行った有権者の数は全体のわずか2.63%にすぎませんでした。しかし2006年には、この比率は驚くほど増加し、41.54%になりました。

 不在者投票がこのように増加した背景には何があるのでしょうか?それは、郵送で投票できるという利便性と可動性です。不在者投票は、選挙日(常に火曜日に当たります)に家から遠く離れた場所にいるわけではない人たちにとっても便利です。郵送で投票できるということは、わざわざ時間を割いて投票所で並ぶ必要がなく、普段の仕事をいつも通り行うことができる、ということです。加えて外国に居を移す米国人がかつてないほど増加し、その数は約600万人と推計されています。投票に関する法律や規定は一般に州政府の管轄下にありますが、連邦政府は1986年に「軍人および海外在住者の不在者投票法(the Uniformed and Overseas Citizens Absentee Voting Act)」を成立させて、外国に居住するすべての米国市民に対し連邦議会選挙での投票権を保証しました。

米国の不在者投票制度では、投票所に行かずに投票することができます(写真 在日米国大使館)

 米国はまた、不在者投票について外国に居住する米国市民への啓発活動を行うために、国防総省の下部組織として連邦投票支援プログラム(FVAP)を創設しました。同プログラムのディレクターであるポーリン・ブルネリ氏は、世界中を飛び回って啓蒙(けいもう)に努めています。選挙法は州によって異なりますが、FVAPのウェブサイトから全米共通の登録用紙をダウンロードし、すべての必要事項を記入して、米国を離れる前に自分が最後に居住した地域の地方選挙管理事務所に郵送します。その後、登録者本人に投票用紙が郵送されるので、それに記入して返送します。FVAPによると、2004年の大統領選挙では、約600万人の在外米国有権者のうち半数以上が投票しました。

 米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士は、宇宙からも投票することができます。元NASA宇宙飛行士のリロイ・チャオ博士は、2004年に国際宇宙ステーションから電子メールを使って投票を行い、宇宙から米国大統領選挙に投票した最初の人物となりました。チャオ博士は、NASAのウェブサイトで、その重要性を次のように説明しています。「数年前にテキサス州議会は、宇宙飛行士の宇宙からの投票を可能にする法案を可決しました。ほんのひと握りの人たちのために、どうしてわざわざそんな面倒なことをしたのでしょう?

 それは、米国の指導者を選ぶという、この国がとても大切にしている権利を行使するために、国民1人1人に与えられた最も基本的で、しかも最も強力な手段が投票だからです」

 American Viewは、在日米軍横田基地の人事部部長秘書で、在日米軍の投票支援官でもあるフランク・マケボーイ氏に、在日軍人の不在者投票の状況について話を聞きました。マケボーイ氏も「投票は、米国市民の権利であると同時に義務でもあり、それは軍人も同様です」と述べて、市民が選挙に参加することの重要性を強調しました。在日米軍は、軍人の投票権行使を積極的に支援しています。

 マケボーイ氏は次のように説明してくれました。「ここでは投票支援官が、連邦はがき申請書(FPCAF)や連邦書き込み不在者投票用紙への記入や郵送を手助けするとともに、国、州および地方の選挙での有権者登録の方法について情報を提供しています。軍人の不在者投票は、FPCAFの異なる欄にチェックする以外は、手続き上、一般市民の投票とあまり変わりません」マケボーイ氏に、軍全般の投票率と在日米軍の投票率について聞いてみました。「米国選挙支援委員会によると、2006年の中間選挙時に、世界各国に駐留する米軍から請求された不在者投票用紙は11万9000票で、実際に投票された数は5万7000票でした。在日米軍だけの数字は分かりません」

 在外の米国大使館と領事館もまた、米国市民が、連邦および州の選挙での有権者登録と不在者投票を支援しています。在日米国大使館は、今年3月18日にFVAPワークショップを開催しました。ワークショップでは、米国市民が、国外在住のほかの米国市民の投票を手助けする投票支援官としての研修を受けました。また大使館のウェブサイトでは、米国市民向けに投票に関する詳しい情報を掲載しており、まだ有権者登録を行っていない人や、登録は済んでいるが不在者投票用紙を申請していない人はこのウェブサイトからFPCAFをダウンロードすることもできます。FPCAFに記入したら自分の州の地方選挙管理事務所の担当者に送付しますが、大使館と領事館は、この申請書を無料で米国に郵送する業務も行っています。申請が認められると、地方選挙管理事務所の担当者から申請者に不在者投票用紙が郵送されてきます。投票は、この用紙を郵便で返送して行います。投票関連書類の公証が必要な場合は、大使館や領事館で公証してもらうことができます。この場合も手続きは無料です。

 郵送で投票できることに加えて、在外の米国市民は、本国にいる米国市民と同じくらい活発に政治に参加することができます。民主党・共和党の2大政党にはそれぞれ「デモクラッツ・アブロード」と「リパブリカンズ・アブロード」という全世界的な組織があり、外国で暮らす米国市民が政治プロセスへの参加を続けられるよう支援しています。この2つの組織の日本支部には、それぞれ約1000人の会員がいます。各国の支部では、政治問題を議論する会合を開くほか、社交行事を催したり、慈善運動の資金集めをしています。この2つの組織の会員は、支持する候補者という点では意見が一致しないでしょうが、どちらの組織も共通して在外米国市民の投票支援に重点を置いて活動しています。「リパブリカンズ・アブロード」のシンシア・ディロン事務局長は、ウェブサイトAmerica.govで、「私たちの第一の使命は、在外米国市民が確実に有権者登録をするよう働きかけることです」と語っています。

 接戦となった今年の大統領予備選挙でも、外国で暮らす民主党員と共和党員には、州の予備選挙での投票権が認められていました。さらにデモクラッツ・アブロードの会員には、州の予備選挙では投票せずに、デモクラッツ・アブロードが行う国際予備選挙に参加するという選択肢も与えられました。この独自の予備選挙は、2万3000人を超える世界中のデモクラッツ・アブロード会員が参加して、2月5日から12日まで行われ、民主党全国大会に向けてバラク・オバマ氏が4.5人、ヒラリー・クリントン氏が2.5人の代議員を獲得しました。これらの民主党有権者は、世界に30カ所あるいずれかの投票所で投票できたほか、郵送、ファックス、あるいは今回初めてですが、ウェブサイトからの投票が可能でした。

 米国では、大統領候補の選挙運動の資金集めでも個人が大きな役割を果たします。企業は候補者の選挙運動に直接献金することが禁じられているので、候補者は個人の寄付に頼らざるを得ません。個人が1人の候補者に寄付できるのは2300ドルまでです。そのため、全米で選挙運動を展開する必要があり、多大な費用がかかる大統領選では、候補者は、支持者となってくれそうな人々をできるだけ多く取り込む方法を見つけ出さなくてはなりません。従来から行われている政治資金調達活動は、支持者を集めて行う高額な昼食会や夕食会に候補者が出かけて講演する、というものです。2008年の選挙戦で目新しいのは、候補者がより積極的に在外の米国市民にその支持を訴えていることです。共和党の大統領候補のジョン・マケイン上院議員が3月にロンドンで資金調達パーティーを行ったほか、民主党の大統領候補であるバラク・オバマ上院議員の妻、ミシェル夫人は2007年10月にロンドンで開かれた資金調達パーティーに、夫に代わって出席しました。またオバマ上院議員の国家安全保障政策アドバイザーのリチャード・ダンジグ氏は、4月に東京で行われた、会費250ドルの資金調達パーティーで講演し、オバマ氏の支持者たちとアジア政策について議論を交わしました。

 ワシントン・ポスト紙による連邦選挙委員会の記録の分析(本年4月22日同紙掲載)によると、このように、候補者が在外米国人有権者に対してかつてないほど積極的に支持を訴えたことが、候補者に大きな利益をもたらしました。11月の一般選挙までまだ9カ月もある2月末時点で、在外米国市民が今回の大統領選の候補者に寄付した金額は、すでに総額で280万ドルに上っていました。これは、2004年の大統領選時に選挙運動期間全体を通じて集められた資金の2倍を超えています。その約半分に相当する140万ドルがオバマ上院議員に対するもので、次いでヒラリー・クリントン上院議員が55万6300ドルを獲得しました。しかしワシントン・ポスト紙が指摘するように、在外米国市民の寄付に関するこれらの数字は、おそらく氷山の一角にすぎないでしょう。多くの在外米国市民が本国の住所をそのままにしているため、寄付をした人の住所として記録に残るのは多くが本国の住所であることに加え、2007年11月にビル・クリントン前大統領がアイルランドのダブリンと英国のロンドンで、クリントン上院議員のために選挙運動資金を調達するイベントを行い、わずか2回のイベントで70万ドル以上を集めたと言われているからです。

フロリダ州レオン郡の不在者投票用紙(一部)

 一般の米国市民と同様に、米軍の軍人も自由に候補者に寄付したり、選挙運動を手伝ったりできますが、制約がいくつかあります。前出のマケボーイ氏は、こう説明してくれました。「軍人は候補者に寄付することができますし、ボランティアで選挙運動に参加することも認められていますが、ボランティアのときに軍服を着ることはできません」。外国に駐留する軍人はどの程度選挙運動に携わるものかを尋ねたところ、「海外ではそれほど一般的ではありません。軍の施設で選挙集会やそれに類するイベントが開かれたのを見聞きしたことはありません」という答えが返ってきました。近づく大統領選挙に対して米軍の軍人がどれくらい関心を持っているか、という質問に対しては、次のように答えてくれました。「軍人も一般市民も選挙に対する関心は同じです。ただし私たちにとってはもっと身近な問題です。なぜなら次の米軍最高司令官を選んでいるからです」

 一方、インターネットのおかげで、候補者が世界中の支持者と意思の疎通を図ることが一層簡単になっています。オバマ、マケイン両陣営ともに支持者や寄付をしてくれる人々から電子メールアドレスを積極的に集め、候補者のテレビ出演や集会への参加予定などの最新情報を定期的に送信しています。今回の大統領選では、ネットワーキング・ウェブサイトの「フェースブック」が強力な政治ツールとして登場し、オバマ氏が他に先駆けて、大統領選挙運動をサイバースペースという新しい領域にまで拡大しました。9月初旬の時点で、オバマ氏の支持者として登録したフェースブック利用者は170万人に達しており、一方のマケイン氏は30万人強を獲得しています。さらに重要なことに、フェースブックなどのソーシャルネットワーキング・サイトを通じて、同好の士たちが団結できるようになっており、オバマ氏を支持する日本在住の米国市民の間でも、日本でのイベント開催を目標に掲げた市民活動グループが2つ誕生しています。

 インターネットは、在外有権者の政治プロセスへの参加を手助けする役割も担っています。今年の選挙期間中には、超党派の大統領選討論会委員会がソーシャルネットワーキング・サイトの「マイスペース」と組んで、www.mydebate.org というポータルサイトをつくりました。このサイトでは、有権者が、自分たちが関心を持つ問題の「スコアカード」を作ったり、オンラインで討論を行うことができますし、質問を提出して対話集会形式の討論会で候補者に聞いてもらうことさえ可能な場合があります。

 選挙戦も終盤に近づくにつれ、米国内にいるか、外国に居住しているかを問わず、米国市民の政治に対する関心はますます高っています。私たちが、長らく東京に住んでいる米国市民に話を聞いてみたところ、不在者投票と技術の進歩の重要性を、次のように話してくれました。「テクノロジーによって外国に住む有権者を取りまく事情は大きく変化しました。1996年の大統領選のときも、もちろん日本から郵送で投票することができましたが、私が関われるのはせいぜいそれくらいでした。ところが今回は、ユーチューブで討論を見られるし、支持する大統領候補者にオンラインで寄付できるし、色々なオンライン・フォーラムの討論にも参加しています。民主主義の鍵は参加することであり、今、米国外に住む有権者は参加しているという実感をより強く持てるようになりました。これは大切なことです。なぜなら米国の民主主義はすべての米国市民が享受するものであり、どこに住んでいるかは関係ないからです」


1 ここでいう「不在者投票制度」とは英語の「absentee voting」の日本語訳です。米国のabsentee votingは概念が広く、日本の「期日前投票制度」、「不在者投票制度(郵便投票、洋上投票など)」、「在外選挙制度」をすべて含みます。本稿で「不在者投票制度」という場合には、投票日に投票所へ行くことができない有権者が投票権を行使するための制度全般を指します。